第二十三話
今回の魔物討滅戦に参加する冒険者たちが動き出す。遠距離攻撃を行う者たちは街をぐるりと囲む城壁の外、門を出てすぐの場所で待機する。
アタルはというと一人離れた見通しのいい城壁の上に位置することにした。
「こんな離れた場所で良いのですか?」
その質問をしてきたのは穏やかに微笑むフランフィリアだった。
「あぁ、下からだと見通しが悪すぎる。下にいるあの魔法使いたちはそんなに精密な攻撃ができるのか?」
城壁の外で待機する冒険者たちを指してアタルが質問を返す。その顔は怪訝そうに歪んでいる。
「うーん、ランクの高い冒険者の方はかなりの威力の魔法を使えると思いますが、精密さとなると難しいかもしれませんね。普段の依頼などではそれを求められることも少ないでしょうから」
苦笑交じりのフランフィリアの返答を聞きながらアタルは周囲を見渡し、キャロの姿を確認できる位置へと移動する。
「よし、ここでいいか。あんたもこのへんにいるのか?」
アタルはスコープを覗いてキャロの姿を確認すると、顔をあげてフランフィリアに再度質問をする。スコープの先ではキャロが緊張した面持ちながらも戦いに向けて気持ちを高めている様子が見えた。
「今回の依頼の責任者ですからね。最後まで見届けるにはここが一番でしょうし、万が一には私の出番もあるかもしれませんからね」
そう言って何かを内に秘めたような笑顔になるフランフィリアにアタルは背筋に悪寒が走った。
「……そうか、まあ大丈夫だろう。俺は色々と準備があるから少し離れてくれるか? 秘密にしておきたいんでな」
「なるほど、手の内を晒さないというやつですね。わかりました、私はあっちにいますから何かあれば声をかけて下さい」
アタルを知ってからというもの、フランフィリアは彼の実力に興味があり、多少の便宜は図ろうとも考えていた。
「……行ったか。じゃあいくつか特殊弾の準備をしておこう。弱い敵だったら通常弾だけでいいが、どんなやつがくるかわからないからな……」
そう呟くとアタルはプレートを呼び出して弾丸を選んでいく。
ランクの高いデスウルフを倒したことで弾丸ポイントが増えていたこともあり、特殊弾もかなりの種類を選ぶことができた。
「魔法系の弾丸をいくつかと、強力そうな弾丸をいくつか交換しておくか。それと、念のため通常弾をまた追加しておこう」
近くに誰もいないため、ぶつぶつと独り言を口にしながら選んでいく。
一通り弾丸を選び終えたところで、遠くから大地を揺るがすような音が聞こえてくる。
「来たか。キャロは……いるな」
再度スコープを覗くと、キャロも他の冒険者たちから少し外れた場所で戦闘準備を終えていた。先程見た時より幾分か緊張がほぐれているように見える。
「戦いが、始まりますね」
フランフィリアはいつの間にかアタルの近くに戻ってきて前方を見つめていた。
百を超えると言ったが、その言葉通り魔物の大群が迫りくる大波のようにゆっくりながらも確実にこちらに向かってきている。それを見つめる彼女の目はいろんな感情があるようにも何も思っていないようにも見える深い色をしている。
「あぁ……ぶつかるな」
視線を下ろすと冒険者たちの前線が徐々に進み、ついには魔物の大群とぶつかった。
その中でもキャロは冒険者たちの波に飲み込まれないように、横から抜け出し魔物と戦っていく。
「すごいな」
その動きはデスウルフと戦った時を上回っており、彼女はまるで短剣を使って舞うように次々に魔物を倒していく。その動きを邪魔しないように彼女の背に襲いかかろうとするのはアタルが次々に撃ち落としていく。
「……あなたも十分すごいです。いえ、あなたがいるからあの少女も自由に戦えるのでしょうね」
ダークエルフのフランフィリアは他の種族に比べ目がよく、アタルの攻撃がどういう結果をもたらしているのか見えていた。
「そうかな?」
アタルはフランフィリアに言葉を返しながらもスコープを覗き込み、キャロに攻撃を加えようとする魔物を次々に撃破していた。
「あれとあれも邪魔だな」
それ以外にもアタルは次々に魔物を倒していく。放たれた弾丸は魔物の頭部に打ち込まれ、全てヘッドショットで絶命させていた。
この段階で既にアタルは討伐数のトップを走っていた。
Fランクであるキャロの周囲の魔物が次々に倒れていく様子を見て、周囲の冒険者たちは驚いていた。
「あ、あの子の周りの魔物が次々に倒されていくぞ!?」
「明らかに攻撃が届いていない位置の魔物まで、何かの魔法か?」
まるで何かに守られているかのように、魔物の攻撃が届く前に倒れていく様は冒険者たちには理解できないものだった。
「アタル様、ありがとうございます!」
当のキャロはというと、アタルへの感謝の言葉を口にしながら次々に魔物に斬りつけ倒していた。彼がいるからこそ思うままに動けているのを実感し、そんなアタルの期待に応えたい一心で目の前の敵を切り伏せる。
「せいっ! ていっ!」
そして倒せば倒すほどに経験が貯まり、キャロの動きはよくなっていく。
二人は気付いていなかったが、主従関係を結んだものの間では、一定の範囲内にいる場合魔物を討伐してその力を吸収する数が共有される。更に言えば弾丸ポイントも同様であり、キャロが倒した分も加算されている。
「お、おい、あれ」
キャロの戦っている姿を見て、今回の賭けの相手のDランク三人組も驚いていた。まさかあんな身体の小さいFランクの女の子がここにいる者の中で一番の戦果を出していることは目に見えて明らかだった。
「や、やばくないか?」
そして彼らの戦果は三人合わせても未だ十五体程度だった。思っている以上にたくさんの魔物を相手するのは辛いらしく、これが彼らの精一杯だった。
「ちっ! おい、邪魔をするぞ!」
舌打ちしたリーダーの男の言葉に二人は驚くが、ここまでの闘いが全て無駄になってしまうかもと考えると従わざるを得なかった。
不穏な考えの三人が近寄っていることに気付かず、キャロは懸命に戦闘を続けていた。
「へへっ、今ならこっちに気付かないはずだ」
いやらしい笑顔を浮かべて男たちが一歩踏み出したところで、先へ行かせまいとそれぞれの足元にアタルの放った弾丸が撃ち込まれる。
「なにっ!」
それがどういった攻撃なのか、どこからの攻撃なのか三人にはわからなかったが、明らかに彼らを狙ったものだということだけは理解していた。
「ま、まさか、偶然だろ」
全員の足元に、それもほぼ同時に、それを偶然と言い切るのは難しいが理解の範疇外であったためそう口にするしかなかった。
「そ、そうだ、ただの偶然だ。どっかの攻撃がたまたま飛んできただけだ。やるぞ!」
自分でも信じていない言葉を口にしながら再度キャロの邪魔をしようと一歩踏み出そうとしたところで、再び弾丸が彼らを襲う。ここで彼らが彼女の側にいたはずのアタルがなぜここにいないのか思い出していれば、また結論は変わったのかもしれない。
「ひいっ!」
男たちが持つ剣の柄、斧の持ち手部分、短剣の刀身にそれぞれ弾丸があたり、彼らの武器は呆気なく吹き飛ばされてしまった。
それ以上やれば、次は容赦しない。そんなメッセージを感じ取ったのか三人は、地面に転がる自らの武器を拾うとキャロがいる位置とは反対の方向へ一目散に逃げて行った。
「これでやっと戦いに集中できるな」
それを見てふっと鼻で笑ったアタルはずっと彼らが怪しい動きをしないかチェックしながらキャロの護衛をしていたのだ。絶対こちらになにか仕掛けてくると思っていただけに思い通りに事が進んで思わず笑みが浮かぶ。
「……やっぱりとんでもない人ですね」
一部始終を見ていたフランフィリアは呆れまじりにアタルのことをそう評した。
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