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第二百八十話


 あとになって知ったことだったが、アタルたちとフランフィリアは同じ宿に泊まっており、翌昼前に出発する段階になってそれに気づいた。


「まさかフランフィリアも同じ宿に泊まっていたとはな。でも、これで待ち合わせをする手間が省けたからよかったよ」

 冒険者ギルドへ向かいながら、肩を竦めたアタルがそんなことを口にする。


「受付前でみなさんに会った時にはビックリしましたよ」

 クスクスと口元に手をやりながら笑うフランフィリアも宿でのことを思い出して、楽しそうにしている。

 ギルドマスターとしての顔の時は、責任感が気持ちを緩ませずにいたが、今はアタルたちの仲間の一人であるかのような感覚だった。


「とにかく、まずはセイラに報告をしよう。次のことはそれから考えればいい」

 アタルの言葉に一同が頷く。


 宿からギルドもさほど離れていないため、あっという間に到着してしまう。

 一瞬だけフランフィリアは足を止めるが、気づくか気づかない程度のものであり、すぐにアタルたちに続いてギルドの中へと入る。


「すまない、俺の名前はアタルという。ギルドマスターのセイラに報告があるんだが取り次いでもらえるか?」

 カウンターに向かうと、アタルは用件を単刀直入に受付嬢へと伝える。

「少々お待ち下さい。報告してまいります」

 その受付嬢はアタルの顔を記憶しており、迷いなくセイラのもとへと向かって行った。


 しばらく待っているとすぐに彼女が戻り、そのままギルドマスタールームへと案内されることとなる。


「おかえりなさい、みなさん無事で本当によかったです。フランちゃんも元気そうでよかったわ」

 笑顔で彼らを出迎えたセイラは、アタルたちにはギルドマスターとして、フランフィリアには友達として言葉をかける。


「来て早々だが、報告しても構わないか?」

 アタルは雑談を交えるつもりはなく、依頼の完遂を先に行っておきたかった。


「えぇ、かまいません。むしろこちらからお願いします」

 そこからセイラは表情を引き締めて、ギルドマスターとしてアタルたちの報告を聞く姿勢をとる。


「それじゃ、始める。――俺たちは船で現地に向かってから、水の中に潜っていった。神殿はあったが、結界などは張ってなくて、そのまま入ることができた」

 それだけで異常なことであるとセイラは理解している。あの神殿は神聖な場所であり、常に守られているというのが常識だった。


 しかし、アタルの報告は続いているため、余計な口を挟まずに話を聞くことにする。


「中に入った俺たちは違和感を感じた――音が全くしなかったんだ。あの場所がどういうところなのかは知らないが、生き物の気配だったり、何か音が聞こえてもいいものだろ? それがなかった。響くのは俺たちの声と足音だけ……進んでいくと、結界が何重にも張られていた。かなり強力なやつだ」

 真剣な表情のアタルの説明を聞いて、はっとしたようにセイラも気づく。


「なるほど、誰かが張った結界のせいで奥で起きている音が全く聞こえなかったのですね。しかも強力な結界とあっては、それを破るのも難しい……」

 神妙な面持ちで話すセイラの言葉にアタルは頷く。


「まあ、その結界は俺が破ったんだ。それよりも奥にいたやつらが、今回の元凶だった――魔族とそのお供の精霊たち。そして、そこには守り人と呼ばれる神殿を守護しているやつもいた」

 魔族と聞いてセイラは大きく目を見開いて息を飲む。


「その魔族は俺たちが戦ったことのあるやつだった。名前をラーギル。そいつは目的を達していたらしく、すぐにその場をあとにしたから戦闘になることはなかった、その場ではな」

「……その場、では?」

 アタルの言葉に引っ掛かりを覚えて質問するが、まあまてとアタルは手で止めるような動きをする。


「とりあえず傷ついた守り人の治療をして、ラーギルが何を狙ってきたのかを確認した。『水の宝玉』というものを狙っていて、それを奪われたとのことだった。よくわからんが、かなりの力を秘めているらしいな」

 アタルが盗まれた宝の名を口にすると、セイラがフランフィリアに視線を送る。


 しかし、フランフィリアはその視線に対して小さく首を横に振った。

 セイラも知らず、フランフィリアも知らない。


「とりあえず、ラーギルの目的を聞いた俺たちは報告のために神殿を出ることにした。外に出ると、ラーギルの連れが待っていた。連れといっても、精霊のほうじゃなく魔の森にいるといわれている魔物だがな」

「ま、魔の森!?」

 ここにきて、またもやありえない言葉を聞いたため、セイラが思わず立ち上がってしまう。


「あぁ……やっぱりそこは驚くところなんだな。俺は魔の森のことをよく知らないから、そういう場所にこういうのがいるんだな程度にしか思わないんだけどな」

「アタル様。親から昔話を聞かされた人たちはみんな魔の森のことを知っていると思われますっ。畏怖の対象であり、おとぎ話にしか出てこない、実在しない場所――そう捉えている方がほとんどだと思います」

 アタルには実感がないため、キャロが補足をする。


「なるほどな。まあ、俺たちがアレと戦ったのは二度目だからそこまで驚きはないけど、やっぱり強かったな」

 黒トカゲとの戦いを思い出して、強さを再認識していた。


「そ、そりゃ強いなんてものじゃないでしょ! あの魔の森の魔物ですよ? その名を聞けばみんな震えて逃げるほどですよ!」

 あたふたと慌てるセイラを見たアタルは面白くなって、口元に笑みが浮かんでいた。


「まあ、俺たちがここにいるということはそいつを倒したということだ。フランフィリアの助けもあったし、なんとかなってよかったよ」

 急に名前が出たため、フランフィリアは一瞬キョトンとしている。


「……いや、そんな! アタルさんたちの力がほとんどで、私の力なんてほんの添え物程度でした。それほどにアタルさんたちは強かったですよ」

 自分に振られるとは思っていなかったのか、何を言われたか理解すると慌てたようにフランフィリアは手と首を振る。

 謙遜しているわけではなく、それほどに実力差があると彼女は感じていた。


「まあ、とにかくその魔物も倒して俺たちは戻ってきた。神殿も恐らく守り人が立て直すから一件落着ってことで報告になる」

 アタルはこれで全てだと打ち切ろうとするが、セイラには聞きたいことが山ほどあり、報告はしばらく続くこととなる。


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