第二百三十話
屋敷に住み着いていた幽霊のおかげであっさりと拠点を潰すことができたアタルたちは、警備隊員に犯人の連行と攫われた者たちの誘導を依頼して、次の拠点へと向かう。
当初の目的はジャルの姉を救い出すことだったが、ここまできたら全てを解放しようと進んでいく。
「――すみません、本当は我々がやるか、もしくは事前に防がないとなのですが……」
次の拠点に向かう道すがら、小隊長は自分たちがほとんど何もできていないという状況に、申し訳ない気持ちになり、身体を小さくしながらアタルに謝罪する。
「あぁ、気にしないでくれ。俺たちの目的はジャルの姉を助けることだ。だが、俺の相方のキャロが獣人だからな。同じ獣人族が酷い目にあっていて、なんとかできるのであればなんとかしないとな。やれるとわかって、何もしなければ後で後悔するかもしれない」
ひょいと肩を竦めたアタルは何気なくそう言ったつもりだった。
しかし、それは残った警備隊員たちの心に強く響いていた。
感動したように小さく震えてアタルを尊敬のまなざしで見つめる。
「そう、ですよね。はい、私たちも後悔しないよう全力を尽くします! なあ、みんな!!」
「おーーーーっ!!」
感激した彼らが街中であるにも関わらず急に大きな声を出したため、道行く住民たちが何事かと振り返る。
「お、おい! やめろって! みんな見てるじゃないか!」
「えいえいおーっ!」
周囲の視線を感じて慌てたようにアタルの注意する声は、いつしか一致団結している警備隊員たちの耳に届いていないようで、自分たちだけでやる気を漲らせて大きく盛り上がっている。
「……はあ、おい! 俺は先に行くからな!」
次の場所も事前に決めておいたたため、呆れたようなまなざしで警備隊員たちをみたアタルは彼らをなだめるのを諦め、地図を頼りに一人先行していく。
――同時刻、キャロは別の拠点を潰していた。
「ふう、ここにもたくさんの人が捕まっていましたねっ」
「え、えぇ……」
一仕事終えて息を吐くキャロのお供の警備隊員のひとりは、困ったような表情で微妙な返事を彼女へと返す。
部屋の中には誘拐犯たちが横たわっている。その光景に驚いているためだった。
キャロはするりと拠点に侵入すると、迷うことなく男たちが待機している部屋の前までたどりつき、中にいる人数をぴたりと言い当てた。
それに驚く警備隊員たちをよそに、一人先行して突入すると、あっという間に男たちを一人で制圧してしまったのだ。
今回同行することとなった警備隊員たちは、アタルとキャロが強いという情報を事前にドウェインからよくよく言い聞かされていた。
しかし、これほどまでに圧倒的な強さだとは同行した警備隊員の誰も思っていなかったのだ。
中には、アタルがいるから一緒にいるキャロも一緒に高く評価されているのだろうと考える者もいたが、その考えはこの一戦闘で全て払拭されていた。
「えーっと、この中にジャルさんのお姉さんがいると良いのですが……まずは、みなさんに落ち着いてもらえるように、警備隊の詰所への案内をお願いしますっ」
「りょ、了解です!」
きょろきょろと部屋の奥に捕らえられていた獣人たちを見ながらのキャロの的確な指示に、警備隊の責任者が敬礼をして返事をする。
責任者は舐めてかかっていた自分に対しての戒めの気持ちもあり、キャロに必要以上にかしこまった態度になっていた。
「くすっ……いいんですよ? そんなにかしこまらないで下さいっ。私はみなさんよりもだいぶ年下ですし、一介の冒険者なのですから」
「いやいや、何をおっしゃいます! キャロさんがいなければ、こんなにスムーズに拠点の攻略などできませんでしたよ!」
ふわりとほほ笑んで謙遜するキャロに対して、警備隊員の一人が慌てて声をかける。
「そう、でしょうか? でも、アタル様のほうが私の何倍も強いので、まだまだですよっ」
警備隊員の言葉に一瞬きょとんとしたキャロはすぐにきりっとした表情でここにいないアタルの姿を思い浮かべる。
彼女のその言葉は冗談で言っているのでも、ましてや謙遜で言っている風でもなく、確信を持っている様子である。
彼女以上の実力を持っているというアタルに対して、警備隊員たちは思わず息を飲んでいた。
「それでは、ここは残られるみなさんにお任せして、私たちは次の場所に向かいましょう!」
一人活躍して、何人もの誘拐犯を倒したあとだというのに、キャロは元気みなぎる様子で、次に向かう意思を見せる。
「は、はい! ――おい、お前たち、ここのことは任せたからな!」
既に誘拐犯は全員縛り上げているため、あとは起こして連行するだけである。
数人の隊員にこの場を任せ、キャロ一行は次の場所へと向かって行った。
アタル、そしてキャロを中心とした二つの部隊は順調に拠点を潰していき、次々と誘拐犯たちを捕らえ、誘拐された者たちを解放していった。地図につけられていた拠点を示す印もあっという間に全て制圧した証が刻まれていく。
日が落ちる頃には、情報にあった全ての拠点を潰すことに成功し、アタルたちは警備隊の詰所に戻っていた。
「結構早く終わったな」
「はいっ! アタル様、お疲れ様です!」
「あぁ、キャロもお疲れ様だ。よく頑張ったな」
優しい表情をしたアタルは自身を見上げてにっこり笑うキャロの頭を優しく撫でる。
アタルに褒められたことで彼女は嬉しそうに目を細めていた。
その様子をドウェインは呆れ交じりのジト目で見ていた。
彼ら二人に同行していた警備隊員たちは、全員バテバテになっており、別室で休憩していた。
それなのに、二人は疲れるどころか、まだまだ何戦でもできるほどの余裕が見て取れる。
「はあ、全く一日でこれだけの成果をあげるとはな……」
ドウェインは現場に出ていないにも関わらず、どっと疲れた声をだしている。
「本来の目的も達成できてよかったよ」
「ですねっ」
アタルとキャロの視線の先にはジャルと姉が泣きながら抱き合っている姿があった。
バルキアスはキャロの足元で姉妹の再会を嬉しそうに尻尾を振って見ている。
「――お姉ちゃん!!」
「ジャル、怖い思いをさせてごめんね……」
「ううん、それよりも私だけ逃げちゃったの! 本当にごめんなさいっ!」
二人は互いに相手のことを思いやっており、再会できたことを心から喜んでいた。
ジャルがわんわん泣きながら姉のフラミの胸に縋りついているのを、フラミはそっと涙をにじませて抱き留めている。
心温まる姉妹の再会を実現できたことで、アタルたちも嬉しそうに二人を見ていた。
「……やれやれ、一人を助けるために街にある全ての拠点を潰すとは思わなかったぞ。まあ、こちらとしては助かったがな――警備隊にいる裏切者もあぶりだせたしな」
ドウェインが心配していたのはタロサ以外に誘拐犯の組織と繋がっている隊員。
それについても、今回の作戦で特定できるとアタルから提案されていた。
実際、数名の隊員が誘拐犯の組織と癒着しており、獣人たちの誘拐に対する対応が遅れたのはこの辺りに原因があったようだ。
「あぁ、外に不始末が出る前に解決できてよかったな」
これ以上、警備隊の誰かが誘拐に加担したとあっては、警備隊の信頼が損なわれるため、これをいい機会に一掃すべきだとアタルが助言していた。
「――それで、だ。二人には会ってもらいたい人がいる。わしの部屋に来てくれ」
ドウェインのその言葉に、誰なのか? とアタルとキャロは首を傾げながら、ドウェインのあとをついていく。
部屋の中に入ると、思ってもみない人物の姿があった。
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