第三百二十三話
部屋の中に案内されると、ソファが二つほど置いてある部屋に案内される。
ソファには男性と、キャロとヒルダがが向かい合うように座り、アタルはキャロたちの後ろに立っていた。
バルキアスとイフリアは部屋の入口で待機することとする。
「それで、お二人はどういった用向きで私を訪ねてらっしゃったのですか? ちょっと心当たりがないもので……」
男性は困惑しながらアタルとキャロに質問をする。
「その、えっと……」
まだ何も話していないが、相手の反応からなんの手ごたえも感じられないことにキャロも困惑している。
「単刀直入に聞こう。あんたは――彼女に、キャロに見覚えはないか?」
何か言おうにも言えずにいるキャロに代わってアタルが静かに問いかける。
それが彼女にとっても一番聞きたいことであった。
「見覚え……いわれてみれば、どこかで見たことがあるような……それにキャロさんという名前、それも聞き覚えが……」
考え込むように腕を組んだ男性は自らの記憶をなんとか呼び起こし、答えを手繰り寄せようとしている。
「……そうだ、確か兄さんの娘がそんな名前だったような」
「!?」
思わぬ手掛かりにキャロは驚いて、耳がピンと大きく立つ。
「兄さん? ということはキャロはあなたの……」
「姪、になるのでしょうか? 兄の名前はカロタと言うのですが、ちなみに義姉はメーレと……」
男性がそこまで言ったところで胸を押さえながらキャロが勢いよく立ち上がる。
「カロタとメーレ! そう、そうです! お父さんとお母さんの名前です! 二人がそう呼び合っていましたっ!」
両親の名前を聞いて、キャロの記憶が次々によみがえってくる。
記憶の映像が断片的に呼び起され、目の前にいる男性のことが気になっていた理由が分かった瞬間、キャロは口を開いた。
「で、では、あなたはクノープおじさん、ですか……!?」
男性のことも思い出したらしく、キャロが名前を確認する。
「えぇ、そのとおりです。ということは、あなたは兄さんの娘のキャロちゃんで?」
「はい! そうです! カロタとメーレの娘のキャロです! あぁ、ああぁ、おじさんに会えるだなんて、ああああぁあああ」
キャロはおじであるクノープに会えたことで、目から涙が、口からは言葉にならない声が生まれてくる。
もちろん両親に会いたいという気持ちが強い。
しかし、もう死んでいるかもしれない――そんな考えもどこかによぎっていた。
そこにきて、会うことができたおじであるクノープ。
親類に会うという、今までであれば考えられないような奇跡の出会いにキャロは心の底から感動していた。
「キャロちゃん、か。うん、そうだ、義姉さんの面影がある。うんうん、美人に育ったね。兄さんも義姉さんもキャロちゃんが生きていると知ったら、すぐにでも会いたいだろうなあ」
クノープも姪のキャロに会えたことを喜んでおり、微笑む目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……ちょっと待ってくれ。クノープさんといったな。あんた、キャロの両親がどこにいるのか、もしかして知っているのか?」
ひとり冷静なアタルの質問に、全員の視線がクノープへと集まる。
「あー、そうか。キャロちゃんは兄さんたちを探しているのか……確か、村が襲われて離れ離れになってしまったって言っていたなあ……」
そう口にしたクノープの表情は芳しくない。
「何かあるのか?」
その表情から言いづらい何かがあると感じたアタルが続けて質問する。
「そう、ですね。キャロちゃんが攫われたあと、兄さんたちはキャロちゃんを探し続けていたんです。色々な場所を旅していました。でも、どんなに遠くに行っても兄さんたちは必ず私のところに連絡を入れてくれたんです。無事だということ、今はどこにいるのかということ、何について調べているのかということを……」
クノープは一旦話を区切るが、まだ続きがあるということは誰もがわかっていた。
「一か月、いや二か月ほど前だったかな? その頃に、手紙が届いたんです。ここよりはるか東にある街に向かうと、そこでウサギの獣人の子どもを見かけたという情報を手に入れた、と。ですが、それ以降はパタリと連絡はなく、音信不通なんです……」
ともすればショッキングな事実にキャロが落ち込むかもしれない。
そう思ってアタルが顔を覗くが、キャロの顔には悲しみも悲壮感もない。
「それは、どこの街ですか?」
すっと背筋を伸ばしたキャロは真剣な表情と曇りなき眼でクノープの目を見て質問する。
今までのあやふやな情報ではなく、確実に両親へとつながる強い情報。
これを逃してたまるかという、そんな気持ちだった。
「えっ、行くつもりかい?」
その問いに、キャロはすかさず頷く。
「クノープ、教えておやり。この子たちは、ここまで長い長い旅をしてきたんじゃよ。両親を追い求めてやってきたこの子の気持ちを汲んでやりな」
沈黙を守っていたヒルダがここにきて口を開いた。
教えるべきか、教えないほうがいいのかをクノープが悩んでいたのを感じ取ったためだ。
ヒルダに促され、悩みながらもクノープは決心したように重たい口を開いた。
「……わかりました。ここからはるか東にある、山岳都市ガルデガルデに兄さんたちは向かった、はずなんだ。今もそこにいるのか、別の場所にいるのかはわからないけど……」
あくまで可能性の話でしかない、そう念を押すようにクノープは話す。
「ありがとうございます! アタル様っ!」
「あぁ、次の目的地が決まったな。目指せ山岳都市ガルデガルデだ」
期待に胸を膨らませたキャロがアタルを見る。それを受けて彼は力強く頷いた。
キャロが行きたい場所は、アタルが向かうべき場所でもあるため、彼女の希望を叶えるのが最優先だった。
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新連載『無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔』専でした!』も合わせてお読みいただけたら幸いです。
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