第二百八十八話
二人の報告を聞いたアタルは立地や店自体以外にも問題があるだろうと予想しており、恐らくはその予想が当たっているために満足そうに頷いていた。
店の中に入ると、掃除が完全に終わっていた。どこもかしこもピカピカと輝いているように見える。
「おぉ、すごいな。これならいつでも客を迎え入れられる」
「念入りに磨かれていますね。これなら気持ちよく店にこられますねっ」
二人が店内の変わりように感動していると、奥の厨房からニャムとカッターがやってきた。
「お二人ともお帰りなさい!」
「お帰り、明日には店が開けそうだよ」
ニャムが笑顔で、カッターはどこか疲れた様子でアタルたちを迎える。
「それはよかったよ。仕入れのほうは問題なかったか?」
仕入れを邪魔される可能性もあったため、アタルが確認する。
「はい、いいお魚も入りましたよ! これなら美味しい料理が作れます!」
ニャムはホクホク顔で力強く頷く。
ニャムたちの料理は、有り合わせの材料で作ってもかなり高いレベルであったため、アタルもキャロもそれはよかったと頷く。
「それで、どうしましょうか?」
ニャムの質問――これが意味するところは、これから店を繁盛させるために何をやっていくのか? というものである。
「とりあえずは普通に営業してくれ。普段の店の様子を見てみたい。明日はバルとイフリアにはどこかで休んでもらって俺とキャロが店を見ていよう」
その提案を聞いたニャムは不安そうな顔をする。
「えっと、その、お二人のことを疑うわけではないのですが……それでも、その……」
なんとかカドがたたないように言葉を選ぼうとするニャムだったが、うまく言葉にできずにいる。
「わかる。何を言いたいのか、どんな気持ちなのか……そうだな、そのままの状態で店を開けてもよくないだろうから少し話をしようか。何か飲み物を出してもらえるかな?」
アタルの提案にカッターが飲み物の用意に向かい、ニャムはテーブルに着く。
ほどなくして人数分のお茶が用意されたところでアタルが説明を始める。
会話が外に漏れないようにバルキアスが外の警備をして、上空ではイフリアが周囲を探っている。
「まずはこの店に対する俺の評価だが……まず料理は美味い。昨日の料理からの判断になるけど、下処理もしっかりしてるし、味付けも、食べやすさもすごくレベルが高いと思う」
これを聞いて、顔には出していなかったがカッターは心の中で喜びをあふれさせている。
「あ、ありがとうございます……!」
店の問題についての話であるため、否定や批判の言葉がくると身構えていたニャムも面喰ってしまう。
「私も同意見です。加えて、お店の内装も落ち着くものですし、ニャムさんの接客もとても好感がもてて、また来たいなって思いますっ!」
にっこりと笑顔でキャロも店のことを絶賛する。
「キャロさんもありがとうございます」
彼女の笑顔に釣られるように微笑んだニャム。自身も店を気に入っているため、褒められたことで自然と笑顔になっていた。
しかし、カッターは眉間にしわを寄せている。
「……なら、なんでうちの店は繁盛しないんだ? そもそもまた来たいなと思う店であるにも関わらず、うちはリピーターが少なすぎる」
カッターは厨房作業がほとんどだが、それでも来た客の顔をたまに確認していた。その中で、リピーターが少ないことを感じ取っていた。
「いい質問だ。俺もそれが疑問だったから、今日一日バルキアスにこの店の番をさせていたし、イフリアにも上空からの見張りをさせていたんだよ」
空気が変わり、本題に移ったとわかるアタルの言葉に、ニャムとカッターの表情が引き締まる。
「その前に一つ言っておくが、俺とキャロは今日、街のいわゆる繁盛店といわれるような店を回ってきてここがそれらに大きく見劣りする店ではないと確信している。じゃあなんでこの店が繁盛していない、そこそこ以下の店に甘んじているか……」
一瞬のタメ。
「――はっきりいうと、この店を妨害する者がいる。最初のうちはもしかしたら同業者の仕業かと思っていたんだが、そのメリットはあまりないように思える。もしそれをするなら、もっと他にもたくさんの繁盛店がある。そっちをどんどんつぶしたほうがいいだろ?」
そこがアタルには疑問だった。
この店のようにやや外れにある店にも、街中にある店にも、こじんまりとした店にも、大きな店にも繁盛店はあった。
「で、では何かの目的があってうちの店の妨害を?」
ニャムの質問にアタルが頷く。
「もちろんその理由に関しては、まだ理解していない。だから、しばらくは普通に営業をしてもらって、誰がそれをしているのかを突き止めようと思っている。加えて、この店の料理のレパートリーを増やすために一人料理人を迎えたいと思っている」
このアタルの話を聞いて、隣にいるキャロはなるほどと一人色々を理解していた。
「りょうり、にんですか……?」
自分たちの店に料理人の部外者を入れる。それはカッターのプライドを傷つけるのではないかとニャムがそーっとカッターの表情を伺う。
「わかった。俺の料理に問題がないことはあんたたちが宣言してくれた。そのうえでこの店の幅を広げるために必要だというのなら、その料理人を迎えることに抵抗はない」
ハッキリと言うカッターを見てニャムは頬を赤らめる。
(カッコイイ……!)
「カッコイイ! えっ!?」
心の中で思った言葉が思わず口から漏れたことにニャムは自分で驚いてしまう。
言われたカッターはぼっと顔を赤くして、アタルとキャロはまいったなと笑顔で仲睦まじい二人の様子を見ていた。
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