第二百四十話
一行はしばらく進んだところで、バートラムの指示によって迂回し岩場へと向かって行く。
「なるほど、確かにここなら隠れる場所も多い。それに……この岩がいいな」
馬車を降りたアタルは近くにあった適当な岩に手を当ててそう言った。
「ほう、わかるのかい? さすが、フランフィリアが認めるだけのことはあるね」
ただ迂回しただけではないことに気づいてくれたアタルをバートラムは嬉しそうに見る。
この場所にある岩は、全て魔素の含有量が多く、それによって硬度が高くなっている。
つまり、竜種との戦いにあっても攻撃によって破壊されづらくあるというものだった。
アタルが気づいたことに、気付いた者は他にも何人かいた。
それ以外は、身を隠せることや、足場が少々悪いという点などにのみ着目しているようだった。
「さあ、みんな馬車を置いてこられたかな?」
馬車が近くにあっては、そちらを竜に狙われてしまう。
そのため、馬車は離れた場所に待機させておく手はずになっていた。
「大丈夫だ。俺が最後の者を確認してきた」
それは遅れたやってきたフェウダーの言葉だった。
Sランク冒険者である彼の言葉は、冒険者にとって重いものであり、強く反論できる者もいないため、確認役として適任だった。
「ありがとう。……それでは説明をする! 気づいている者もいるようだが、この岩場は魔力含有量が多く、ちょっとやそっとのことでは岩が壊されることはない。竜種の攻撃がそれに当てはまるかはわからないが、それでも岩陰に隠れることで攻撃を防ぐことができるだろう」
そのためにここを選んだのかと、ギルドマスターの判断にようやく気付いた冒険者たちはざわつく。
「しかし、竜たちは森があった場所にいるとの話だ。今朝がたの翼竜はおそらくただのきまぐれであると予想している。しかし、やつらがいつまでも森があった場所にいるとは思えない。であるならば、作戦は拙速を貴ぶ!」
バートラムがここまで言うと、作戦を予想できる者はごくりと息を飲んでいた。
「作戦は即時決行! 前衛は竜種のもとへと赴いて、攻撃を加える! そして、戦闘場所をここにするために、竜を連れて来てほしい!」
まず竜に攻撃を加えるという行為自体がかなり危険なことである。
そして、岩場まで戻ってくるにしても、森からはかなりの距離がある。
その間、竜の攻撃を避けながらここまで逃げ続ける必要があるのがこの作戦だった。
「お、おいおい、そいつはさすがに無理があるんじゃ……」
「……生きて戻れるかどうか」
「そんなの誰もやりたがらないだろう!」
恐れ、不満、恐怖、怒り、様々な感情を含んだ言葉が冒険者たちから口々にあがってくる。誰かが囮役になるこの作戦は、まるで自分たちを捨て駒のように扱っているのではないかと疑心暗鬼になっている者までいた。
「――静かに! もちろん、この任務は全員にやってくれと言っているのではない! これは立候補制だ! 腕に自信のある者、足の速さに自信のあるもの、防御に自信のある者――そして……無謀でも無茶でもなく勇気のある者! 名乗りをあげてくれ!」
バートラムの演説に一番に名乗りをあげたのは誰もが予想していた人物。
「まあ、俺はいかないとだろうな」
ひょいっと右手をあげながら一歩前に出たのは、この場にいる唯一のSランク冒険者のフェウダーだった。
爽やかな彼がふわりと笑って出てくると、冒険者たちの表情は安堵のものへと一変する。
「私も行きますっ!」
次に名乗りをあげたのはキャロ。元々前線に出るつもりであったため、気合が入った表情で手をあげた。
「――俺は前衛じゃないが、サポートは必要だろ」
そしてアタルが軽く手をあげる。
それらを見ながら、バートラムは彼らならきっと名乗りをあげてくれるだろうと信じていた。嬉しそうに何度も頷いて作戦の要となるだろう彼らを見ている。
「……さあ、他にはいないか!」
煽るように、冒険者たちに声をかけるバートラム。
すると、Aランク冒険者の中でも名前を知られている者たちが数人挙手をする。
「名乗りをあげなかった者も恥じることはない! 君たちの役目は彼らが竜を連れてきてから始まる。いつでも戦えるように準備をしておいてくれ!」
実際、今回の先遣隊は集団戦の力よりも単独の力に左右される。
竜をひきつけられるだけの攻撃ができるか。
竜の攻撃に対して回避、もしくは防御の手段を持っているか。
しかし、いざこの視界と足場の悪い岩場での戦闘となれば、パーティ内、パーティ間の連携をとることが求められ、うまくいけばその実力は何倍にも強化される。
だからこそ、先遣隊とこの場に残るものでは戦い方が変わってくるとバートラムは改めて宣言する。
このことにより、先遣隊に参加しないことを負い目と感じないようにしている。
それは功を奏しており、残る冒険者たちの士気も高かった。
「さて、それで君たち先遣隊だが、さっき言ったとおりだ。……やり方は任せる、竜を挑発してここまでおびき寄せてくれ」
具体性のない、だが信頼しているがゆえのバートラムの真剣な言葉に先遣隊の面々は頷いた。
彼らは、他の冒険者たちから離れた場所で集合して作戦を考えることにする。
「さて、どうしたものか」
そう切り出したのはフェウダーだった。
一番頼りにされているフェウダーが作戦を決めていないかのような発言をしたことに、彼を信じてついてきた冒険者たちは特に驚いていた。
「……どうするもこうするもないだろ。まずはあんたが竜たちの中心に突っ込んで暴れる。あとは、そっちのAランクのやつらが、追いかけていく。キャロもその中に混ざって突っ込んでいけばいい。そして、竜の注目が集まってきたところで、思いっきり後ろに向かって全速力だ」
呆れたようにフェウダーを見ながらそう語るアタルの説明はざっくりとしたものであったが、全員の顔にそれしかないか……という気持ちが浮かんでいた。
「それで、お前さんはどうするんだ? さっきの話の中には出てこなかったが……」
ふっと笑ったそのフェウダーからの質問に、わかって聞いているだろうことを感じ取ったアタルはやれやれと肩を竦める。
「俺は前衛じゃないからな、離れた場所からみんなの援護をする」
それを聞いた冒険者たちの表情は曇る。
一人安全な場所にいるくせに、先遣隊であると言い張るのか? と。
「俺の攻撃方法は訓練所で見たと思うが、俺の攻撃はかなり遠くまで届く。そして、連射することができる。だから、みんながピンチに陥らないように援護をする――それだけだ」
そう言い切ったアタルは、何か文句があるか? と言いたげでもあった。あの訓練所でアタルの戦いやコインで見せた実力を思い出した冒険者たちは皆押し黙った。
「まあ、仕事で示してもらおう。何もできなければ、そう報告すればいいだけだ、な!」
訝しむ冒険者たちをなだめるようなフェウダーの言葉で話はまとまる。
「――さあ、行くぞ!」
そして、勇ましく武器を構えたフェウダーを先頭に、先遣隊が森へと向かって行った。
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