第三百五十三話
レリアルたちに呼び出されたアタルたちは工房にいた。
「なあ、この鱗だがスケイルアーマーにするのはどうだ?」
青龍の鱗を持ちながらサンプル用のアーマーと照らし合わせるようにして職人の一人が提案する。
金属や革を小さくカットしたものを張り付けて作るものが一般的なスケイルアーマーだが、それを青龍の鱗でやったらどうか? というのがものだった。
「そのままだと一枚一枚がデカすぎるから、小さくカットできるならいいと思うが……俺たちは装備しないぞ?」
確かに青龍の鱗をくみ上げて作れば魔法耐性、ブレス耐性などの高い強力な鎧を作ることができる。
しかしながら鱗と鱗がぶつかってガチャガチャとうるさく、それだけの枚数を使うとなるとかなりの重量になってしまう。
アタルは遠距離で移動しながら攻撃をする。
キャロやバルキアスは素早い動きで前線で戦う。
イフリアは大きくサイズを変更して戦う。
四人の誰もにとって、スケイルアーマーは適していない装備だった。
「……確かに、万人向けの装備というわけではないか」
難しい顔をした職人は腕組みをしてアタルの言葉を聞きながらしばし考え込む。
「万人向けがどういうものかわからないが、鎧とか胸当てを作って、その内側に鱗を貼り付けるのはダメなのか? 表立って見えるとデザインの問題も関係してくるが、裏地や中に挟みこむのであれば、万が一心臓を狙われても防ぐことができると思うが……」
「っ……それだ!」
なんの気なしに思いついたことを口にしたアタルだったが、それは職人たちにとって革新的なアイデアであり、すぐに全員に情報を共有していく。
全員がいかにこの青龍の鱗をうまく活かして装備を作るかにとらわれていたが、アタルの助言を受けて、その硬度を活かすことだけに注視すれば色々な方法があることに気づく。
「さて、これで少し創作が動いていくだろうから俺たちはお暇するか。キャロ、バル、イフリア行くぞ」
少し工房に顔を出してみたものの、次々にやってくる職人たちから入れ代わり立ち代わり相談事を持ちかけられたため、アタルは休まる暇もなかったゆえにさすがにそろそろ工房から抜け出したかった。
「はいっ!」
『ガウ』
『きゅー』
アタルの言葉に返事をすると、三人も立ち上がり彼についていく。
実のところ、三人が工房を訪れてから既に三時間以上経過しており、さすがにキャロたちも疲れが見えていた。
「――あ、ちょっと待って!」
そんな四人に気づいて止める声を背中に聞きながら、急ぎ足でアタルたちは工房をあとにする。
「ふう、少ししたら帰るつもりだったのにここまで拘束されるとは思わなかった……」
「はい……少し疲れましたね」
休憩しようにもずっとやってくる職人たちに対して頭をフル回転させて返事をしていたので、キャロもかなり疲れていた。
「少し眺めのいいところを散歩して、そのあとは飯でも食いに行くか」
「はい!」
『ガウ!』
『うむ』
慣れない状況に気疲れしたのか、四人ともが空腹を感じており、アタルの提案に賛成していた。
そんな風に日常を送っていったアタルたちはついにオークション当日を迎える。
「さて、いよいよ今日だな」
「ですね」
アタルとキャロはいつもどおりの冒険者服ではない。
アタルは貴族が身にまとうようなタキシードを身に着けている。
キャロはここでもドレスを着ており、二人ともが貴族が参加するオークションに参席してもおかしくない服装だった。
これはその手の専門の店を見つけてそろえた品で、ヘアメイクもセットになっていた。
「アタル様、素敵です!」
キャロは、珍しくアタルがビシッとした服装でいるため、チラチラと視線を送りながら、頬を赤く染めていた。
「そうか? キャロはよく似合っているな、ドレス姿になるとすっかり大人の女性みたいだ」
アタルに褒められて、キャロは更に顔を真っ赤に染め上げていく。
『キャロ様、顔真っ赤!』
『うむ、私の翼よりも赤いな!』
そんなキャロのことをバルキアスとイフリアもからかっていく。
「も、もう、からかわないで下さい! アタル様も、そんなに褒めないで下さい……は、恥ずかしいですっ」
キャロがうつむいてしまったため、アタルはその頭を軽く撫でる。
今はまだ宿にいるが、髪型のセットもしてもらっているため、それを崩さないように軽い手つきだった。
「キャロ、悪かったな。今日は色々あるだろう日だから少し気分を和らげたくてな……ま、それは成功って事で、行こう」
宿の外にはオークションに向かうように馬車が待機しており、アタルたちが出てくるのをいまかいまかと待っていた。
「は、はい!」
エスコートするようにアタルが手を差し出すと、キャロがそこに手を重ねる。
「バルはいつでも飛び込めるように待機しておいてくれ。イフリアは周辺の警戒を頼んだぞ」
『わかったよ!』
『承知した』
さすがに魔物を中に連れていくのは難しいため、オークション会場に行くのはアタルとキャロのみである。
バルキアスは姿を隠しながら、警備の状況を確認したり、中で騒ぎが起こればすぐに飛び込めるように待機させておく。
イフリアは空高くを旋回して、会場の周辺に不穏なことが起きていないか。さらにはバルキアス同様外からの援護要員としても期待されている。
「――さあ、いよいよオークションに出発だ。気を引き締めて行こう」
ニヤリと笑ったアタル。
このような状況でも、何かが起こるかもしれないと楽しみにしているようだった。
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