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第二百五十三話


 竜種との戦いという大きな案件を片付けたアタルとキャロ、そしてバルキアスとイフリアの四人は大臣宅に向かっていた。


「狙ってはいなかったが、大臣とつながりができていたのはこういう時に助かるよなあ」

 アタルは馬車を操縦しながらキャロに声をかける。

「は、はい。そ、そうですねっ……」

 しかし、キャロは緊張からからどもっている。


「……キャロ、不安か?」

 彼女の様子を案じたアタルが優しく声をかける。バルキアスがそっとキャロの側に寄り添った。


「う、うぅ、正直に言えば不安です……」

 あの後大臣の使者が冒険者ギルドの近くまでやってきて、アタルたちに調査結果が出たと報告してきた。

 そこからずっとキャロの表情はうかないものだった。


「だろうな……」

 物心ついたころにはキャロは奴隷として生きていた。それゆえに、家族の顔も、隣人の顔も、友達の顔を覚えていない。


 今更会って何があるのか? 誰も自分のことを覚えていないんじゃないか? 

 覚えていたとして、急に姿を見せても迷惑なんじゃないか? 親は生きてるのか? 生きてるならなんで……。 

 生きてたら何を言えばいいのか?


 そんな複雑な思いが彼女の心の中をぐるぐると回っていた。

 そのことを考えるだけでどんどん暗い気持ちに沈んでいくのをキャロは感じている。


「キャロ、大丈夫だ。何があっても俺が一緒にいる。受け入れられても、拒絶されても、何もなかったとしても、俺もバルもイフリアも、お前と一緒にいる」

 そんな暗闇の底に落ちていきそうになっていたキャロに一筋の光が差し込むようにアタルが声をかけた。

 アタルは隣りに座っているキャロの頭に手を置きながら、彼女の不安が少しでも落ち着けばと優しく笑いかける。


 アタルがキャロのことを思っている、その気持ちが手のひらから伝わってきた。


「っ――は、はいっ!」

 嬉しさから耳がピンと立ち、心なしか尻尾もぴこぴこと動いていた。


 そして、バルキアスとイフリアも御者台にやってきて両脇からキャロに顔を擦りよせてくる。


「ふふっ、バル君もイフリア君もありがとうございます……っ」

 四人は強い絆で繋がっている。そのことをキャロは再認識することができ、先ほどまでのうつうつとした表情はどこかに消え、ふにゃりと嬉しさに笑顔になっていた。





 大臣の屋敷に到着する頃には、再びキャロに緊張が戻っていたがそれでも暗い表情ではなかった。


 屋敷入口で衛兵に用件を伝えると、すぐに大臣のもとへと案内される。


「やあ、よくきてくれたね。聞いた話だと、またデカイ依頼を達成したとかなんとか」

 にこやかな表情で大臣が言う。彼もアタルたちが活躍しているのを嬉しく思っているようだった。


「まあ、ちょっと竜とな。といっても、俺たちがどうこうしただけじゃなく、Sランク冒険者もいたし、他の冒険者も多くいたからな」

 アタルは肩を竦めながら自分の力だけじゃないということを念押ししておく。


「ふむふむ、なんにせよ見事依頼を達成したのはすごいことだ。竜などそうそう出くわすものではないからな。大きな戦いだったのだろう……」

 うんうんと一人納得する大臣を見て、アタルは目を細める。


「俺たちのことを褒めてくれるのはありがたいんだけど、そろそろ本題に入ってもらってもいいか?」

 アタルの発言にキャロは緊張の面持ちで何度も頷いている。


「あぁ、そうだった。キャロさんの故郷の話だったね。これを見てもらえるかな」

 思い出したようにそう言うと、大臣はテーブルの上に地図を置く。全員の視線がそこに集中した。


「ここが我々がいる街。ここから東に行った場所、この辺りにある集落。ここが兎の獣人が住んでいる拠点だそうだ。そして、色々と情報を集めた結果、キャロさんのことを知っている人物がいるということまで掴んでいる。ただ、それが家族なのか知人なのか、ただ一方的に知っているだけなのかはわからない――この先は、実際に行って確かめてもらいたい」

 アタルは情報があるなら早く出せばいいのにと思い、キャロは自然と身体が震えていた。


「なんにせよ、場所がわかったなら早速行ってみよう……問題はないよな?」

「あぁ、もちろん。特に話はしていないが、情報を集めた段階で何か噂も広まっているかもしれない。それだけは覚悟しておいてくれ」

 その噂が良いものか悪いものかはわからない。それが大臣の言いたいことだった。


「了解。それじゃあキャロ早速行こう」

 時間をかければかけるほどに、キャロの不安が大きくなってしまう。動くなら早い方がいい――アタルはキャロのことを考えてすぐに立ち上がった。


「は、はい!」

 キャロはとまどいつつも返事をし、大臣に一礼するとアタルのあとについていく。


「それじゃあ大臣さん、ありがとうな。助かったよ」

「もう行くのか? もう少しゆっくりしていっても。息子のレユールも外出しているが、そろそろ戻るはずだ。顔を見せてやってくれても……」

 大臣も立ち上がり、しかし二人のことをもう少しとどまらせるために声をかける。


「まあ、すぐに旅立つ予定はないから、また顔を出させてもらうよ。今日は、キャロを故郷に連れて行ってやるのが最優先だ」

 そう断じるアタルに、キャロはおずおずと進言する。


「あ、あの、私は別に急がなくても……」

「――ダメだ」

 アタルは明確な意思を持って彼女の言葉に反対する。


「うぅ……」

 その言葉に、キャロは表情を暗くしてしまう。

 彼女の表情を見てもアタルはその言葉を曲げるつもりはない。だが、説明をしっかりしておこうと目線の高さをキャロと合わせて話を始めた。


「キャロ。キャロが言うとおり、別に急がなくても大丈夫だ。レユールが戻ってきて、少し話をして、それから出かけても十分だと思う」

 アタルの言葉に、そうだろうと大臣は頷いていた。キャロはアタルが何を言いたいか必死につかもうと耳を傾ける。


「……だけど、それは時間としての話だ。キャロの気持ちの問題を俺は言っている。故郷の場所がわかった。でも、そこに行ったとして何かがあるかもしれないし、何もないかもしれない――キャロはずっとそれを考えているだろ? そんな心境のまま、レユールと話して楽しいか? レユールはそんなキャロと話して楽しいか?」

 レユールの眩しい笑顔を思い浮かべながら、キャロは無言で首を横に振る。


「仮に、その場で取り繕えたとして、様子がおかしいことにレユールは気づかないのか?」

 今度の質問はキャロにではなく、大臣に向けたものだった。


「い、いや、あの子ならキャロさんがいつもと違うと感じ取るかもしれない……なるほど。君の言うとおりだ。キャロさんをそこに連れて行くのが最優先。それが正解だ」

 それぞれの気持ちや、気持ちを慮れるということを考慮しているアタルの考えに、大臣も賛同する以外なかった。


「というわけだ。まずは、そこに行こうじゃないか」

「は、はいっ!」

 今度は暗い表情ではなく、色々と考えてくれているアタルとなら大丈夫だという気持ちでキャロは返事をした。



お読み頂きありがとうございます。

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