第五十四話
フラリアのかけ声に合わせて飛び出していった冒険者たちが全力でゴーレムに攻撃を仕掛ける。
今回の依頼はBランクメンバーが最低条件であるため、パーティごとに見事な連携で次々にゴーレムを倒していく。
キャロを囲もうとしていたゴーレムたちも奮闘する他の冒険者パーティによってどんどん撃破され、自由度が増えたキャロは思うまま次の行動に移ることができる。
冒険者たちが飛び出してきたのを確認したアタルとキャロが次に目標としていたのは通常のゴーレムではなく、巨大ゴーレムであった。
ゴーレムの群れから飛び出したキャロは一度だけアタルに視線を向ける。了承の意味を込めてアタルはそれを見て頷いた。
街から洞窟までの道中、アタルはどうすれば巨大ゴーレムを倒すことができるかをずっと考えていた。高い強度の巨大ゴーレムを倒すには、通常弾や強通常弾では難しいことはわかっていた。
ならば、と溜まった弾丸ポイントを使って新しい弾丸を選択するか、もしくは対巨大ゴーレム用の新しい戦法を考えるしかなかった。
冒険者たちがゴーレムの相手をしている横をすり抜けて、キャロは躊躇うことなく巨大ゴーレムへと真っすぐ向かっていた。前回は他のゴーレムを盾がわりに使われたが、今回は冒険者と戦っているため、以前に比べて巨大ゴーレムの守りは薄かった。
「残った盾も潰させてもらおう」
それくらいならばぶち抜くことができるとアタルは守るように周囲に残っているゴーレムたちの核を弾丸で貫く。次々と倒れていく護衛のゴーレムを見て、巨大ゴーレムは慌てているようだった。もう一体の巨大ゴーレムは離れたところにいたため、こちらに近寄る余裕はなさそうだ。
「今更慌てても遅い」
その時には既にキャロが巨大ゴーレムの懐に潜り込んでいた。
確信をもっているようにキャロは巨大ゴーレムの足を狙う。実はアタルが前回の戦いの時にゴーレムの強度の低い部分を確認していた。
人型であるゴーレムは予想に違わず、関節部の強度が他の部分に比べて弱くなっていた。キャロは他は無視してそこを狙うようにとアタルから命じられていた。
「ここならっ!」
アタルの命令を忠実に実行したキャロもそれに手ごたえを感じており、巨大ゴーレムのバランスを崩させることに成功する。ぐらりと巨大ゴーレムの身体が不安定に揺らいだ。
「よくやった」
崩れた足目がけて狙いすましたようにアタルは弾丸を撃ち込む。貫通力をあげた弾は表皮の岩を突き破り、弾かれることなく膝に突き刺さる。続けざまに二発、三発と同じ場所目がけて放たれたそれはどんどん押し込むように深く突き刺さり、ついには貫通した。
その傷もしばらくすれば回復するものだったが、そのしばらくの間、巨大ゴーレムの動きを封じることに成功していた。そしてこの場には前回と異なり、アタルとキャロ以外の冒険者たちもいる。
「くらえぇぇぇええ!」
待ってましたと言わんばかりに飛び出してきたクラウスの剣が巨大ゴーレムの胸へと突き刺さる。アタルは事前に核のある場所をクラウスに伝えていた。他にもAランクの冒険者はいたが、依頼開始前に話をしたのがクラウスだけだったため、彼を信用して情報を伝えることにした。
アタルの判断はまさに正解であり、多くの冒険者とゴーレムが入り乱れるこの状況において自身も他のゴーレムの相手をしながら、アタルたちの動向もチェック出来ていたのは彼だけだった。
剣が刺さったところで、クラウスはあえて手を離し、後方に飛んで巨大ゴーレムから距離をとる。剣での攻撃だけでは巨大ゴーレムの核を破壊するにいたらないのは想定の範囲内だったからだ。
「“雷鳴の陣”!!」
クラウスの仲間たちは剣目がけて雷の魔法攻撃を繰り出す。それを援護するようにアタルは雷属性の弾丸を放った。
今回クラウスがこの戦いのために用意した剣はミスリル銀が使用されたもので、魔法に対する親和性が高い。それにより、剣へスムーズに魔法が流れ込み、更に剣の中で増幅された雷によってゴーレムの内側から破壊していく。
巨大ゴーレムは魔法が流れ込むと抵抗する間もなく大きな雷に全身が包まれる。バチバチと激しく光る雷の中で何度か震え、それが収まる頃にはそのまま後ろに倒れこんだ。
「よし、一体撃破だぞ!」
クラウスは大きな声で広場に響き渡るように興奮交じりの声をあげる。たとえ巨大なゴーレムであっても、そいつが強固な皮膚をもっていても、これだけの実力者が集まっていれば敵ではない。それを知らしめるためにあえて高らかに宣言した。
「おおおお!」
「俺たちもやるぞ!!」
そうすることによって他の冒険者の士気もあがり、我こそはともう一体の巨大ゴーレムを数人が囲む。この状況ではキャロが入り込む隙はなく、彼女は別のゴーレムに相手に移ることにする。
一方のアタルはというと、他のゴーレムを攻撃しつつ、巨大ゴーレムの動きを封じるために振り上げられた拳を弾丸で弾くことで、他の冒険者たちのために隙を作り出す助けをしていた。
そのかいもあって、数人のAランク冒険者が協力して巨大ゴーレムの核を潰すことに成功する。
「二体目も倒したぞ!!」
歓喜に満ちたその宣言は他のゴーレムを相手どっている者たちに勇気を与えた。巨大ゴーレムを打ち倒したことで終わりが見えてきたため、彼らは最後の力を振り絞ってそれぞれの目の前にいるゴーレムを倒していく。
「お、おぉ、これならいける!」
「黙れ!」
ハラハラしながら戦いを見守っていたフラリアの発言に、嫌な予感を覚えたアタルがこれまでにない強い口調で突っ込みをいれる。
「き、急になんだ!?」
今まで冷静さを常に持ち合わせていたアタルに怒鳴られたことはフラリアを戸惑わせた。
ここまで皆で協力してうまくやってきて、もうすぐ依頼も達成しようかというところで、アタルは血相を変えている。
「怒鳴って悪い、だがその発言はまだ早いぞ。そういうことを言うと大抵……そら、来た」
何ごとかとフラリアは怪訝な表情でアタルを見ていたが、彼に促されるまま視線を洞窟奥へと移す。その瞬間目に飛び込んで来たそれにフラリアの顔から血の気が引いた。
「あ、あれは……!」
その頃には広場にいたゴーレムたちのほとんどが倒れ、冒険者たちの中には興奮しながら勝利の声をあげようとする者もいた。
しかし、今の彼らは誰一人声を出せずに愕然と洞窟の奥を見つめている。
キャロとアタル、それに数人のAランク冒険者以外はあんぐりと口を開け、呆然とそれを見ていた。
「本命のお出ましか……誰かいるな」
奥から現れたのは先ほどまで戦っていたどのゴーレムよりも大きく、その皮膚は岩ではなく金属でできているようだった。歩くたびにまるで地震でも起こっているかのような振動がアタルたちに襲いかかる。
そして、その肩にはローブを纏った人がのっていた。深いフードがすっぽりとその人物の顔に影を落としている。
冒険者たちから距離を保ったところでゴーレムは立ち止まる。ようやく全貌が見えるようになると肩に乗っていたのはどうやら男のように見えた。彼は楽しげにパチパチパチと手を叩き、拍手をしていた。
「いやあ、これはすごいな。まさか僕のゴーレムたちがここまで見事にやられるとは思わなかったよ」
その表情に怒りはなく、むしろゴーレムが倒されたことを喜んでいるようでもあった。
「貴様は何者だ!」
最前線にいたクラウスが剣を突き出し、代表して問いかける。
「うーん、答えてもいいけどただじゃあつまらないね……そうだ、僕の最高傑作と戦って勝てたら、っていうのはどうだい? こいつの名前はサイクロプス。そこに転がっているやつらとは格が違うよ」
まるで遊び相手を見つけたかのように無邪気な声音で言った男はひらりとサイクロプスの肩から降りて、少し距離をとる。
「サイクロプス……やれ」
すっと冒険者たちを指差して男がそう口にすると、一つしかないサイクロプスの目がぐるりと赤く光り、最前線にいたクラウスへと襲いかかってきた!
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