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第四話


 領主の館に向かう道中、住民たちが何人も声をかけてきた。

 馬車がボロボロなことを心配する者、アーシュナに挨拶してくる子供など色々な者がいたが、アーシュナはそれに笑顔で返事をしていた。無理をしているという風もなく、ただアーシュナが受け入れられているといった風だった。


「この街はいい街みたいだな」

 住民の反応を見て、領主もアーシュナも慕われているのであろうことがアタルにも伝わって来た。

「ですよね!」

 アーシュナはただ素直に喜び、ギールは何をもって言ってるのか理解して笑顔になっていた。


 領主の館に辿りつくと、三人はすんなりと通される。アーシュナの家でもあるため当然のことだったが、城のような大きさの建物に顔パスで通されたことにアタルは戸惑っていた。

「あー、俺いてもいいのかな?」

「良いのです!」

 アーシュナはここに来てそんなことを言い出すアタルに対して、強く断じる。

「あ、はい」

 気圧されたわけではなかったが、領主の娘である彼女に断言されたため、まあいいのだろうと受けいれた。


 館の中に入るとアタルは待合室に案内される。二人は領主に話をしてくるのかそこでアタルといったんわかれた。

「さて、一人になったことだし。能力の確認をしておくか……」

 部屋にあったソファーに腰かけたアタルは自分の能力を確認しようと念じると、目の前に一枚のプレートが現れる。これは、アタルにしか見えないもので、もちろん触れることができるのもアタルだけだった。

「ここに来るまでにちょいちょい魔物を倒したからBPも貯まってきたなあ」

 BP(弾丸ポイント):53、プレートにはそう表示されている。


「弾切れは気にしなくていいから、いくつか特殊弾を作っておくか」

 通常弾は0ポイントであるため、全てのポイントを特殊弾に振り分けても問題がないとアタルは考えていた。

「これと、これと、これかな」

 一覧が表示され、その中からいくつかの特殊弾を選択する。それと同時に、通常弾を千発用意した。これらは実際に持つ必要はなくプレートと同じようにどこかに存在しているものとなる。弾丸の切り替えや装填も意識するだけで自動で行われる仕組みになっていた。


「いちいち自分で装填しなくても済むのは便利だよなあ」

 このあたりの仕組みについては、事前に神によって説明されていた。

 弾丸の数についても実際にケースを開ける必要はなく、プレートで確認することができる。


「あとは、これを俺が使いこなさないとな……」

 神によるとこちらの世界では剣や斧や槍などの直接的な武器で戦うことが多く、遠距離での戦闘方法は弓、そして魔法がほとんどとの話だった。


 身体能力が強化されてるとはいえ、剣で斬られれば痛いし、魔法をくらえば吹き飛んでしまうだろう。

 それゆえに、アタルは自分の能力を過信せずに慎重な考えを持っていた。この世界で生きていくと決めたアタルはこの力を駆使し、戦いの中を生き抜いて世界のあちらこちらを冒険してみようと考えていた。


 そんな考えを巡らせていると、扉がノックされる。

「……どうぞ」

 誰か迎えに来たのだろうと考え、プレートを消してから返事をする。


「失礼いたします。旦那様とお嬢様の準備が整いましたので、ご案内します」

 ノックの主はギールだった。ギールは通常は領主付き、命令があった場合にはアーシュナ付きの執事となる。

 そのため、客の案内をすることは珍しかったが、知った顔のほうが安心できるだろうとアタルの案内を買って出た。出会った時と服装が変わっていることから着替えてきたものと思われる。

「あぁ、頼むよ」

 それは効果があり、アタルも見知ったギールだったため、内心でほっとしていた。


 館の中は広く、途中ですれ違う使用人たちは恭しくアタルに頭を下げる。それは慣れない彼にとってむず痒いものだったが、そういうものなのだろうと顔には出さず、軽く会釈を返していた。

「アタル様、こちらになります」

 ある扉の前までいくと、ギールはアタルに声をかけてからノックをする。

「入ってくれ」

 返って来た声は、低く渋い声だった。おそらくここが領主の部屋なのだろうとアタルは思った。


「それでは、アタル様どうぞ」

 ギールは扉をあけると、先にアタルが入るよう促す。

「わかった」

 領主に会うという事で緊張しているアタルは、一度大きく息を飲んでから促されるまま中に入った。


 部屋の中は応接室といった様相で、中央に大きなテーブルがあり、座り心地の良さそうなソファが配置されている。部屋の奥に位置するソファにゆったりと腰かけている男性が穏やかな表情でアタルを出迎えた。その隣にはギール同様着替えたアーシュナが座っている。

「君がうちの娘と使用人を救ってくれたアタル殿だね。私はアーシュナの父、グレインだ。今回はどうもありがとう」

 領主であり、アーシュナの父は立ち上がると深く頭を下げた。身長はアタルよりも少し低いくらいだったが、歳は四十代になったばかりでまだまだ意欲に満ち溢れた目をしている。茶色の髪に、同色のあごひげを蓄えた彼は威厳のある様子だった。


「いや、まあ、成り行きだったんでそんなに気にしないで下さい」

 いつもの口調で話そうかとも思っていたが、領主に対してそれはまずいだろうと敬語で話すことにする。

「はっはっは、君は普段はそんな喋り方ではないのだろう? 娘の恩人だ、気にせず普段の口調で話してくれて構わんよ」

 ギールがアタルを迎えに行っている間、色々とアーシュナから話を聞いていたため、領主は笑いながら話し方について許可を出す。口調に関してとやかく言ってこないところを見ると普段からおおらかな性格をしているのだろうと察せられた。


「あー、まあそうかな。とにかく、気にしないでくれていい。たまたまあの場に居合わせただけだからな」

 領主の了解も得たことでアタルは普段の口調で再度、気にしないでいいと返す。あの時は領主の娘だったから助けたというわけではなく、ただ困っている人がいたから助けただけだったからだ。

「そういうわけにはまいりません!」

 まだ恩が返せていないと思っているアーシュナは立ち上がって、鼻息荒く言った。


「旦那様、お嬢様、まずはアタル様に座って頂いてはいかがでしょうか。お茶の用意も致しますので」

 ギールに言われて、立ち話になっていることに気付いた二人は慌てて声をかける。

「こ、これはとんだ失礼をした。さあ、アタル殿そこにかけてくれ」

「そうです、こちらにどうぞ!」


 似たもの親子だなとアタルが苦笑交じりで促されるままソファに腰かけると、思った以上に柔らかい感触に少し驚いていた。その目の前では彼らも同じく座りなおしていた。

「アタル様、こちらをどうぞ」

 手際よくギールが三人の前にお茶とお茶菓子を用意する。ふわりと湯気の漂うお茶と添えられた菓子からはいい匂いが鼻に入ってくる。

「遠慮なく食べてくれ」

 こういった場合、恐縮して手をつけないものもいるため、グレインは先に遠慮しないよう口にする。


「あー、ども」

 アタルはここまで言われてはと菓子に手をつける。すると優しく口の中に甘みが広がり、癒やされるのを感じた。

「うまい」

「うむうむ、口にあったようでよかった。それで今回二人を助けてくれたことに対して、私のほうから感謝を形にして示したいのだが……」

 何か希望のものはあるか? グレインはそれをアタルから引き出そうとする。グレインには自分の娘と使用人の命を救ってくれた以上、彼に言われればそれなりに用意する心づもりがあった。


「何もいらないって言っても駄目なんだよな……だったら、金かな。色々と事情があって、俺は旅の路銀がない。だから、当座の資金が得られると助かる」

 最初に口にした希望が金であれば、自分の評価も幾分か下がるかもしれない。そう考えたアタルだったが、特に気にした様子もなくグレインはギールに耳打ちをして、すぐに金の用意に走らせた。

「少し待ってくれ、今ギールに用意させる」

 十分後に足早にギールが戻ってくるが、アタルはその手にしたものを見て驚くことになる。

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