第二百九十六話
さすがに床を剥がして、地面を掘り起こすわけにはいかない。
そう考えたアタルは崖になっている側面から攻めていくことを考える。
「イフリア、頼むぞ」
もちろん、この作戦で最も重要な役割を担うのはイフリアである。
中くらいのサイズに変化して、アタル、キャロ、バルキアスを背に乗せて飛び立ち、目的地へとたどり着くとゆっくりと下行していた。
『ふむ、このあたりから強い力を感じるな』
イフリアがそう判断するとおり、アタルたちも同様に何かの力を感じ取っていた。
「でも不思議ですね。お店にいた時も、街にいた時も、湖にいた時もこんな力感じませんでしたよ?」
アタルたち四人であれば、誰かしらが力を感じ取っても不思議ではない。
「店の工事の際に堅い地層があったって言ってただろ。だから、何かに覆われているんじゃないかな? こうデカい四角い箱みたいな感じ? で、この正面のこの部分だけ薄いんじゃないかな」
アタルは自分の予想を口にする。魔力か何かわからないが、この中にあるものの力が外に漏れないように何かで覆って封じてあるのではないか? と考えていた。
『でも、何があるんだろうね? あれだけの人数が狙うくらいだから何か美味しいものなのかな?』
「バル君……さすがに食べものではないと思いますよ?」
バルの言葉にキャロがツッコミを入れる。
『そっか! 食べ物だったら腐っちゃうもんね!』
「えぇっと……」
そっちの方向に考えたか、とキャロは困った表情になる。しかし、バルキアスの純粋さにすぐに笑顔を取り戻す。
「とにかくここに何かあるのは確実だ。イフリア、少しずつ爪で掘り進められるか?」
アタルの銃では貫通して、中にあるものにまで影響を及ぼしてしまう危険性があるためイフリアに頼むことにする。
『承知した。少し揺れるが、つかまっていてくれ』
そう言われたアタルたちは、振り落とされてないようにイフリアにしがみつく。
イフリア特に力を強く感じる部分の岩を爪でゴリゴリと削っていく。
しばらく掘っていくと直径三メートルサイズの円状の穴が岩肌にあく。すると、なにやら黒い金属のようなものが見えてきた。
「なるほど、これに包まれているのか」
誰が? なんのために? など疑問は絶えないが、まずはこの金属を何とかすることを考えていく。
「ふむどうしたものか」
『……だめだな、思い切り攻撃できればわからないが、爪で削るのは難しそうだ』
イフリアが何度か削ろうと挑戦してみるが、さすがに金属相手では削ることかなわず。
「……」
アタルはしばし考えるが、これしかないとライフルを取り出した。
「アタル様?」
「あぁ、俺が試してみよう。イフリア少し崖から離れてくれ」
『承知した』
少し離れた場所に移動すると、アタルはスコープを覗きこむ。
ただ弾丸を撃っただけでは金属の壁に弾かれて跳弾が危険を及ぼすかもしれない。
弾かれなかった場合、強すぎれば金属を貫いてしまうかもしれない。
そのちょうどいい具合をアタルは狙っていく。
「弾速を遅くして……威力を抑えて……」
上限はあるが、下限はアタルの匙加減で変化させることができるため、ぎりぎりまで調整していく。
「みんな、万が一弾丸が跳ね返ってくるかもしれないから注意してほしい」
仲間たちが頷いたのを確認して、アタルは引き金を引く。
勢いよく発射され、金属に当たった弾丸は跳ね返ることなくポトリと落ちた。
「ふーむ、あれだと弱すぎるのか。じゃあ、少し威力をあげて……」
それからアタルは数回試行して、丁度いい威力を確認していく。
「よっし! 金属に弾がめり込んだぞ。この威力でいけば壁が取り外せるはずだ」
ちょうどいい威力の弾丸を何発も打ち込み、丸く一周させていく。
「ふう、これでいけるだろ。イフリアあそこを押してみてくれ」
『うむ』
アタルが弾丸で描き出した円の中心をイフリアが押し込むとギギギギという金属が擦れるような音を立てて、奥にバタンと落ちた。
「これで入れるな。イフリア、俺たちを先に降ろしてから小さくなって入ってきてくれるか」
中に入ってみると、外見よりもはるかに広大な空間が広がっている。
「あの金属の中は亜空間みたいになっているのか?」
「ですかねえ。少し肌寒さもありますし、なんか神殿みたいですっ」
金属で包まれているはずのこの場所。地面は大理石のような素材でできており、何本も立っている柱も同様の素材でできているようである。
入り口側以外の壁はざっと見える範囲には見当たらない。
「どうしましょうか? これだけ広いとどう見ていくか進路が決めづらいですね」
音が反響し、匂いも壁など以外の匂いがせず、認識が阻害されやすい場所であるためキャロは慎重になっている。
「そうだな、とりあえず俺の弾丸を一定間隔で落としてたどれるようにしておこう。恐らく俺たちが入ってきた場所が海側の中央になるはずだから、まずは直進だ」
「わかりましたっ」
『うむ、金属が最も薄いのがあの場所だったからその予想であっているだろう』
イフリアもアタルと同様の考えであり、また自分でも入り口から魔力をたどれるように残滓を残していくことにする。
『アタル様、何か美味しそうな食べ物があったら入り口あたりにおいてくれる?』
バルキアスも彼なりにたどれるように考えを巡らせているようだった。
「そうだな、手はいくつも用意しておいたほうがいいだろ。ほれ」
入り口の方向へと串にささった肉を一つ放り投げる。
『ガウガウ、美味しい!』
しかし、それはバルキアスによって見事にキャッチされて、そのままバルキアスの胃袋に収められていく。
「おい! 食うのかよ!」
思わずアタルがツッコミを入れる。
『はっ! 美味しそうだったから思わず……で、でも、串を残していけばその匂いをたどれるから!』
もごもごと咀嚼するのに夢中になっていたバルキアスは慌てて飲み込み、額に汗を浮かべながらなんとか取り繕おうとするが、動揺しているため目が完全に泳いでいた。
「はあ、まあいいさ。目的はここに戻れることだからな。とりあえず、奥に向かって行こう。漠然とだが真っすぐ向かった方向に何か力を感じる気がする」
「ですねっ。この空間全体に魔素が満ちているのでわかりづらいですが……」
キャロも同じことを感じているらしく、先ほどから強い力の方角を探ろうとして魔素に邪魔されていた。
「この場所は普通じゃないな。まるで……」
海底の神殿が最もイメージが強い。しかし、あの場所は守護されている場所であるため、違うだろうとアタルは首を振る。
「さあ、出発しよう」
「はいっ!」
『うん!』
『承知』
それぞれが周囲を探りながら歩を進めていく。
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