第二百五十話
「ふう、なんとかなったな」
アタルはやれやれといった様子でライフルを下ろす。
「キャロ! バル! イフリア! フェウダー! 無事か?」
身体を起こしている四人にアタルが声をかける。
「ア、アタル様! 私は無事ですっ!」
『ガオガオ!』
「あ、あぁ、なんとかな」
『あの程度、どうということはない』
無事そうな四人の反応を聞いて、アタルはほっとする。
「みんな無事かよかった。……それよりなんとかなったが、一体何があったんだ?」
なぜあれだけの竜が一か所に集まっていたのか? それをアタルは気にしていた。
「おおおおおい! 大丈夫かああああ!」
オニキスドラゴンが倒れたのを確認したバートラムが、大きな声をあげて手を振りながらアタルたちのもとへとやってくる。
「あぁ、バートラムか。みんな無事みたいだ。なんとかオニキスドラゴンも倒せたよ」
「よ、よかった。まさかこれほどの戦いになるとは思わなかったよ。やはりフランフィリアさんの話は本当だった。アタル君とキャロさんに頼んでよかった……フェウダー君も参加してくれて助かったよ。ありがとう」
ほっとしたように息を吐いたバートラムが感謝の言葉と共に深々と頭を下げる。
多くの冒険者が今回の依頼に参加していたが、その中でもアタルたちの戦果は圧倒的であり、その姿を見た冒険者たちの中から誰一人として文句は出なかった。
「まあ、依頼が達成できてよかった。――それよりも、やるんだろ? 竜の解体。竜の鱗、牙、翼、爪、肉、魔核、骨も全部素材になるしな?」
ゲームや物語は大抵そういうものであるため、アタルが質問すると、バートラムは驚いたように頷く。
「あ、あぁ、ま、まさか君が解体のことまで考えているとは……。確かにそのとおりなんだが、少し手が足りないんだ。解体をできる冒険者なんてのも少ないからね」
それを聞いたアタルが柔らかい表情でキャロを見る。
「はい! 大丈夫です、私なら解体できると思いますっ。竜は命を失うとやや硬度が下がってしまいますが、魔力も合わせて使えば解体できると思います」
活躍できることを嬉しそうにしながらキャロは早速やろうかとナイフを取り出す。
「キャロさんは解体ができるのか、それはすごい……。しかし、一人では全て行うのは難しいな」
バートラムはキャロの申し出を良く思いつつも、彼女一人に任せるのは問題があるとも考えている。
「なら、小さな竜から順番にキャロは解体を始めよう。あんたは街に戻って解体要員を連れて来てくれ。俺もキャロを手伝おう。あとは、冒険者の中に少しでも解体の知識があるやつも集めて来てくれ」
アタルはバートラムに指示を出すと、キャロを伴って解体に移る。
「わ、わかった! おーい、みんなちょっと聞いてくれ!」
そして、バートラムは指示を受けてみんなに解体できるかどうかを聞いていく。
自分の記憶の中にある冒険者たちの情報と照らし合わせて必要な対応をとっていた。
「アタル、キャロ、俺も解体やったことがあるから手伝おう。まずは翼竜からやっていくのがいいか。さすがにオニキスドラゴンと黒竜は難しいから、人が集まってからにしよう」
腕まくりをしたフェウダーもアタルたちに加わり、解体にとりかかっていく。
バルキアスは力になれないとわかっているため、少し離れた場所で休憩するように座り込む。
また、先ほどまでオニキスドラゴンと同サイズで戦っていたイフリアだったが、子竜のサイズになってバルキアスの背中の上にのってのんびりとしていた。
「……なあ、さっきのでっかい竜はお前たちの仲間なんだろ? 今はちっこくなったみたいだが……あれはなんなんだ?」
オニキスドラゴンと一対一で立ち回れる竜――それも多くの魔物と戦ってきたフェウダーも知らない種。
更には、あれほどに小さなサイズに一瞬で変化することができる。
フェウダーの知識の中のどの竜とも違っているため、疑問が浮かぶのは当然だった。
「あぁ、あいつも色々あるんだよ。詳しいことはまたの機会ということで、今は解体をやるぞ。これだけの量あるんだからさっさと手をつけないと――終わらないぞ」
アタルも袖を捲って、キャロと共に解体を始めているため、フェウダーもそれ以上は聞くのをやめて解体に移る。
「自分から言い出しておいてなんだが……この解体した素材ってどうなるんだ?」
ふと浮かんだ疑問をぼそりと呟くアタルだけでなく、他の冒険者も数人がかりで解体を始めていき、大量の素材が解体されていく。
「そんなことも知らずに解体を言い出したのか? まず解体作業も報酬のうちに入る。どれだけ解体に貢献したかってことだな。それを加味した上で、残った素材を分配、もしくは売り払った金額のうちギルドの取り分を除いたものが今回参加した冒険者たちに割り振られることになる」
隣り合った翼竜を解体しながら、少し呆れた様子でフェウダーが話しだす。
「だったら、バートラムが他のやつらを連れてくる前に解体をどんどんやっていかないとだな」
報酬は多いに越したことはないとアタルはキャロにやり方を確認しながら、解体を進めていく。
元々手先の器用なアタルは要領がよく、キャロの指導をスポンジのように吸収していく。
更に、フランフィリアに教えてもらった生活魔法で鱗や骨を綺麗にしていく。
流れるような動きに思わずフェウダーは手を止めてアタルの作業を見ていた。
「……おい、フェウダー。手を動かせ。さっさと解体しないと、解体が得意なやつらが集まってくるぞ。俺たちが倒したんだから、なるべく俺たちの取り分を増やしておこう」
「わ、わかった」
ジト目のアタルにせっつかれて、つい見入ってしまっていたことに気づいたフェウダーも慌てて解体にとりかかっていく。
時間にして半日ほど経過したところで、追加の解体人員たちも集まってくる。
その頃にはアタルたちの手によりオニキスドラゴンの解体は終わっており、追加の人員は他の竜たちの解体を請け負うこととなる。
「ふう、キャロが気づいてよかったよ。さすがにオニキスドラゴンの解体を他のやつらに任せるわけにはいかないからな」
一番デカイ獲物だけあり、自分たちでやっておかないと取り分を大きくとられてしまうと考えての選択だった。
褒めるようにキャロの頭を撫でると、彼女は嬉しそうな笑顔でアタルを見上げた。
「疲れた……」
「疲れました……」
「限界だ……」
だが、オニキスドラゴンを解体し終わったところで、前線で戦っていたアタル、キャロ、フェウダーは気が抜けたのか、どっと疲れが一気に押し寄せ、疲労困憊という様子で座り込んでしまっていた。
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