第九十八話
『……お主はとんでもないやつだな。我に降伏させるとは』
フレイムドレイクはアタルの攻撃を思い出して呆れながらそう言った。
「そうは言うが、そっちも手を抜いていただろ? 最初から本気をだしていたら、この山頂エリア全てを燃やし尽くせばいいだけだからな」
アタルのぶっ飛んだ指摘にキャロとバルキアスはぎょっとする。
「あれ? 気づいてなかったのか? あれだけのサイズ、あれだけの魔力を持っていたらそれくらいは余裕でできたはずだぞ。それをしなかったのは、元々俺たちを殺す気がなかったのか、それともそれだけの攻撃を使うことができない理由があったかだな」
どうなんだ? とアタルがフレイムドレイクを見る。
『やれやれ、色々と見える眼を持っているようだな』
戦う前からアタルはフレイムドレイクの魔力の流れを魔眼で確認していた。保有している魔力量に対して、フレイムドレイクの攻撃はアタルたちでも容易に回避できる程度のものだった。だからアタルはそう予想したのだ。
「まあな、それでどういうことなんだ?」
『ふぅ……まず我とここまで戦えるようなものはこの辺にはいない。だからそれだけの力を発揮する必要がなかったのだ。それゆえにここにいたといえる』
一息つくとまずフレイムドレイクがここにいる、ここを動かない理由を話していく。
『そして、お主が言うように精霊は本来いるべき場所がある。そこから離れれば内包する魔力の低下が起こってしまう。それは全力で戦うことができない状態のことを指し示す』
「つまり、魔力が低下しているから本気を出せないということでしょうか? でも、魔力は大きいとアタル様が……」
矛盾することにキャロは首を傾げていた。
「まあ、あれだ。今は魔力が大量にあるが、俺らとの遊びで湯水のように魔力を使ったら回復する手段が乏しいってことだろうな」
『うむ、その通りだ』
フレイムドレイクは偉そうに頷いてはいるが、アタルたちと同格かそれ以上の相手が襲来した場合、しかも敵意を明確にもった相手だった場合に窮地に追い込まれることが想像できる。
「なあ、ここにいても魔力回復のあてはないんだろ? だったら、俺と一緒に来ないか? いく先々で魔力回復できる場所もあるだろうし、普段は俺の魔力を吸えばいい」
自分の魔力を吸わせると当たり前のように言うアタルにキャロとバルキアスは驚いていた。
「アタル様!? そんな危険なことを!」
『魔力なくなっちゃったらやばいよ!』
わたわたと二人が心配するのをよそにアタルはフレイムドレイクの目をじっと真っすぐ見ていた。
『わはは、やはりお主は面白いな。……よいだろう、お主についていくことにしよう。ただし、飽きたらどこかに行ってしまうかもしれんからな』
吹き出すように大きく笑うと、真剣な顔つきであくまでも自分に選択権があると主張するフレイムドレイクにアタルはまたもや楽しげににやりと笑った。
「あぁ、それで構わないが条件がある。契約魔法で俺と契約してくれ。それが連れて行く条件だ」
アタルの提言にフレイムドレイクは思わず唸ってしまう。
『うむむ、契約魔法とな。それは条件をどうするか次第だ。いくらお主が面白い者だとはいえ、我の行動を強制されるのは……』
「そうだなあ、だったら俺の仲間として契約するのはどうだ? 上下関係はなし。ただ、このパーティの動向は俺が基本的に決めるから、そのあたりは譲歩してもらわないとだけどな」
アタルが提示する条件にフレイムドレイクは再び悩んでいる。
「契約していないと万が一何かに巻き込まれた時に、身の証明ができないからな」
そんな様子を見てアタルはフレイムドレイクの背中を押すように言う。
「フレイムドレイクさん、アタル様とならきっと楽しい旅だと思いますよっ!」
『うんうん』
更にはキャロとバルキアスも追撃していく。そう言う彼らの様子からもアタルについていくことにデメリットはなさそうだった。
『……ええい! わかった、我も大精霊だ。こんなことでぐちぐち悩まずについていこう!』
「よく言った! それで、その前に相談なんだが……サイズ変更はできるか? 肩に乗れるくらいの大きさになれると助かるんだが」
嬉しそうに笑ったアタルは言葉では確認するが、できるよな? と心の中では思っていた。
『うむ、我も精霊だからな。身体のサイズ変更はできるぞ。……いくぞ!』
ぼわんと大きな煙が巻き起こり、それが徐々に晴れてくると、その中心にアタルが指定したサイズになったフレイムドレイクの姿があった。調子を確かめるためにパタパタと尻尾を動かしたり、首をひねったりしている。
「か……」
「か?」
「可愛いっ!!」
突如声を上げたのは小さくなったフレイムドレイクの姿に興奮しているキャロだった。そして、彼女は小さくなったフレイムドレイクを愛おしい気持ちをいっぱいにしてむぎゅと抱きしめる。
『む、や、やめんか!』
慣れない体験にフレイムドレイクはキャロのやや大きな胸の中でじたばたともがいていた。
「とりあえず、契約を済ませておこう。これの上に乗ってくれ」
アタルが用意した魔法陣の上に乗るよう指差すと、キャロは名残惜しそうにフレイムドレイクを魔法陣の上に乗せていく。ようやく解放されたことでフレイムドレイクはほっとしたように息をついている。
「さて、契約魔法の説明だが」
『知っている。早く終わらせてしまおう』
言葉を遮ったフレイムドレイクは契約魔法のことを知っているようで、急かすようにアタルが魔力を流すのを待っている。
「じゃあ行くぞ。……まずは魔力を流して」
『む、むむむ、この魔力は心地の良い魔力だ! 強力だが静かだ』
「“我、契約を施行する。汝、我が呼びかけに応え契約することを誓うか?”」
嬉しそうにしているフレイムドレイクの反応は無視して、淡々とアタルは契約魔法を履行していく。
『誓う、誓うぞ!』
心地よい魔力を受け取ったフレイムドレイクにもう迷いはなかった。そして、アタルとフレイムドレイクの身体が光を放つ。
「ふええ、外から見るとこんな感じなんですね……」
キャロは自分がバルキアスと行った契約魔法を初めて外から見たため、その様子に感動していた。
『うん、すごいね!』
こうしてアタルとフレイムドレイク、二人の契約は完了した。
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