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第二百九十八話


 アタルが笑っていることに怒りもせず、青龍は律義に待ってくれていた。

『……落ち着いたか?』

「あぁ、悪かったな。俺がいた場所では少々面白い言い回しだったものでつい笑ってしまった」

 アタルは笑いを無理やりおさえこんで、平静を装いながら謝罪をする。


『ふむ、その程度のことで腹をたてるつもりはないから気にしないでいい――それで、やるか?』

 アタルの爆笑によって、どうやら先ほどまでの緊迫した雰囲気がどこかに消えてしまっていた。

 だが青龍は冷たい口調で睨み付けつつそう問いかけた。


「あー、話せるなら少し話したいかな。その結果戦うことになったらそれはそれで構わないが、どういう考えで戦うのかとか、そういう部分は話しておきたい。もちろん俺たちが玄武と戦った理由も聞いてもらいたい」

 なぜ青龍の仲間を倒したのか、なぜここに来たのか、なぜ青龍と戦うことになったのか――知性ある相手だからこそ、青龍にアタルは話しておきたいことがあった。


『……それもいいだろう。どうにも先ほどのやりとりで機先を削がれたからな。話してみろ』

 ひと息つくと青龍は身体を下ろして聞く態勢になる。


 キャロとバルキアスとイフリアはここでやっと安堵し、小さく息を吐く。

 これほどの強大な敵を前にして、アタルが爆笑し始めた時には三人とも心臓が止まるかと思うくらいの状況だった。


 我々の主人はなぜ青龍を前にして大笑いしているのだ? 

 そんなことをして怒りを買ってしまうのではないか? 

 出方がわからず最初から全力でこられるのは不利ではないか? 

 そんなことを考えていたため、現在の状況は三人をへなへなと崩れ落ちさせる。


「ん、どうかしたか?」

 そんな気持ちを知らないアタルは不思議そうに首を傾げるが、三人は首を横に振るだけにとどめておく。


「そうか、じゃあ早速色々話をしようじゃないか」

『うむ、ならば言い分があるようだし、お前の話から聞こう』

 青龍は話を催促すると静かに聞き入り始めた。


「じゃあ、まず俺たちが玄武と戦うことになったいきさつと、顛末について話をしよう」

 アタルはエルフの国で依頼を受けたことから話を始める。

 玄武がキマイラだと思われていたこと、実際には玄武であり、その名をアタルだけが知っていたこと。

 アタルがいた場所では、四神のことが物語として語られていたため、名前を知っていたこと。

 

『ふむ、やつには理性がなかったということか……おそらくは魔素が薄い場所にいすぎたのであろうな。それにしても、あやつを倒して核をとったとは、にわかには信じがたいな』

「まあ、それはあとで確認すればいいとして、ひとまず質問をさせてほしい」

 意外そうにしながらもそうなってしまった玄武のことを思って青龍は少し影を落とす。

 だがこのまま会話を終えてしまうと即戦いに戻ってしまうと思ったアタルは質問をすることで会話に引き戻す。


『ふむ、時間はいくらでもあるから構わんぞ。言ってみろ』

「そもそも四神っていうのはどういう存在なんだ? 普通の魔物とは明らかに違うよな? あと、なんでお前は俺たちと戦う前提で話を進めているんだ?」

 アタルの質問に青龍はしばし考え込む。


「……もしかして、作られた存在だからどういう存在だと聞かれても四神は四神だとしか言えないとかか?」

 自分たちが生み出された理由を知らないのは当然のことである。そもそも人間もなぜ生まれたのかと聞かれて答えられるものはいない。


『いや、それはわかっている。我々四体はそもそも普通の神だった。この世界の神と考え方が食い違い、分かたれた神だ。……この世界の神からすれば我々は堕ちた神なのだろうな』

 青竜は重たい口調で静かに語る。どこか自分たちを忌み嫌っているようにさえ聞こえた。


 堕ちた神――そう聞くと、悪い神という印象になってしまう。

 しかし、アタルが話をしている青龍は理性があり、知性があり、対話ができる神である。

 彼らの立場がどうあれ、悪い神だとは思えなかった。


 それゆえに、もう一つの質問の答えが気になっている。


「なるほど……それじゃあ、もう一度質問する。なぜ俺たちと戦う前提でいるんだ?」

『……我はこの場所の守り神だ。お前たちはここにある財宝を欲しいのであろう? であるなら、ここを守るために戦う必要がある――これは必然だ』

 財宝を守るために戦う。これは当たり前のことだから避けようがない――それが青龍の主張である。


「いや、別に財宝はいらないぞ。珍しいし、青龍がいるとは思わなかったからこの話に手をつけたが、それを守っているというなら、わざわざ敵対するようなことはしない。……な?」

 だよな、というようにアタルがキャロたち三人に聞くと、三人ともが当然だと頷いた。


「だったら、俺たちと敵対する理由はなくなっただろ? ここに何かがあると思ったからきただけで、また入れないように封印を施しておくから安心してほしい」

『――ダメだ!』

 アタルの提案は無駄な戦いをしなくてすむと考えれば有用な提案であった。

 しかし、青龍はその提案を強い言葉で否定する。


「……なぜ?」

 当たり前の疑問。先ほどの理由を聞く限り玄武の敵討ちではないことがわかる。

 アタルたちとて無駄な戦いをするほど好戦的ではない。青龍の真意を探るようにじっとアタルは相手の目を見た。


『――ふう、仕方ない本当のことを話そう』

 やれやれと息を吐いた青龍は真っすぐに自分を見つめてくるアタルに、観念して理由を話し始める。


『話をしてみてわかった。お前たちは悪い人間ではない。そして、玄武と戦ったのも筋が通っている。むろん敵討ちをしようなどという気持ちもない。しかし、我々は戦わなくてはならない』

 その理由をアタルは黙って待つ。


『我々は堕ちた神だ。どれだけ理性があろうとも、な。そして、我々が敵対した神はお前たち人に組する神だ。それを我々は許すことができない。お前たちは敵側に属していることになるからな』

「そんな、私たちは……」

 キャロが今にも泣きそうな表情でそう口にする。


『そうだ、お前たちにその意識はない。そしてここで話してみて思った、お前たちは悪いやつではないということを。しかし、堕ちた神となった瞬間から我が魂に刻み込まれてしまったのだ――あの神の側にいるものは全て敵であるとな!』

 ここまでくると、先ほどまで落ち着いていたはずの青龍の口調が次第に荒くなり、ぎらぎらと目の色が赤くなっていることに気づく。


『玄武を倒したというが――我の力を侮るなよ? 全力でかかってこい!』

 もうこれ以上自分を抑え込むことはできないと、理性的だった青龍の表情がただひたすらにアタルたちを敵視したように憎悪に満ち溢れ、口を大きく開けて放った咆哮が衝撃波のようにアタルたちに吹き付けた。


 ――ここから本当の戦いが始まる。


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ポイントありがとうございます。


本年もよろしくお願いいたします。

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