第三十一話
二人が連れ立って武器屋に入ると、前回と同様店主のボブズが笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ! お二人もこの間の依頼で懐が潤ってらっしゃるのですね?」
他にも多くの冒険者が既に訪れていたらしく、その理由を把握しているようだった。売上も上々のようで、その笑顔は普段より三割増しでホクホク顔だった。
「まあな、今回もいいものがあればいいんだが……」
なんとなく事情を察したアタルがそっけなく対応をしていると、キャロは既に店内を見て回っていた。
「いつもは一般的な冒険者の方向けの品ぞろえが多く、この間のようなマジックウェポンは稀なのですが、今回は珍しい物を仕入れていますので、よければご覧になっていって下さい」
大きな戦いを終えて冒険者たちの羽振りのいいこのタイミングで普段以上の仕入れを行ったようで、促されるままアタルも店内を物色していく。
「……と言われても俺の武器は決まってるからなあ……」
普段のアタルの武器はその肩に背負う特製ライフルであり、それ以外の武器をうまく扱える自信もなかった。
「アタル様、アタル様、これなんてどうですか?」
いつの間にか隣に来ていたキャロが指差す先にあったのは、ショートソードだった。キャロの動きの鋭さを活かすために前回は短剣を選んだが、能力が強化された今のキャロであればショートソードでもその動きを阻害しないと考えられた。
「なるほどな、確かにでかい敵とかだと短剣じゃきついかもしれないな……でも、同じショートソードならこっちのほうがいいんじゃないか?」
彼女の選んだ武器をしげしげと見たあとに周りを一瞥したアタルが指差したのは、キャロが示した物のいくつか隣に並んでいるものだった。
「これ、ですか?」
首を傾げるキャロは武器に詳しいわけではないため、先ほどのものとの違いがわからなかったが、アタルの目には明確に違うものとして映っていた。
「最初に選んだほうはよくある一般的な剣だ。だが、こっちのは……何かが違う」
青く輝くアタルの魔眼には、武器から揺らぎ立つオーラが見えていた。
「おぉ、これはお目が高い! こちらの武器は、マジックウェポンというわけではありませんが、著名な鍛冶師が作った武器で、かなりの切れ味を誇るものなのですよ!」
これまたいつの間にか近くにきていたボブズが興奮気味に武器の説明を始める。
「本来であれば、そのようなものであることを喧伝したいところなのですが……その鍛冶師がそういったことはしないで、これを良いものだと見抜いた方だけに売って欲しいとのことなのです」
もったいないと言わんばかりにわざとらしく嘆いたあと、ボブズはにやりと笑う。
「つまり、それを見抜いたのは俺ということか……でも、これがそういう武器だとわかったわけじゃなく、なんというか武器が持つオーラが見えただけなんだが」
勘に近いものでしかないそれで、本当にそんな自分が見抜いたと言っていいのかとアタルは思っていた。
「何をおっしゃいます。それこそ、この剣が他のものとは違うと見抜いたということです。今日は本当にたくさんのお客様がいらっしゃいました。……ですがその剣に目を止めたのはお客様お一人だけです」
ボブズはアタルにはこの武器を買う資格がある、と力強く推してくる。
「だったら、買わせてもらうか……使うのはキャロになるかもしれないが、それも構わないのか?」
「もちろんです」
躊躇うことなくボブズが即答するため、アタルは渡されたそのショートソードを手に取った。
「他には何かあるかな?」
キャロが短剣二本で戦っていたこと、また自分用にライフル以外の万が一の近距離武器でいいものがないかと店内を見て回っていく。
「これなんか悪くないか……使えるかはわからないけど」
適当に見て回っていたアタルはちょうど目に留まった片手剣を自分用に一つ選択する。それは特別なものではなかったが、手に取ってみると持ちやすく、アタルの身長で使うにはちょうどいいものだった。
「それと短剣をいくつか買って」
前回同様、キャロ用の短剣を何本か見繕っていく。
「あ、あのアタル様っ。よくわからないのですが、あの剣から何かを感じるんです」
ちょこんとアタルの服の裾を引っ張ってきたキャロを見ると、どうやら何か気になる武器があったようだった。
「こいつも、なかなか良さそうな武器だが……他のものとはどこか違う感じがするな」
指し示したそれを見てみると、キャロだけでなく、アタルにも何かその武器から感じるものがあった。特になにか装飾がされているわけでもないのにそのショートソードには存在感のようなものがあるように見えた。
「ふむ、その武器ですか。それはとある獣人が売りにきたもので、手入れはしっかりとしていたんですが特別な何かはありませんでしたし、特にこれといった話も聞きませんでしたね」
ボブズの言葉のとおり、置かれているそれは丁寧な仕事がなされているようで綺麗に仕上がっている。使われていた形跡があるものの、それがよりその武器の味を出しているような感じさえあった。
「値段もまあ、普通の値段か……ちょうどショートソードだし、これにしてみるか?」
「はい!」
そのショートソードに感じた何かに後押しされるようなアタルの問いにキャロは笑顔で即答する。
「それじゃあそろそろ清算しよう。あっちのカウンターに持っていけばいいか?」
「では、私のほうでもいくつかお持ちしましょう」
購入予定の武器のいくつかをボブズが運び、カウンターへと移動していく。
「えーっと、金額は全てで銀貨八十枚になります」
清算が終わってボブズが口にした値段は、アタルが想定していたよりも格安だった。
「そうか、それじゃ金貨一枚で頼む。釣りはいらない、次に来ることがあったらその時はまた色々と話を聞かせてくれ」
「ありがとうございます!」
にっこり笑顔のボブズはそれを遠慮なく受け取った。彼にしてみれば、このような客は今後も上客になる可能性があり、その機嫌を損ねるようなことはしたくなかった。
「武器はどうされますか、何か袋を用意しましょうか?」
今回はある程度まとまった数を購入したため、心配したボブズが質問する。
「いや、片手剣は俺が装備して、と。ショートソードは二本ともキャロが身に着けてくれ。残りの武器はバッグにしまっておこうな」
「はいっ! ……あ、あの……最初に買って頂いた短剣も持ってていいですか?」
キャロは嬉しそうにショートソードを二本とも受け取るといそいそとその身に装備した。遠慮がちに確認してくる彼女にアタルは大きく頷くと、購入した短剣をマジックバッグに入れていく。ちょうどその時アタルを見たボブズはまた驚くことになる。
「そ、それはまさかマジックバッグですか?」
報酬が多かったとしても、マジックバッグはかなりの金額になるため、まさかそれほどの物を買えるほどとは思っておらず、ボブズは大きな声を出してしまった。
「といっても、これは貰い物だけどな。たまたま貰っただけだ」
「いや、それにしてもそれほどの物を手に入れられるとは……やはりあなたはすごいお方のようだ」
感心したように息をつくボブズはアイテムを手に入れられる運も実力も力の一つと考えており、今日もただ一人、ショートソードを見抜いたアタルのことを認めていた。
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