第四十六話
「キャロ、無理にそこを維持しなくてもいいからな」
愛銃を構えたまま、アタルは移動しながらゴーレムへと攻撃を繰り出していく。動きながらの攻撃でもその精度は確かなもので、次々とゴーレムの動きを止めていく。
「わかりましたっ!」
前線に飛び出したキャロも全てのゴーレムの突破を阻止しようとは考えず、できる範囲で動きを止めていく。短剣とショートソードの組み合わせは彼女と相性がいいようで、いまだ彼女の身体に傷はない。
二人の連携は息ピッタリで、ゴーレムたちは数で押そうとしてもアタルへと辿り着くことはできなかった。
「精密射撃じゃなくていいなら、お前たちの動きを止めるくらいは簡単なことだ」
ぼそりと呟いたアタルはゴーレムの足を狙って弾丸を放っている。
その強力な弾丸はゴーレムに膝をつかせることに成功する。そして核からの魔力で回復する前に、その核自体をアタルが撃ち抜いていく。
彼が使うそれは神が作った銃であるために装填に時間がかからず、次々に攻撃をすることができる。
キャロもアタルが魔力管を撃ち抜くためだけの戦い方から、ゴーレムを倒すための戦い方に切り替えたため、核を狙っての直接攻撃も行っている。
ゴーレムの表皮は岩に覆われているが、キャロの膂力と剣の力によって岩を斬り裂き、すんなりと攻撃が核に届いている。有名な鍛冶師のショートソードと最初に買い与えてもらったマジックウェポンの短剣はその強度も切れ味も抜群で、ゴーレムの硬い身体を攻撃しても傷がつくことすらない。
対する巨大ゴーレムは数で押せばこれまでの冒険者と同様に潰せると考えていた。しかし、その数が減って来たことに次第に焦りを感じているようだった。
このゴーレム群の中で巨大ゴーレムがそれらを統率し、操っている。身体が大きいだけではなく、リーダー的存在なのだろう。
「あいつを潰せばいいか……」
それに目を付けたアタルは手前にいる何体かのゴーレムの核を撃ち抜くと、その照準を巨大ゴーレムに合わせ、頭部を吹き飛ばそうと弾丸を放つ。自らに襲いかかってこないことをいいことに、ゴーレムたちへ指示することに意識を割いていた巨大ゴーレムは、自分がターゲットになっていることに気付いていないようだった。
完全に隙をつく形となったその弾は真っすぐ巨大ゴーレムに頭に向かい、見事命中する。
「なんだと!?」
しかし、その大きな頭部をぐらりと揺さぶっただけで、あっけなく弾丸が弾かれてしまった。予想外のできごとにアタルは大きく目を見開く。
巨大ゴーレムは他のゴーレムとは表皮の素材が違い圧倒的に強度が高いため、先ほど放った弾丸では撃ち抜くことができなかった。
「くそっ、デカイだけじゃなく素材まで特別製か」
アタルがどの弾ならいけるか頭の中で算段をつけようとしていると、指示を受けたゴーレムたちが巨大ゴーレムを守ろうと壁になるためにいっせいに集まっていた。
その壁は厚く、アタルの弾丸では撃ち抜けないほどであった。また、キャロの能力が高いと判断した巨大ゴーレムはキャロに対して、一体で向かわずに複数体で向かうように指示を出している。
「きゃっ!」
それまで統率が甘かった複数の攻撃が今度は同時に向かって来たため、避けきれずにキャロはゴーレムの拳を受けて後方に弾き飛ばされてしまう。
咄嗟に武器で防いだため直撃は免れ、またぶつかる瞬間に衝撃を和らげようと自らも後方に飛んだため、かなり威力は軽減できていた。
「キャロ!」
「大丈夫ですっ、ダメージはほとんどありません!」
少し焦りの混じったアタルの呼びかけに答えるようにキャロはすぐさま状態を報告する。
二人の状態はほとんど変わっていなかったが、現状、戦いが拮抗してきているのは事実だった。
「……まずいな」
数体のゴーレムを盾として使っているため、攻撃が本命の巨大ゴーレムまで届かない。そして手前にいるゴーレムを倒しても動きを停止したそれらのせいで足場が塞がっていき、更には後方から次々に何体ものゴーレムの増援がやってきていた。
「アタル様、どうしますか?」
アタルの元へ駆け寄って来たキャロも現状に対して焦燥感を覚えていた。倒せないわけではないが、やはりこれだけの数を次々に相手取るのは、こちらにいつか限界が来るだろうと思っていたからだ。
「……引くぞ、手前のやつらを倒したら後ろに向かってダッシュだ」
少し悔しさのにじむ表情で下したアタルの判断にぐっと表情を引き締めたキャロは頷き、素早く駆け出すと目の前のゴーレムに全力で攻撃を繰り出していく。
キャロを援護するようにアタルが近くのゴーレムに弾丸を撃ち込んでいく。頃合いを計るようにしながらも攻撃の手をやめることはなかった。
「キャロ、いまだ!」
突然のアタルのかけ声に、その身をひるがえしたキャロは後方に向かって全力で走りだす。彼女が指示されたのは走ること。そんな彼女はアタルとすれ違う際にも足を止めることはなかった。
いまだ動かないでいるアタルはというと、天井に何発か打ち込んで道を塞いでからキャロのあとを追った。
「ふう、依頼は成功だけど状況はかなりまずそうだな」
この思わしくない状況に苦い顔をしながら、ギルドに報告しないわけにはいかないだろうなと考えていた。
行く手の道を塞いだからか、それとも追うことを諦めたからなのか分からないが、ゴーレムが二人を追ってくる様子はなく、無事に入り口までたどり着くことができた。
「はぁはぁ、アタル様大丈夫ですか?」
体力があるキャロとはいえ、全力で走り抜けたことで息をきらせながら姿を見せたアタルに尋ねる。
「あぁ、無事だ。それよりも、どうやらゴーレムたちはあの巨大ゴーレムがいるさらに奥からわいてるみたいだったな」
一方でアタルは息一つ乱さず、自分たちが出て来たばかりの洞窟に振り返りながら淡々と言った。
「お、おぉ、あんたたち無事だったか!」
そこへ声をかけて来た洞窟の前で助けた男性は律儀にアタルたちの馬車を守っていた。そして、二人が出て来たことに気付いて、急いで駆け寄ってきた。
「ん? あぁ、待っててくれたのか。しかし、洞窟の中はやばいな、あれなら全滅するわけだ。あのデカイのは特にやばかった」
まさか本当に馬の面倒を見ていてくれると思っていなかったアタルは意外に思いながらも、思い出すように話す。それを聞いた男は感心するように驚いていた。
「あいつのところまでたどり着いたのか! あれはかなり奥だったはずが……あんたたちやっぱりすごいな」
「戦ってみてわかったのは、他のゴーレムを統率してるのがあの巨大ゴーレムだってことだな。俺たちに気付いたあいつの指示で他のゴーレムが襲いかかってきていたし、俺の攻撃を防ごうと他のゴーレムを盾代わりにもしていたからな……」
苦戦させられたことを思い出したアタルは巨大ゴーレムの危険性に頭を悩ませていた。
「あんたたちでも倒せなかったのか……」
「一対一なら問題はないんだろうが、数に押されるときついな。それにあの巨大ゴーレムの後ろから次々に普通のゴーレムが来ていたからな」
アタルの言葉に息を整えたキャロもこくこくと何度も頷く。
「それであんたたちはどうするんだ? このことを報告するのか?」
彼らの話を聞いて恐怖を抱いた男の質問に、アタルは一瞬だけ考える。
「……報告したほうがいいだろうな。依頼は達成したから報酬はもらうとして、この洞窟の危険性は伝えておかないと、あんたたちのパーティと同様のことが次々に起こるだろうさ」
複数のパーティの全滅。これは人的被害として大きく、またギルドとして手ごまを失ってしまうことから相当の酷い損失だった。
「そうですね、それもなるべく早いほうがいいと思います。他のパーティと競合したほうが、全滅率が下がると考える方も出てくるでしょうから。私たちがここに来てるのは、騒ぎになったせいでみなさんに知れ渡ってると思いますし……」
心配そうに耳を垂らしたキャロの予想はおおむねあたっており、街ではゴーレムの核を狙いに行くか? などと相談してる冒険者たちがギルドにいた。
「ならすぐに戻ろう。……お前も乗るか?」
馬車を木からほどいたアタルは出発の準備を手際よく行ったあと、思い出したように男にも声をかける。
「い、いいのか? ぜひ頼む!」
まさか声をかけてもらえると思っていなかったことで一瞬驚くが、アタルの気が変わらないうちにと男は急いで馬車に乗り込んだ。
走り出した馬車は行きと異なり、一人加えて少し急ぎ足の帰路となった。
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