第三百三話
「まあ、そのあたりは人の問題であろうから置いておくとして、封印されていた理由だったな……その前に、元の姿に戻らせてもらう」
ぼわんという音をたて、煙とともに孟章は青龍の姿へと戻っていく。
『ふう、あちらの姿のほうが動きやすくていいのだが、いかんせん魔力の消費が激しいのでな』
青龍にそう言われてアタルたちは周囲の変化に気づく。空気中に充満していた魔素が薄くなっていた。
「なるほど、確かに魔素が消費されている。あの状態を維持するには相当な魔力量が必要なんだな……」
『うむ、ここ以外の場所となると長時間は難しいだろう』
アタルの言葉に青龍は頷いている。
普通に考えれば、サイズの大きい青龍のほうが維持する魔力を消費しそうではあるが、彼にとってはこれが本来の姿であるため、人の姿に自らを力を押し込めるほうが魔力を消費している。
「となると、戦う場所はここであるほうが望ましいのか」
『あの姿を引き出せるほどのものがいれば、だ。そんな相手はそうそういない、とは言い切れないのか。お前たちのような者がいるとなると安易なことは言えないな……』
アタルたちの実力を見て青龍は現代の冒険者の実力は侮れないと感じ取っていた。
「いやあ、俺たちみたいなのが他にいるとは思えないけどな。そもそもが、人族と獣人族とフェンリルとフレイムドレイクのパーティなんて普通ありえないだろ」
ヒョイと肩を竦めたアタルに言われて、青龍は四人の姿を改めて確認する。
『なるほど、確かに珍しい組み合わせだな。その武器も見たことがない。今の時代でもこれほどの強者はさすがにそうそういないか……』
青龍はどこかほっとした様子でいる。自分と同等に戦える相手が一般的にいるわけではないと知って安心していた。
「話がそれたな。それで、なんでこんな場所に封印されていたんだ?」
アタルが話の軌道修正をする。
『おぉ、そうだったな。ここに封印されていた理由を話せば長いのだが……』
そう言ってチラリとアタルたちを見る。
「構いませんっ! 時間はあるのでお願いします」
元気に手を上げたキャロがそう言ってアタルを見る。
アタルも同意見であるため、ゆっくりと頷いた。
長話になると予感したバルキアスは小型化したイフリアとともに、財宝を眺めに行った。
『――それでは話をしよう。この世界には世界をつかさどる神がいる。そのことは知っているか?』
アタルは頷き、少し考えた後、キャロは首を横に振る。
『ならばそこから説明をしていこう。この世界には神と呼ばれる存在がいる。その者は世界の全てをつかさどっている――それこそ、人や魔物や精霊や大地や空、その全てをだ』
青龍の説明を聞いて、キャロは首を傾げる。
「あのじいさんがそんなにすごいとは思わなかったな。銃の話で盛り上がったから、もっとお茶目なじいさんだと思っていたけど……」
アタルの言葉に青龍は表情をゆがめる。
『あの神に会ったことがあるというのか。しかも、あの神をお茶目なじいさんと呼ぶとは……』
青龍が知る神と、アタルが知る神の印象は違うようであった。
「まあ、受け取り手次第で印象が違うのはわかる。で、その神のじいさんが何か関係あるのか?」
『ふむ、それでは話を続けよう。あの神には敵対する神がいた。我を含む四神は敵対する神の側に与した。今になってみれば考えが甘いとしか言えないが、あの神――邪神はその素性を巧みに隠して我らに甘い言葉を投げかけたのだ』
悔しさがにじみ、怒りの感情が浮かんでいる。
「それで堕ちた神……」
『あぁ、前に言ったように我々は邪神に加担した堕ちた神だ。お前の言うじいさんとも戦ったのだ。そして、邪神を含めた我々は負けてしまった。いや、しまったというのは間違っているな。今となっては負けてよかったと思っている』
暗い表情の青龍のその言葉に後悔は感じられなかった。
「なるほど、負けたあんたたち四神はじいさんに封印されたってことか。で、玄武は封印が解かれていたから外に出ていた、と」
『そういうことになるな』
アタルの要約に青龍が頷く。
「となると、やはり気になるのは誰があの情報を流したかだな。神同士の戦いっていうくらいだ、相当な昔の話なんだろから、知っている者や情報が残っているはずがない」
これまた青龍が頷いた。
『我々の戦いは数千年の昔の話だ。玄武の封印が解けたのは時間により、封印が壊れたものと予想できるが、我の居場所が封印が解けていない状態で外に漏れるとは思えないな』
本来ならありえないはずである。しかし、それが起こったことに青龍も疑問に思っている。
「そいつは知っていたんだろうな。四神のことを、封印されていることを、封印を破ることができるということを。つまり……」
「この状況を誰かが望んでいた、と?」
アタルの言葉の続きをキャロが口にする。
「そういう、ことだろうな」
そう言ったアタルは振り返り、ここにくるために開けた穴に視線を向けた。
「――ふむ、存外賢いものだ。人という者も馬鹿にしたものではないようだな」
その声は低く、声に重さを持っていた。
「どうやら、黒幕が姿を現したみたいだぞ」
その者を見てアタルが口にする。
男は黒いローブをまとっており、冷たさを感じさせるような顔はだしている。
見た目はアタルと同じ人族。動物の耳や角などは生えていない。短く切りそろえられた黒い髪はアタルに日本人を思い起こした。
目の色もこの世界の住人のほとんどと異なり、黒い目をしている。
「急に現れて人間のことを馬鹿にしたような言葉はどうなのかね。人として……いや、人じゃないみたいだがな」
青に輝くアタルの魔眼にはその者が普通とは違うと映っていた。
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