第三百四十二話
宴会の間、アタルたちは奴隷商に忍び込む方法とウサギの獣人に会う方法について話し合っていた。
「結果として、正面から乗り込むパターンと誰かを奴隷に扮装させて売り込むパターンと、誰かが密かに忍び込むパターンってところか――どれもパッとしないな」
簡単に思いつく方法であがったのはこの三つで、どれもリスクが高かった。
「正面からいけば、確実に俺たちは犯罪者側に回ることになる。誰かを奴隷に扮装っていうのは、ちょっといい思い出がない……」
アタルはチラリとキャロに視線を送る。獣人国に到着してすぐに、キャロは囮として誘拐団に掴まってしまった。
その時はすぐにアタルが駆け付けることができたが、あの時のキャロの不安と安堵が入り混じった表情を彼は忘れていない。
あんな思いを二度とさせないと、強く心に決めている。
「となると、前みたいに誰かが正面から行って、俺が遠距離から気絶させていく。その隙に、キャロ、バル、イフリアが別々の場所から侵入ってところが妥当か」
確実性という部分では、見取り図がない分不安があるものの、以前も成功させている手法であるため成功確率は高かった。
「ですねえ」
キャロはアタルの言葉に同意するが、彼女も同様にもっといい方法がないかと考えている。
「あんたたち、何を考え込んでいるんだい! だったら、堂々と正面から行けばいいじゃないか!」
そう声をかけて来たのはミランダだった。
「いや、だから正面から突入したら戦いになるし、圧倒的に彼らのほうが分が悪いだろ?」
レリアルがダメな理由を改めて口にするが、ミランダは大きく首を横に振る。
「はあ、誰が突入しろなんて言ったんだい? 正面から堂々と、客として行けって言ってるんだよ!」
ミランダの言葉に全員がポンっと手を打つ。
「なるほど、その手があったか。それなら確かに正面から入れるし、中のことを探れるな」
アタルもミランダの提案に感心していた。
「それでは、その奴隷商さんのお店に私たちが客として行くということで決まりですね!」
この案であれば危険性は低く、かつ相手の懐に飛び込むことができるためキャロも乗り気になっている。
「問題はいつ行くかだな……妖精を売りに出すのは数週間後ということだ。その時を待っていたら、奪還しづらくなるだろうから早いうちに動いたほうがいいな」
大奴隷市という名から、恐らく多くの人が集まる一大イベントである。となれば、そこに妖精を助けに行くのは難しい。
「なら、今日ですね!」
酒に付きあいながら夜通し色々と話し合ったキャロだが、元気いっぱいな様子である。
「いや、さすがに寝てなくて酒が入っているのに行くのは……」
アタルは少しではあるが酒を飲んでおり、キャロと同じく寝ていないためレリアルはそのことを心配している。
「ん? あぁ、別に大丈夫だ。酒を飲んだのは少しだけだし、毒素はもう抜けてる。色々魔物を倒してきたからなのか、毒耐性は強いんだよ」
これまで、数々の強敵を倒してきたアタルの力は、その数だけ強化されており少しの毒程度ではダメージを受けない。
「毒? 毒耐性があると何かが?」
レリアルはアタルの言っている意味がわからず質問をする。ミランダや他に残っている者たちも同じように首を傾げていた。
「あー、この世界だと酒を飲んで酔っ払うのはなんでなのかわかってないのか」
この世界では魔法が発達しているため、魔道具などの開発はさかんに行われていた。
しかし、その分科学技術の発展は遅く、酔っぱらうメカニズムなども知られていなかった。
「俺も詳しく知ってるわけじゃないんだけど、酒を飲むとなんとかっていう有害物質が発生して身体を攻撃する。そうすると酔っぱらった状態になるんだ」
アタルは地球時代のつたない知識を振り絞りながら説明をしていく。
「でも、ただただ有害物質のされるがままになってるんじゃなくて、身体がその有害物質を攻撃して分解するんだ。その能力が高いやつは酔っぱらいにくく、弱いやつは酔っ払いやすい」
中にはこのアタルの話をメモしている者までいる。
「で、最初に戻るんだが、俺はその分解能力が高いわけじゃなくて、その有害物質が身体の中に入ったとしてもその攻撃自体が俺には効かない。毒に対する耐性が高いからな」
ここにきて、話が全て繋がったためみんななるほどと頷いていた。
「耐性が高いと、有害物質の力自体が弱くなって分解も簡単にできるようになる。つまり、俺には酒の影響が全くないってことだ」
そう言うと説明は終わりだという様にアタルは立ち上がる。
朝といっても、日はだいぶ高くなってきており、今から出発しても店は開いている。
となれば、すぐに動き出すのがアタルたちだった。
「それじゃみんな色々と世話になった。奴隷商のところに行ったらまた戻ってくるから、よければまた色々と話をさせてくれると助かる」
「みなさん、ありがとうございました!」
アタル、キャロと挨拶をして二人は工房をあとにする。
職人たちの中には酒に強い者も多いが、昨晩はしこたま酒をあおったため、アタルたちを制止するだけの気力を持つ者はいなかった。
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