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第八話


「うぅ……」

 ようやく泣きやんだキャロは顔を恐る恐るあげる。何もわからないまま連れてこられて治療してもらったものの、さっそく大泣きして主人である彼を困らせてしまったのではないかと不安に襲われたのだ。

「落ち着いたか?」

 アタルは頭から手をどかして、キャロの顔を覗く。彼女はすっかり泣きはらした顔でこくりと頷いた。


「それじゃ、身体の状態の確認をしたい。立ってくれ」

 ゆっくりと立ち上がったキャロは自分の体の具合を確かめるようにそっと足踏みをし、手を動かし、くるりと一回転する。怪我が全て治ったことで彼女の容姿が明らかになった。


 身長は140センチそこそこなのは変わらず、髪の色は灰色で、耳の形が明らかになったことでわかるようになったのだが、その長い耳の特徴を持つ彼女はウサギの獣人だった。身長に似合わず、やや大きな胸が特徴的だった。

「あの、えっと、ありがとうございます」

 長い耳を揺らしながらはにかんだ笑顔でアタルに礼を言う彼女は美少女という言葉がピッタリだった。


「……あ、あぁ、気にするな。主人として当然のことだからな。それよりも身体でおかしい部分はないか? 動かしづらいとか、痛みがあるとか。ちなみに顔の火傷は消えてるから安心しろ」

「ほんとですか!」

 キャロは自分の顔に消えない傷となって残っていた火傷が消えたことに喜びつつも、ぺたぺたと自分の身体を確認していく。


「大丈夫みたいです、痛い場所も、動かしづらいこともないです」

「そうか、ならよかったよ……改めてよろしくな」

 そう言って手を差し伸べると、キャロもおずおずと握り返した。今度は二人とも右手で、その手を握るとはにかむようにキャロは微笑んだ。


「それで、色々と話したいこともあるんだが……ここじゃ落ち着かないから、街に戻るぞ」 

「わかりました! アタル様!」

 アタルが先行して進み、キャロがそのあとをちょこちょことついて行く形になった。身長のせいで歩幅が合わないかとアタルが気遣ったこともあってその間は程よい間隔を保っている。


 街に戻ると、今度は別の意味での好奇の視線にさらされることとなる。街行く人々がチラチラとこちらを見ているかと思えばひそひそと顔を寄せ合って話している様子が見えた。

「ア、アタル様、なんか私たち見られていませんか?」

 キャロは獣人であるがゆえの元々の気配に対する鋭さに加えて、今までの環境が環境だっただけに人の視線に敏感だった。


「気にするな」

 彼らが見られている理由は二つだった。キャロという美少女を連れていること、そして彼女を連れているのが先ほど街中を奴隷を抱いて走り抜けて行ったアタルであるということだ。


 しかし、こういうものは反応するとより一層視線が集まってくるとわかっているので、何を気にするともなく歩みを止めなかった。主人である彼が気にしていない様子を見せているからか、キャロはなんとかやり過ごそうと気を持ち直す。

「あ、あのアタル様。どこに向かっているのですか?」

 だがやはりどうしても気になるのか、気を紛らわすためにキャロは質問した。


「領主の館だ」

「えっ?」

 どこかの宿屋か服屋だと思っていただけに想像もしていなかった言葉を耳にしたので、キャロは間抜けな声が出てしまう。

「まあ、気にするな。行けばわかる」

 そんな言葉が返って来たため、キャロはそれ以上は聞かず、頭の中でどういうことなのかぐるぐると考えを巡らせていた。


 そうこうしているうちに、彼らは領主の館に辿りついた。衛兵が門のところで二人立っていた。

「よう、グレインとギールに会いたいんだけど」

「これはアタル様。承知しました、少々お待ち下さい」

 領主の家の衛兵に対して横柄な態度のアタルにキャロは驚くが、衛兵はアタルがアーシュナの命の恩人だと聞かされているため、そのことに嫌な顔一つせず中へ報告に行く。もしかしたら自分の主人となったこのアタルという男はどこかの偉い人なのかもしれないとキャロは考えた。


「あ、あのこれは……」

 どういうことなのか? と質問しようとするキャロの頭をアタルが撫でることでその質問は中断させられる。最初の時からそうだったが彼の手は大きくて温かく、そしてとても優しい。

「色々は中で説明するよ。それまで待ってろ」

 笑顔のアタルに今は言えないことなのだろうと察したキャロは黙って頷いた。名の知らぬ武器を突き付けられてアタルを信じると決めたあの時から彼を疑うという選択肢はキャロにはなかった。


「お待たせしました。お会いになるそうですので、こちらへどうぞ」

 衛兵の案内に従い、アタルはそのあとをついて行く。慣れない場所にキャロは緊張しながらも、アタルから離れまいと続いた。

 館に入ってからも、キャロは緊張してきょろきょろとあたりを見回していたが、アタルは一晩泊まった場所であるため、勝手知ったるなんとやらで落ち着いた表情だった。


「こちらになります。ノックをしておはいり下さい」

「ありがとな」

「あ、ありがとうございます」

 案内を終えた衛兵にアタルは礼を言い、キャロは深々と頭を下げていた。


 以前も入ったことのある扉にアタルがノックをすると、中から返事がある。

「アタル殿だな、入ってくれ」

 領主のグレインの声に、アタルはキャロを伴って部屋の中へと入る。グレインは奥にある事務机で何やら書いていた手を止め、立ち上がると中央のソファへと移動する。


「おや、可愛いお嬢さんを連れているね。ということは、目的は達成できたみたいだね」

「あぁ、おかげさまでな」

 にやりと笑いあったのち、アタルも同様にソファへと移動した。気をつかわなくていいと言われているため、柔らかいソファに遠慮なく腰掛けた。


 その後ろでキャロはどうしたものかとその場で立ち尽くしていた。言われるがままについてきただけでどうするのが正しいのか迷っている様子だった。

「キャロどうした? こっちに座れ」

 主人であるアタルに声をかけられるが、それでもキャロは躊躇している様子だった。奴隷である自分が領主を目の前に主人の隣に腰かけてもいいものなのかと悩んでいた。


「ふむ、キャロというのかね。構わんよ、アタル殿の隣に座りなさい」

 キャロの悩みをくみ取ったグレインが座るように優しく促したため、そこでキャロはやっとためらいがちではあったがアタルの隣に座った。


「アタル殿は遠くから来たらしく、このあたりの常識はわからないようだ。奴隷というのもこちらに来て初めて目の当たりにしたようだからね。だから、キャロ、君がアタル殿を支えるんだよ」

 落ち着かない様子のキャロにグレインは優しい声で話しかける。


「は、はい!」

 思ってもみなかった言葉をかけられたため、キャロは背筋を伸ばして返事をした。隣にいる彼は奴隷としての自分に何を期待していたのだろうと思っていたが、グレインの説明で納得がいった。


「まあ、そういうことだな。というわけで、こいつがキャロ。俺が購入した奴隷になる」

「キャ、キャロと申します。よろしくお願いします」

 面白いくらいに緊張しているキャロにアタルとグレインは自然と笑顔になっていた。


「俺はわからないことが多いから、何かおかしかったら言ってくれると助かる。それで直すかどうかはその時々に判断する」

「お任せ下さい!」

 主人に頼られているということで、キャロは気合が入っていた。自分の身体を治してくれた彼に自分のできる精一杯で恩返ししようと考えたのだ。


「それで、昨日はここに泊めてもらったが、キャロもいることだし宿を借りるか家を購入するかしようと思っている。一緒に旅に出るなんてのもいいかもしれないな」

 この世界において、アタルの目的はあってないようなものであるため、様々な選択肢が浮かんでいた。一緒に生きていくキャロという存在ができたことでよりこの世界で生きていくのが楽しみになったようだ。キャロもまた彼のあげた選択肢に思いをはせている様子だった。


「それならば、冒険者になるのも面白いかもしれないな」

 アタルの話を聞いたグレインが提案した冒険者とは、ギルドに所属して依頼をこなすものだ。

「ふむ、少し詳しく聞かせてもらってもいいか?」

「任せろ」

 実のところグレインも若いころに短期間ではあったが、冒険者登録をしていたため、その経験を踏まえての話が始まった。

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