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第二百四十一話


「――止まれ」

 声をひそめながらアタルが全員に指示を出す。

 フェウダーやキャロは素直に足を止めて周囲に警戒をし始めるが、そのほかの冒険者たちは訝しげな表情でアタルを見る。


「……まだ、森がある場所まではかなり距離があるぞ?」

 冒険者の一人が何が言いたいんだとアタルに問いかける。

 事実、誰の目にも森や竜の姿は見えていなかった。足場の悪い岩場が広がるだけだ。


「あぁ、だが俺には見える。森の木々は焼け落ちて、煙を出してるな。森全部まる焼けといった感じだ。竜は……あぁ、いるな。俺が倒した翼竜が数十匹。赤い竜が空に数匹……五匹。それ以外には、青いのと黄色いのが二体ずつ」

 魔眼を発動させ、透明感のある青の眼を輝かせたアタルは見えた景色をそのまま伝える。

 それを聞いた先遣隊の面々はごくりと息を飲んだ。それが本当なら自分たちはそれらを相手にしなければならないからだ。


「それから……」

 何かに気づいたようにアタルが言葉を続けようとしたため、まだいるのかと辟易している者さえいた。


「――森があった場所の中央あたりか、その地面にもう一匹伏せている。他の竜に比べてサイズがでかいな……皮膚の色は黒だ」

「っ黒、だと!?」

 淡々と状況を伝えただけといったアタルの言葉に大きく反応したのはフェウダーだった。焦りと驚愕の表情でぎりっと武器を構える手に力が入る。


「黒竜……なんてものが……」

「それは……やばいな」

 ここに出てきた者は大体が竜の情報を持っている者ばかり。だからこそフェウダーだけでなく、他の者たちも顔色が悪くなっていた。


「……キャロ、黒いのがいると何か問題があるのか?」

「あ、はいっ。えっと、聞いた話では黒い竜は他の竜種よりも凶暴で戦闘力が高く、その皮膚も他の竜よりも格段に硬いと言われていますっ」

 竜種はただでさえ強いと言われている――その中でも黒竜は特別強いと言われていた。

 予想以上の反応を返されて不思議そうにするアタルにキャロがそっと進言した。


「それだけじゃないぞ、あいつのブレスは相当やばい。他の竜のブレスは火であれば燃やす、氷であれば凍り付かせる……そんな感じだ。しかし、あいつのブレスはことごとく燃やし尽くす。吐き出される黒い炎は、燃えると消えない。火がついたものを燃やし尽くすまで消えないんだ」

 硬い表情のフェウダーは黒い竜相手に戦った経験があるのか、実感がこもっている様子で説明をしていく。


「なるほどな、そいつは確かに厄介だ……キャロ、悪いが先に戻ってそれを報告してきてくれるか。俺が確認した戦力と黒竜がいること、それからまだ戦力は増えるかもしれないとな」

 Sランク冒険者のフェウダーの話に状況を理解したアタルがてきぱきと指示を出すと、キャロは一度大きく頷くと、健脚を活かして素早く岩場へと戻っていく。


 今いるメンバーの中で、キャロが一番身のこなしが軽いことは全員がわかっているため、アタルの選択に異を唱える者はいない。


「これで、いきなり黒竜を見て驚くということはなくなるな――それで、どうする?」

 あれだけの数の竜を相手に、十人に満たない人数でただ突っ込んでいくというのはさすがに無策が過ぎる。

 キャロが戻ってくるまでの間にアタルはフェウダーと作戦を立てようとした。


「当初の予定だったら、俺が突っ込んでいくところなんだが……黒竜までいるとなると、ちょっとまずいかもな。黒竜だけなら時間稼ぎや誘導は可能だが、他の竜が厄介だ」

 考え込むような仕草をしたフェウダーはどこか歯切れの悪い様子だ。

 単体なら黒竜と渡り合えるという発言自体、驚くべきことであったが、それでも他の竜の数が多すぎるため、それも難しいという。


「……俺に作戦がある」

「聞こうじゃないか」

 誰も作戦らしいものは浮かんでいない様子だったため、アタルの作戦というものにかけようとフェウダーは考えていた。


「赤い竜五匹、青い竜二匹、黄色の竜二匹――これはあんたたちでなんとかしてくれ」

 なんとかしてくれという無茶な要望をアタルは当然のように口にする。

 話を振られたAランク冒険者たちは戸惑うが、それでも黒竜を相手にするのに比べたらマシだろうと納得し、まばらながら頷いて返した。


「それと、黒いのはフェウダーに頼む。もちろん倒さなくていい、あの岩場まで誘導するだけだ」

 指定場所をくいっとさしながらのアタルの言葉に、真剣な表情で頷くフェウダー。任せろと言いたげなその顔にはSランク冒険者の風格があった。


「――残りの数十匹の翼竜だが……俺が全部なんとかしよう」

 他の者たちが数人がかりで相手にするところを全て引き受けると言うアタルの発言に、先ほどまで困惑していた冒険者たちが一気にざわつく。


「それだけの数の翼竜をお前ひとりで何とかするだと!?」

「冗談を言っている場合じゃないんだぞ? 少し遠くを攻撃できるくらいで!」

 確かに訓練場での彼の実力を見ていた者の、それでも竜を相手にするとなると話が違うだろうと冒険者たちは怒鳴りだす。

 アタルの真の実力を知らない冒険者たちは、デカイ口をBランク程度が叩くなという思いのようだった。


「……いや、任せよう。こいつは翼竜を倒している。それはお前たちも見ているはずだ。俺が確認した限り、あの翼竜は一撃で倒されていた。だから、あながち翼竜をなんとかするというのも与太話じゃなさそうだ」

 冒険者たちは尊敬するフェウダーがそう判断するなら、とそれぞれ口を閉じた。それ以降は他の者も反対はしない。


「どこからなら当てられる?」

 アタルの武器の射程がどれくらいなのかわからないため、フェウダーが確認する。それはどうすれば彼の能力が一番発揮できるのか知りたいと言う雰囲気だった。


「ここから、と言いたいところだが――さすがにもう少し近づきたいところだな。森が視認できるあたりまで行ければどうとでもなるはずだ」

 スコープに加えて魔眼を使っていたため、この距離で敵の種類を確認できたが、それでは弾丸を全て命中させるのはさすがのアタルでも難しい。


「なら、もう少し進むぞ。Aランクともなればわかっているとは思うが、野生の竜は気配に敏感だ。慎重に進むぞ。アタルは一番後ろからついてきてくれ。そして、ちょうどいい距離になったらなんでもいい、教えてくれ」

 フェウダーの言葉に頷くと、アタルは最後尾に回って一行のあとをついていく。

 竜がもうすぐそこにいるからか真剣な表情のフェウダーは、ここにきて初めてアタルのことを名前で呼んだ。


 それは彼が共に戦う仲間としてアタルを認めたという証拠でもあった。





 しばらく進んでいくと、全員の目に焼け落ちた森が映る。北の森は元々岩場が多い冷たい印象を抱かせる森であったが、竜たちに蹂躙されたため、見るも無残な炭と化した木々たちが物々しい雰囲気を出していた。かろうじて残っている木も何とか難を逃れただけの様子だ。


「こいつは酷いな……」

 わかっていたことであるとはいえ、改めて目にすることでその状態に誰ともなく呆然と言葉を漏らす。


「――もう十歩ほど近づけば、大抵の翼竜は俺の射程の範囲内にいる」

 そこは距離にしておおよそ三キロのあたり。

 アタルの魔眼と腕、神と作り上げた銃の性能、弾丸、それらを鑑みて、三キロの位置であれば余裕を持って攻撃を当てることができる。


 もちろん、もっと距離をとることもできるが、この位置であれば銃弾を発射してから走って別の位置に身を隠すことも可能だとアタルは判断した。竜たちは気配に敏感だと言うフェウダーの話から、こまめに位置を変えていく必要があると思ったからだ。


 周囲には木や大きな岩などがいくつかあったがゆえにここを選択していた。


「わかった、ならばアタルはここで待機してくれ。俺たちはもっと近づいてから行動を起こす――そうだな、俺が黒竜に仕掛けたのを合図に動いてくれ」

 フェウダーの言葉に全員が頷き、戦闘の空気が流れ始めた。

 

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