第二百一話
キャロとバルキアスは二人で交差するように連続攻撃を金属の魔物へと放っていく。
連続斬り、爪と牙による攻撃――全てが命中するが、効いている様子はみられない。
「硬いですっ」
『うん、嫌なやつだ!』
自分たちの攻撃がとおらないことで、二人はむっと顔をしかめるとそれぞれの感想を口にしていた。
「かなり硬いな」
後ろでそれを見ていたアタルはすっと目を細める。
金属をもとにして生まれた魔物であるらしく、その身体も見た目のとおり金属だけあって、防御力に関してだけいえば玄武を越えるほどの硬さがある。
このままではダメージをあたえる見込みが薄いため、キャロとバルキアスは戦い方を考え直す。
「バルくん、一点集中です」
『うん!』
キャロは細かくは説明せずにそれだけ口にする。契約のおかげか、互いの信頼関係が成せるわざか、バルキアスはそれだけで理解したようだった。
一方で金属の魔物は大きな声を出して以降は明確な攻撃は行っていなかった。
「――声、だけなのか?」
キャロとバルキアスが戦っている間、アタルは距離をとってその様子を観察していた。
キャロたちの攻撃が効いていないため、わざわざ反応する必要がないとでもいうのだろうか。
あの魔物の目的は恐らくこの道を誰も通さないようにすることであるため、ダメージを受けないのであればキャロたちのことを歯牙にかける必要もない。
だが、その考えが間違いであることはすぐにわかる。
ある瞬間、魔物の目が異様な色を宿らせて光ったと思うと、そこから赤い光がキャロとバルキアスに向かって鋭く一直線に放たれる。光線のようなそれはこの魔物の攻撃の一つで、闇の魔力を凝縮させてビームとして放っていた。
「危ない!」
アタルが声をかけるが、二人ともそれを察していたらしく、すぐに横に飛んで攻撃を避けた。
しかし、魔物の攻撃は続き、口から大きな黒い玉を一つ吐き出した。
それを見たアタルは何かを感じ取り、その黒い玉目がけて石を投げこむ。すると、石は一瞬で粉々に砕け散った。
「二人とも今のを見ていたな? その黒い玉には触れるなよ!」
後ろからかけられるアタルの言葉にキャロとバルキアスは振り返らずもしっかりと頷いていた。
アタルの魔眼には黒い玉の中心に核が見えており、こいつも最初の岩同様、魔物だとつげていた。その黒い魔物はふらふらと動き回っているが、どこを狙っているというのはなくただ浮遊しているだけに見える。
その無軌道な動きであるがゆえに意識の外に出てしまった場合が危険だった。
「あの玉は俺がなんとかするか……それとあっちをどうするか……」
浮遊している黒い玉の魔物――ブラックボールも危険だったが、現状金属の魔物を倒す方法も検討がついていない現状では、どちらも早急に対処しなければいけないことだった。
「アタル様! 魔物は私とバル君でなんとかしますっ! なので、玉の対処をよろしくお願いします!」
悩むアタルの耳にキャロの声が入ってくる。明確にハッキリとキッパリと魔物をなんとかすると言った彼女の言葉の頼もしさにアタルは笑顔になっていた。
「わかった、そいつのことは頼んだぞ!」
彼女はやれないことはやれると言わない――アタルはキャロの言葉を信じ、自分はブラックボールにだけ集中することにする。
「まずはこれか」
通常弾を撃ち込んでみるが、ただ石を投げつけた時と変わらず、弾丸は粉々に砕け散ってしまった。
「ふーん……じゃあこれはどうだ」
ならばと次にアタルが放ったのは、炎の魔法弾。魔力が込められたものであれば何か変化があるかと試してみた。
「――ダメか」
しかし、その言葉が示すとおり、先ほどと変わらない結果に終わる。
「だったら」
諦めずにアタルは強通常弾、雷の魔法弾、上位の魔法弾、更に物は試しだと治癒弾までをも撃ち込んでいく。だがそれら全てが今までと同様にその全てが砕け散ってしまう。
「さてさて、どうしたものか?」
すぐに解決することができないとわかったアタルはどうしたものかと嬉しそうな笑顔になっていた。簡単には解決することができず、これまで通用した方法が効かない――その困難を楽しんでいるようだ。
辛い状況にあるほど、それをぶち抜くように解決することが気持ちいいのだ。
「――っと、笑ってばかりもいられないか」
キャロとバルキアスはなんとか自分たちだけで戦おうと金属の魔物を相手にしている。しかし、ふよふよと不規則に漂うブラックボールの存在は彼女たちにプレッシャーを与えており、目の前の戦いに集中できていないようだった。
「なら、あれを使ってみるか」
これまでに使ったことのない弾丸――それをイメージして弾倉に装填していく。
「まずは玉の進行方向にっと」
その弾丸を玉が進んで行くであろう先数メートルの地面に数発撃ち込んでいく。
「それからっと……――いまだ!」
更に同じ弾丸を玉に向けて放っていく。そして、弾丸が玉に触れるか触れないかの瞬間に全ての弾丸の魔法を発動させた。カッと一瞬強い白い光が周囲を照らす。
「BBBBBBBBB」
すると、黒い玉は謎の音を出した。まるで壊れた機械のようにただ同じ音を繰り返す。
アタルが選んだ弾丸――それは光の魔法弾だった。
これまで黙っていたはずのブラックボールは苦しげに叫んでいるように見える。アタルの見立て通り、魔物であったその属性は色の表すまま闇。
「――闇を打ち消すには、光だよな?」
アタルはただ弾丸を撃ち込むだけではなく、地面に撃ち込んだものと後から発射したものとで光の結界を発動させ、ブラックボールを包み込むようにしていた。
「BBB……」
徐々に黒い玉から発せられる音は弱まっていく。中心の核を覆っていた黒いモヤのようなものが徐々に晴れてきている。
「ここまで消えればいけるな――いけ!」
アタルは再び光の魔法弾を放つ、今度はブラックボールの核を狙って。
「BBBBBGGGGGG!」
弾丸は見事に核を撃ち抜き、ブラックボールは断末魔の雄たけびをあげる。だが光の魔法には敵わないらしく、ひとしきり叫ぶと結界の中の床に落ちてそのままピクリとも動かなくなった。
そして核を失ったブラックボールは灰になって溶けるようにその姿を消した。
「ふう、なんとかなったか」
金属の魔物の中に潜んでいたのか、共生関係にあったのか、それはわからないが特殊弾を使えるアタルでなければ倒せない相手だった。
「――さてと、あっちはどうだ?」
ブラックボールが消滅したことに満足げに目を細めたのち、アタルはキャロたちへと視線を向ける。
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