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第二百九十話


 もう既に何人かの客が店の中にいたため、その客たちを怯えさせないためにも強面のバンブには外で待ってもらい、アタルとキャロはそっと中の様子を確認する。


「いやあ、また再開してくれてよかったよ。仕入れが滞ってそのまま辞めた店もいくつかあったからなあ……ここは続けてくれるみたいで安心した」

 安心したように笑いかけながらニャムに話しかけていたのは支払いを終えた常連客の一人のだった。


 休店前には週に数回訪れていたほどのリピーターである彼は、この店のオープンをいまかいまかと待ち望んでいた。


「そう言ってくれると嬉しいです。がんばりますのでまたよろしくお願いします!」

「あぁ、また寄らせてもらうよ」

 笑顔で手を振りながらそう言うと彼は店をあとにする。


「なかなか上々な反応だな。ただ……」

 店をあとにした客の他には、一組の老夫婦がいるだけであり、決して繁盛してるとは言い難かった。


「ふむ、うちの店よりは客が入っているようだが、それほどでもないな」

 外で待っているはずのバンブがぬっとあらわれて、そう評した。


「ちょ、バンブ、外にいてくれって言っただろ? 何もそんな本当のことを言わなくても」

 失礼な物言いのバンブを注意しようとして、これまた失礼なことをアタルが口にする。


「お二人とも、お客様がいるのに失礼ですっ。そういう話はあとでしましょう!」

 キャロがアタルとバンブを注意するが、一番大きな声になっていることに気づいたのは視線が彼女に集まった数秒後のことだった。


 店に沈黙が生まれるが、その沈黙を破ったのは客として来ていた老夫婦だった。

「ほっほっほ、構わんよ。賑やかなのは歓迎じゃ。お前さん方の言うことももっともじゃからな。この店の料理は美味いし、ニャムの接客態度もいい。店の雰囲気も悪くない――じゃがなぜか人がいつかんのじゃよ……」

「えぇ、なんとか頑張ってほしいのですけどねえ」

 穏やかにそう言う老夫婦は、この店のことを案じているようだった。


「さて、わしらも食べ終わったからこれでおいとましようかの。ニャム、料金はここにおいておくよ。それじゃあまた来させてもらうよ」

 ゆっくりと立ち上がった二人はアタルたちにも頭を下げて店を出て行った。


「――あの夫婦も感じていたようだが、やっぱりこの店はリピーターがいつかないな。そこで助っ人を一人連れてきた。紹介しよう!」

「バンブさん!」

 姿を確認したニャムは大きな声で彼の名前を呼ぶ。


「おう、ニャムか。久しぶりだな、カッターも元気か?」

「はいっ! ……もしかして、アタルさんが連れてくるといった料理人とはバンブさんのことですか?」

 お互い知り合いであるのを知らなかったアタルは、驚きの余り一瞬時が止まってしまう。


『紹介しよう!』

 などと言ったアタルは、一見冷静な表情に見えたが、気恥ずかしさと驚愕を飲み込むので必死だった。


「も、もしかして二人は知り合いだったのか?」

 それでもなんとか動揺をおさえつつ、アタルがバンブとニャムに質問する。


「うむ、カッターは俺が修業時代に同じ店で働いたことがあるんだ。……俺のほうが先にいたんだぞ!」

 なぜかそこを誇らしそうに胸を張るバンブ。うんうんと一人納得したように頷いている。


 そんなやりとりが聞こえていたのか、厨房からカッターがやってくる。

「む、バンブ兄さん。まさかあなたがアタルさんたちと知り合いだったとは思わなかった……だが、兄さんなら歓迎だ。誰が来るのか不安はあったが、それも解消されたよ」

 カッターの表情に変化はほとんどなかったが、それでも安心している空気をアタルたちは感じていた。


「客が途切れたから一旦店を閉めよう。少し今後の話をしておきたい」

 アタルの言葉に全員が頷き、店に閉店のかけ札をかけてカーテンを閉める。

 いくつかのテーブルを中央に集めて、全員がそれらを囲むように座った。


「まず、今後のことを考えればバンブと二人が顔見知りなのはよかったよ。それじゃ、これからの話と抱えている問題をまとめよう。まずバンブの店が繁盛していない理由はバンブの顔が怖すぎるのと、店が開いているように見えづらいからだ」

 アタルが最初に説明したのがバンブの店が流行らない理由、しかもどストレートな物言いだったため、バンブは口を開いたまま固まっている。


「一つ質問には答えた。次に行こう。まずこの店が抱えている問題を確認していこう。久しぶりにオープンしたからかもしれないが、とにかく客が少ない。今日は全部で何人の客が来たんだ?」

「えっと……さっきの二組のお客さん合わせて、全部で五組です」

 アタルの質問に、ニャムが考えながら答える。


「もう昼時だけど客がくる感じはないから、ちょっと厳しいよな。バンブの店よりはましだけど」

 引き合いに出されたバンブはがっくりと未だ項垂れたままだった。


「でも、料理は美味いし、店の雰囲気もいい。ニャムの接客もいい――じゃあ、問題がどこにあるのか?」

 アタルはみんなに質問を投げかける。


「えっと、目新しい料理がないとかですか?」

「立地に問題がある?」

「ニャムとカッターの顔が怖い」

 首を傾げたニャムは料理、考え込むような表情のカッターは場所、そしてバンブはむすっとしたまま半ば八つ当たりで答える。


「まず、顔は問題ない。料理もな。場所は確かに人通りは少ないが大きな理由ではないだろう。となると、何が理由なのか……おそらくはこの店が流行らないように妨害しているやつがいる」

 その言葉にはニャムもカッターも驚いていた。


「この店を監視しているやつらがいた。それに関してはバルとイフリアが確認している。加えて俺たちも監視されていた。それはバンブも一緒に確認したよな?」

 アタルに話を振られたバンブは無言で頷いている。


「ほ、他の店による妨害ですか? それとも、私かカッターに恨みをもった誰かが?」

 ニャムにもカッターにも心当たりはないが、知らない間に恨みを買ったのかもと不安になっているようだった。ぐっと硬くなった表情に二人の不安がにじみ出ていた。


「そのあたりはまだ調査中といったところだな。ただ、店の営業を妨害する意味があるのかどうかという疑問はある。街の中心からは離れているし、近くに食事ができる店もない。競合店がないのにこの店の邪魔をする理由もない」

 そうなると、二人が恨みを買っているのか? という結論に至り、ニャムの顔は青くなり、カッターは彼女の肩に手を置いていた。


「――それはないな」

 そうはっきりと断言したのはバンブだった。

「俺もそう思う」

 それに続いたのがアタルだった。


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