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第九話


 グレインいわく、冒険者ギルドとは元々は各国の協力によって設立された団体だったが、その後各国の思惑に縛られない独自の機関として独り立ちしたとのことだった。

 ギルドでは、各ランクに合わせて依頼があり、それを各自で受けて達成すれば報酬がもらえるというものだ。

 その話を聞いて浮かんだ疑問をアタルが口にする。


「それで、ランクがあがることにメリットはあるのか?」

「難しい依頼を受けることもできるようになるし、買取金額の上乗せもあったはずだ。あとは、そうだね……名誉という部分が大きいかもしれない。ランクが高ければそれだけ周りからすごい人物だとしてみられるし、貴族や王族からの依頼なんてものもある。これは大抵報酬が破格のものになることが多い」

 グレインの話を聞いてアタルは一つ気になることがあった。


「なあ、その貴族とか王族の依頼っていうの……断れるのか?」

 いいところに気付いたとグレインが人差し指を立てて答える。

「それだ。そこは昔から何度か問題になっていたんだよ。結論から言うと、断ることはできる。それに対して文句を言ってくる者もいたことはあるけど、それを昔のグランドギルドマスターと呼ばれる冒険者ギルドの総長が断固断って、文句があるならそこの国からギルドを撤退すると言い放ったんだ」

 この話をグレインはわくわくした表情でまるで演説するかのように語っていく。ギルドに所属する者なら一度は聞いたことのある逸話なのだろう。


「その様は今でも語り草になっているくらいだ。それ以降は貴族も王族も強くでることはできなくなったということさ」

 グレインは冒険者よりの考えが強いらしく、そのことを誇っているようだった。

「なるほど、それなら冒険者が割を食うことはなさそうだ。キャロはどうだ? 冒険者になるのをどう思う?」

「えっ、わ、私ですか?」

 急に話を振られたキャロは驚いてどもってしまう。まさか自分に聞かれるとは思ってもいなかったようだ。


「そうだ。キャロ、世間的な立場としてのお前は俺の奴隷だけど、俺は旅の相方として考えている。だから、お前の考えを聞かせてもらいたいんだ」

 アタルは戸惑っているキャロの目を見てそう言った。その目に嘘偽りなどなく、キャロの意思を尊重したいという気持ちが強く感じられた。


「わ、私なんかでお役に立てるかわかりませんが……私は冒険者に悪いイメージはありません。中には乱暴な人もいるでしょうが、立派な職業だと思っています。お金も稼げますし、戦う力さえあれば今の世の中では最も稼げる仕事だと思います……」

 キャロは自分の考えを口にしたあと、余計なことを言ってしまったのではないかと最後には口に手をあててもごもごとしていた。まだ自分の考えを言うのが慣れていないといった様子だ。


「なるほどな……それじゃ、冒険者ギルドとやらに行ってみるか。キャロは戦えるのか?」

「いえ! はい!」

 再び話を振られて、慌てた返事はどちらの意味にもとれるものだった。緊張しすぎているのか背筋と長い耳がピンと伸びて固まっている。


「あー、えっと、それでどっちなんだ?」

「あ、あの、戦えます!」

 再度優しく問われれば今度の返事は肯定するものだった。


「アタル殿、獣人は基本的に身体能力が高い。だから、この子もそれを活かせば戦えるはずだ。最初のうちはアタル殿がフォローすれば、徐々にその力も強くなるだろう」

 この世界では魔物を倒すと、その魔力を吸収することができ、力が強くなると言われていた。グレインの話からも恐らくそうやって経験を積み重ねればキャロもうまいこと戦えるように成長していくだろう。


「あー、そういえばそうだな」

 アタルはその理由を神から説明されていた。ゲームでいう経験値のようなものがあり、魔物を倒すことで能力が、つまりレベルがあがるという話だった。


「じゃあ、まずは宿を探すこと。次にキャロが戦うための装備を用意しよう」

 そう決断するとさっそくアタルは立ち上がる。

「も、もう行くのか?」

 もう少し留まっていくものだと思っていたグレインは中腰になって慌てて声をかける。


「あぁ、こういうのは早いほうがいいからな。キャロ行くぞ」

 一つ頷いたキャロもアタルに続いてぴょこんと立ち上がる。

「そうか……私もアーシュナもギールもアタル殿をいつでも歓迎する。何か困ったことがあればいつでも気兼ねなく相談に来てくれ」

 それはグレインの本音であったため、アタルも素直に頷いて返した。


 その返事ににこりと笑顔を見せたのち、パンパンと誰かを呼びつけるようにグレインは手を叩く。

「お客様のお帰りだ。お見送りをするぞ」

 すぐに現れたのはギールだった。執事服に身を包んだ彼は穏やかに微笑んでいる。

「アタル様、またいらっしゃって下さい」


 ギールはそう言ってお辞儀をすると、館の入り口まで同行した。

「それじゃ、グレインにギール。見送りありがとうな。また何かあれば、助けてもらいに来るよ」

「娘と使用人の命の恩人だ。恩は返しても返しきれない、何度でも頼ってくれ」

 アタルの言葉は半分本気、半分冗談で言ったがグレインはそれを約束として捉えていた。

 

「ははっ、そんなに気にしなくていいのにな。金はもらったし、キャロと出会えたのもあんたたちのおかげなんだからな」

 アタルとしては十分な報酬を受け取っているため、これ以上甘えるのはできるだけ避けたいと考えていた。キャロの肩を引き寄せて苦笑交じりにその申し出をやんわりと断った。

「領主のご息女を助けられたのは、相当なことなのですが……そういうところがアタル様らしいのでしょうね」

 ギールもアタルのことを気に入っていたため、あまり深追いすることなくそう口にした。


「なんにせよ、まずは宿だな」

 ここにずっといるわけにもいかないので、とりあえず街中に向かおうかと考えたアタルは踵を返す。

「アタル様、街の中央に向かうと大きな建物が見えます。そちらが冒険者ギルドです。そこの近辺にいくつか宿屋がありますので、まずはギルドを目指すのがよろしいかと思われます」

 ギールは目的の場所に向かうためのアドバイスになればとその背に声をかけた。


「わかった、ありがとうな」

 一度振り返って礼を言うと、今度は足を止めずに館をあとにした。

 キャロも二人に向かって深いお辞儀をすると、小走りでアタルのもとへ向かった。


「キャロ、大丈夫だったか?」

「は、はい、大丈夫です。領主様の館に向かうなんて驚きましたが……アタル様、やはりお強いんですね」

 彼女は領主の娘の命の恩人ということから、アタルが強いという結論に至ったようだった。ぐっと拳を作ってにっこりと笑顔を浮かべている様子は愛らしい。


「そういえば、外にはキャロの治療に行っただけで俺が戦ってるとこは見せなかったな。色々準備が整ったら俺の戦い方を説明するよ。俺のは少し特殊だからな」

「あの時のアレですね」

 キャロは何とは明言せず、自分を治療してくれた時のことを思い出し、イメージしたアタルのスナイパーライフルを口にした。


「あぁ、あの時のアレだ」

 穢れのない無邪気な笑顔を見せたキャロにアタルは笑顔でその頭を撫でていた。

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