第二十八話
「いや、だから三百二体……」
聞き返されたのだと思ったアタルが返した言葉にギルド内は一瞬で静まりかえる。
「す、すごいです! さすがアタル様ですね!」
だがその中でも空気を読まずにアタルを称賛したのはキャロだった。手をぎゅっと胸の前で握って今にも飛び跳ねそうなくらい喜んでいた。
「な、なあ、キャロ。褒めてくれるのは嬉しいんだが……これ、もしかしてあれか?」
なんとなくバスタの数字を聞いたときからわかってはいたものの、困惑しながらアタルは念のためキャロに確認する。
「あっ、あの……そうです」
言いにくそうなアタルの言葉にキャロは耳をピンと立ててはっとなり、おずおずと頷いた。
「あの、私たちのようなFランクでこれだけの数字を出すことは異常なことです。と言いますか……一番倒した方の倍以上倒している時点で、その……」
キャロに指摘されるまでもなくわかりきったことだったが、アタル自身も自分の数値に驚いており、珍しく混乱している様子だった。
「ご、ごほん。とにかく今回の討伐結果はアタルさんが一位、次いでバスタさんが二位という結果になりました。これに対して、出発前にアタルさんと揉めていた方々は明らかに劣る結果となりましたので、この勝負アタルさんの勝利ということに……」
滅多に見れないであろうアタルの動揺に微笑み、気を取り直したフランフィリアがそう宣言しようとした時に、それを中断する声があった。
「ちょっと待った」
その声の主にみんなの注目が集まる。その主は混乱から立ち直ったアタルだった。
「その賭けだけど、もういいんじゃないか? 俺の実力はわかってもらえただろうし、もうあんな風に絡んでくることもないだろ?」
ここまで圧倒的なまでの数字をたたき出したアタルの言葉に、出発前に絡んできた冒険者たちは必死に何度も頷いていた。
「だったら別にいいさ。みんなで魔物から街を守れた、それが大事だろ。それに……報酬はギルドからたんまりでるだろうからな」
にっこりと一見綺麗な笑顔で言うアタルの言葉を聞いて、冒険者たちは笑い、頬を引くつかせたフランフィリアは汗がつたっていた。
「は、はい、あの、それはもちろん善処します。とりあえず、みなさんの討伐数は記録されましたので、本日はこれで解散しましょう。また、明日ギルドにいらして下さい」
すぐに報酬をもらえないとわかった冒険者たちは口々に文句を言いながらも、街を守れた達成感と大きな戦いを終えた高揚感から素直にギルドをあとにする。
「申し訳ありませんが、アタルさんとキャロさんはこちらへお願いします」
「……行かなきゃダメか?」
それに乗じてギルドを出ようとしていた二人はフランフィリアに声をかけられ、嫌な予感がしたアタルは微妙な表情になる。
「すいません、お二人、というよりもアタルさんの討伐数がちょっと多すぎるので色々とご相談したいのです」
フランフィリアは申し訳なさそうな顔だったが、その中には逃がすわけにはいかないという意思が込められていた。
「……はあ、わかったよ。良い話であることを期待しておこう」
肩を竦めて頷いたアタルに対して苦笑しながらも、フランフィリアはギルドマスタールームまで先導する。
「二人ともそちらにかけて下さい。今、お茶を用意しますね」
ギルドマスタールームへ入ると、アタルとキャロはすすめられるままにソファに座り、フランフィリア自らお茶を用意していく。
「お待たせしました……それで、お二人の報酬の話なんですが、キャロさんは他の方と同じように規定どおりの報酬をお渡しします。問題はアタルさんです……」
そこまで言うとフランフィリアは言いよどみ、ぐっと厳しい表情になる。
「少し、多すぎたか」
「すこっ! ……いえ、そうですね、少し多いかもしれません。ですが、問題は別にあります」
あれだけの討伐数を少しという言葉で片づけようとするアタルに驚いたフランフィリアだったが、なんとか冷静さを取り戻す。
「他になんかあったか?」
「あります! 今回の戦いで最も強力な敵だったギガントデーモン。これに止めをさしたのはアタルさん、あなたです」
ぴしりと人差し指を立てたフランフィリアの指摘に今度はアタルが驚く番だった。
「いや、いやいや、あれはほら、俺とフランフィリアとバスタと、ほらあと二人いただろ?」
アタル自身、あの戦いはフランフィリアをはじめ、他の三人がいたからこその結果だと思っていた。だからこそあの戦いを自分だけの手柄にするつもりはなく、ギガントデーモンとの戦いに参加したメンバーをあげていく。
「もちろん私を抜かした三名の方にはそれぞれ報酬を加算します。ただ、あの戦いはアタルさんがいなければ、決して成り立たなかったものです。それは他の方たちも理解されています」
ここにくるまでに既にフランフィリアは三人と話をしていた。他の三人もそのことについて異論はないようだった。
「なのでアタルさんには更に報酬を、と言いたいところなのですが……今回かなりの金額をギルドの持ち出しで支払うことになってしまうので本来の報酬をお支払いするのがなかなか厳しいのが現状です」
今回の戦いはそれだけ厳しい戦いであったことを理解しながらも、ギルドマスターとしてのフランフィリアは眉間に皺を寄せている。
「あぁ、まあ別に他のやつと同じで構わないさ。それでもそこそこの報酬になるだろうから」
ギルドで払える範囲内で全員に支払ったとしても、アタルの懐に入る金額は多いものであると容易に想像できた。だからこそ、ギルドが破たんするような報酬を要求するつもりはアタルにはなかった。
「そう言って頂けるのはありがたいのですが、それでは私の矜持が許しません。なので、マジックアイテムをいくつかお譲りするということでどうでしょうか?」
フランフィリアからの思わぬ提案に、元Sランク冒険者の持つマジックアイテムといえば、かなりレアなものがあるはずとアタルとキャロの目は期待に輝いていた。
「そ、そんなに期待されても困りますが……まずはこれを」
そう言って彼女が取り出したのはバッグだった。
「これは……」
「もしかして……」
顔を見合わせたアタルとキャロは同じことを考えていた。
「ご存知でしょうか? これは拡張魔法がかけられているマジックバッグで、見た目以上にかなりの物を収納することができます」
「知っています! 前にアタル様とも話したのです、これがあれば便利だなあって……」
初めて見たマジックバッグにキャロの目は最大限に輝いていた。
「ふふっ、喜んで頂けて嬉しいですが、このバッグの説明には続きがあるのです。なんとなんと、このマジックバッグ、拡張魔法だけでなく時間停止魔法までかけられているものでとても貴重なのですよ!」
それを聞いたキャロは驚きすぎてあんぐりと口を開けて言葉を失っていた。
「ふーん、それは便利そうだな」
「あ、あれ? あまり驚かれないのですね」
思っていたよりアタルの反応が薄かったため、フランフィリアは肩透かしを食らった気分になっていた。
「あぁ、いやすまん。キャロの反応をみると貴重なものだってのはわかるんだが、なんせ俺はもの知らずなもんでな」
バツの悪そうな表情でアタルは頭を掻きながら謝った。どちらかというとマジックバッグを買おうと思っていただけに都合よくそれが報酬としてもらえる方が驚いていたくらいだったのだ。
「い、いえ、他にも二つほど用意しましたので、こちらもご確認下さい」
気を取り直したフランフィリアが用意したものはどれも貴重なものであり、残り二つにはアタルも素直に驚いていた。
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