第九十七話
「キャロ、真正面から相対せずに動いて攻撃をしてくれ。バルも同じだ、素早い動きであいつを翻弄するんだ!」
素早く放たれたアタルの指示に二人は返事を返さず、行動で示すように前へ飛び出していく。
「さて、こっちも動かないと」
好戦的な笑みを浮かべたアタルは銃をいつでも撃てるように準備して走り出す。
今現在、フレイムドレイクはアタルの動きに注目している。それは三人の中でアタルがもっとも強いと判断してのことだった。
「そうだ、俺の動きを追うんだ」
アタルはあえて視線を誘導し、キャロとバルキアスが動きやすいように隙を作らせる。
フレイムドレイクは背中に炎を揺らめかせていたが、それ以外の胴の部分や足には炎がなかったため、キャロたちが攻撃を加えることができる。
「堅い! でも、攻撃は通る!」
フレイムドレイクの防御力は高かったが、山登りで更に鍛えられたキャロの攻撃はなんとかダメージを通すことができていた。
『僕だって!』
バルキアスも同様であり、元々のフェンリルとしての力がここまでの道中で成長したため、キャロに負けじとフレイムドレイクにダメージを与えている。
『むむ、うっとおしいぞ……』
アタルを視線で追っていたフレイムドレイクは、足元をちょこまかと動き回ってちくちくダメージを与えてくる二人にいつしか注意をとられ始めていた。
「いいぞ、これなら」
その時を待っていたかのようにアタルは距離をとったところで銃を構える。装填した弾は強力な氷の魔法が込められた弾丸だった。属性を持つ魔物を攻撃するには属性武器であることが望ましいと考えていたからだ。
「……喰らえ」
ぼそりと呟くとスコープを覗き込み、鋭く弾丸を放つ。
その一発は外れることなく、フレイムドレイクに着弾する。そして、着弾点から氷が広がっていく。
『ぐっ、小癪な!』
だがフレイムドレイクも黙ってやられるわけではなく、身体に纏う炎を強く燃やすことでアタルの攻撃による凍結を融かしていく。
「わざわざ融かそうとするってことは、有効だってことだな」
そう言いながらもアタルは既に走り出して場所を変えていた。
氷を溶かしきったフレイムドレイクが再びアタルに視線を戻そうとするが、その場所には既にアタルの姿はなく、足元ではキャロとバルキアスの攻撃が続いていた。
『ぐううううう、邪魔だあああああああ!』
イライラが頂点に達したフレイムドレイクは、自分を起点に炎を巻き起こす。熱風と共に激しい炎が周囲に解き放たれる。
「きゃっ、逃げないと!」
あまりの熱さと炎にキャロが急いでその場から離脱しようとしたが、炎の勢いは彼女の足の速さを上回っている。
『キャロ様乗って!』
キャロの様子に気付いたバルキアスは駆け寄って彼女に背中を差し出す。子どものフェンリルだとはいえ、キャロを乗せるには十分な大きさのバルキアス。
「ありがとうございますっ!」
礼を言いながらキャロはすぐに背中に飛び乗った。
神獣であるバルキアスの移動速度はキャロが走るよりも速く、フレイムドレイクの炎からの離脱も可能な速度だった。
「いいぞバル! これも喰っておけ!」
好プレイを見せたバルキアスに向かってアタルはある弾丸を放つ。
アタルの言葉を聞いていたバルキアスはそれを攻撃だとは思わず、言葉のとおりそれに噛みついた。すると一瞬淡い光がバルキアスを包む。
『む、むむむ! 力が漲ってきたぞおおお! キャロ様、しっかり掴まっててね!』
「狙いどおりだな」
その弾は身体強化の効果を持っており、この場で使うのが最適だとアタルは判断した。
『アタル様、ありがとう!』
アタルの元へ無事にたどり着いたバルキアスから自然と礼の言葉が出た。彼の弾の効果を実感したからだろう。
「キャロ、あの状態になったら近接戦闘は厳しい。だから、水魔法であいつを攻撃してくれるか?」
「アタル様はどうなさるんですか?」
その問いを受けてアタルはバルキアスの顔を見る。
「バル、俺と一緒に行くぞ!」
『あいあい!』
アタルの呼びかけだけでバルキアスは何をするのかわかっているようだった。強化されたことで、頭の回転もよくなっているかのようだった。
愛銃片手にアタルはバルキアスにまたがって移動していく。
銃で攻撃するアタルは相手の攻撃を防ぐことはほとんどできない。そのため普段は自分で走って場所を特定させないようにしていたが、フレイムドレイクを相手にしている今はそれでは間に合わない。その問題を解消するのが、バルキアスへの騎乗だった。
アタルを乗せてもバルキアスは持ち前の膂力で素早さを損なうことなく動き回っている。
『ええい、ちょこまかと! これでもくらえ!!』
苛立つフレイムドレイクは単発的な攻撃ではなく、自分を中心とした周囲への範囲攻撃を行っていく。
「それは想定済みだ」
アタルは移動しながらかいくぐるように次々と止むことなく弾丸を撃ち込んでいく。着弾点はフレイムドレイクの足元。
『なんだと!?』
アタルが放ったのは氷魔法の弾丸、その合計は120発。連続で、しかもミスなく全て目的の場所へ命中させていた。
「まだまだ!」
だがそれでもまだ更に追加で放たれる弾丸。
『今度はなんだ!』
今度アタルが狙ったのはフレイムドレイクの背中。今度の弾丸は水魔法の弾丸だった。これは魔法によって生み出される水であり、特殊な効果を持っていた。
『こんな水をかけられた程度で……ふん!』
背中の炎を更に強く燃焼させることで、水をかき消す方法を選ぶフレイムドレイク。
だがアタルは罠にかかった獲物を見るようににやりと笑っていた。
「その水は、蒸発しない」
アタルの言葉のとおり、彼の放った弾丸により生まれた水はフレイムドレイクの背中の炎に触れてもなぜか蒸発しなかった。炎に触れて、炎を消化していくが、水が蒸発することはない。
その光景に外で見ていたキャロは驚いていた。彼女の使った水魔法は蒸発しているのに、アタルの水はそこに存在し続けていたからだ。
『こ、これは一体!?』
足元を氷漬けにされ、背中には不滅の水が浮いている。成すすべのない状況にフレイムドレイクは焦りを隠せなかった。
「さて、まだやるか?」
『わ、我がこの程度で……』
悔しげにフレイムドレイクが言い終わる前に、アタルは更に追い打ちといわんばかりに数十発の弾丸を撃ち込んでいく。
「まだ、やるのか?」
『ま、待て、そろそろ終わりにしよう。お主たちの力は十分見せてもらった』
ストップをかけたフレイムドレイクの言葉を聞いてもアタルはいまだ銃を構えたままでいる。その答えは彼の望むものではなかったのだろう。
「それで……どうなんだ?」
『……わかった! 武器を引け。我の負けだ、お主たちの望みを聞こう』
言質をとったとアタルはにやりと笑い、銃弾の効果を消して銃をおろした。
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