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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第二十話


「……一度でいいので故郷に行ってみたいです。私は故郷の風景を見たことがないのです」

 彼女の言う故郷とは獣人の国のことだった。ゆっくりと紡ぐその言葉にはずっとそのことを夢見ていたのだという熱い思いがこもっている。

「生まれたのはこちらの国だったと聞いています。気付けばひとりでいたので親の顔も知りません……なのでいつの日にか国にだけでも行ってみたいのです」

 掲示板を向いているキャロ、その目はもっと遠くを見ているようだった。


「よし、いつか俺が連れて行ってやろう」

 さらりと頷いたアタルの答えはあまりにもあっけないせいで安請け合いのようにも聞こえるような気軽があった。まるで近所に買い物に行くくらいの即答だったからだ。

「キャロ、約束だ。ちゃんと連れて行く」

 だがもう一度、そして今度は膝をついてアタルはキャロの顔を見ながら一言ずつかみしめるように言った。


「はい!」

 自分をじっと見つめるその目が本気であるとわかったキャロは笑顔で返事をした。先程までの悲しげな雰囲気はどこにもなくなっている。

「まあ、すぐには難しいだろうけどな。ある程度資金を稼いでからだ」

 どこに行くにしても、先立つものの確保が重要だと考えていた。それはキャロもわかっていたので、アタルがいう事に何も言わずに微笑みながら頷いた。


 そんな話をしていると、後ろからブーラがやってきた。

「あのー、少しよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

 声をかけてきたブーラが恐る恐るといった様子だったため、アタルも隣にいたキャロも不思議な顔をする。それほどまでに二人の出す雰囲気は誰も入り込むすきがないほど穏やかで優しさに満ち溢れていたのだ。

 だがブーラも仕事の話だと割り切って眼鏡を押し上げながら話し出す。


「まことに申し上げにくいのですが、確認のほうは少々時間がかかっておりまして……」

「あぁ、それなら別に構わない。ちゃんと査定してもらえるなら、明日また来てもいいし」

 そう言って外へ行こうと動こうとするアタルをブーラは手で制し、動きを止める。


「い、いえいえ、そうではなくてですね。その、すいません……私について来て下さい」

 なんと説明をしたものかと考えた結果、ブーラは二人を案内することにする。

 以前話したブーラからは想像できない歯切れの悪い様子にアタルとキャロはどうしたのだろうと顔を見合わせるが、すたすたとブーラが歩いていくので慌てて後ろをついていく。


 ブーラは無言のままカウンターの中に入って行き、更には奥にある二階へと続く階段を上がっていく。そしてさらに上へと続く階段を上り、三階のとある部屋の前で足を止める。

「ふう……ブーラです。失礼します、お二人をお連れしました」

「どうぞ入って下さい」


 ここに来るまでなんの説明も受けていない二人だったが、部屋の中から聞こえた女性の声に首を傾げ、ブーラに促されるまま困惑の表情で部屋へと入る。

「ギルドマスター、お待たせしました」

「ありがとう。ブーラ、あなたは下がっていいですよ」

 部屋の奥にいる美しい女性が話すのはブーラと同じ敬語だが、明らかに位が上の雰囲気を持った話し方だった。

 彼女の言葉に深く一礼したブーラはそのまま静かに部屋を出ていった。


 ギルドマスターと呼ばれた女性の肌は褐色で髪の色は銀色、大きな胸を更に強調させるような胸元の空いた服を着ている。眼鏡をかけている彼女はできる女というのを体現しているようだった。

「初めまして、私は当冒険者ギルドのマスターをつとめているフランフィリアと申します。以後、お見知りおきを。立ち話もなんですから、そちらのソファにおかけ下さい」


 彼女に促されてアタルとキャロは無言で頷くと、ソファへと腰を下ろす。それと同時にフランフィリアも向かいのソファに座っていた。

「突然お呼びだてして申し訳ありません。少々お二人に聞きたいことがあったもので……」

 そう言って彼女がテーブルの上に置いたのは二人が討伐したデスウルフの魔石だった。


「あ、あれ? 間違ってそれも出してたのか……失敗した」

 ウルフの魔石を取り出す時にデスウルフの魔石も一緒に置いたのをアタルは気付いていなかった。出すつもりのなかったそれが目の前にあることに動揺を隠せない様子だ。

「ふふっ、ドジなところもおありなのですね。それで、この魔石……どこで手に入れたのでしょうか?」


 優雅に微笑むフランフィリアの目が一瞬キラリと光ったように見えて、怯えたキャロは思わずぎゅっとアタルの服の裾を掴んだ。

「あー、どこだったか。森でたまたま討伐されたデスウルフを見つけて、解体して手に入れたんだったかな」

 自分が空々しいことを言っているとわかりながらも村長の話をしたくないアタルはそう答える。


「なるほど、力を隠したい、というよりは他との摩擦を避けたいということですね。何か特殊な力がおありなのだと推測します。その立てかけられているあなたの武器でしょうか」

 次々に言い当ててくるフランフィリアにアタルは目を丸くして驚く。それはキャロも同様だった。


「フランフィリアさんだっけか。あんたすごいな……口調も改めたほうがいいかな?」

 何を言っても真意を見透かすその目と美しいその身から発する貫禄に見た目どおりの年齢ではないだろうと予想したアタルは敬意を払うべき相手だろうとそう言う。

「ふふっ、構いませんよ。しかし、あなたも色々とお分かりのようですね。デスウルフを倒すだけのことはおありのようです」

 目に宿る鋭さをしまい、穏やかに微笑むフランフィリアは既にデスウルフを倒したのはアタルだと決めたようだった。

 

「はあ、仕方ない。隠しても全部ばれるみたいだ……全部話すが、三つ条件がある」

「その条件飲みましょう」

 まだ内容を言っていないのにあっさりとそう答えられたことに再びアタルたちは驚くことになる。自分たちに不利な条件を突き付けられる可能性だってあると言うのに、彼女はただ全てわかっているかのように微笑むだけだった。


「敵わないな。じゃあ、条件から言おう。一つは村の人への罰則とかはなしにしてくれ、二つ目は俺が話すことは内緒にしてもらいたい。最後に三つ目だが、その魔石……これはあんた個人が買い取ってくれ」

 アタルの条件にフランフィリアは眩いまでの笑顔になり、ゆっくりと頷く。

「承知しました」


 その返事を確認すると、一息ついたアタルは最初から話を始める。

「まず村の依頼だが、最初ウルフの討伐という話だったんだ。だがボスウルフがいることが現地に行ってわかった。ボスっていうくらいだから大型ウルフかとも思ったが、特徴から判断するにデスウルフでな。二人でなんとかそれを倒したんだ」

 どうやって? 真剣な表情のフランフィリアは視線でそう訴えながら続きを促す。


「俺の武器はこれだ。遠距離攻撃ができるマジックウェポンだと思ってくれればいい。詳細な能力説明は省かせてもらう、ここまでしてもらってなんだが手の内を全てさらけ出す冒険者もいないだろうからな」

 アタルの言葉に構わないとフランフィリアは笑顔のまま頷いた。


「討伐方法は、まずは雑魚を倒してからキャロが近接戦をデスウルフに挑む。俺は、相手の動きを止めるようにこいつで遠距離攻撃を行った。キャロが傷をつけた場所へ俺が攻撃を打ち込んで撃破って感じだな」

 彼が持つ武器がどういったものなのかわからないフランフィリアだったが、それでも話を聞いておおよその状況は浮かんでいるようだった。


「ふむ、すごいものですね……色々と話を聞かせてもらって参考になりましたよ。あなた方の実力はかなりのもののようです。これからもギルドのために働いてもらえることを期待します」

 何かを聞きたい、というのは建前でアタルとキャロの人となりを知りたいと思っていたフランフィリアはこれだけ聞かせてもらえて満足していた。


「そうだ、キャロさんが冒険者登録できないのは不便でしょう。今回の功績もありますし、ギルドマスター権限で登録できるようにしておきますので、下でブーラにお話し下さい。心配せずとも、こういうことはよくあることなので気になさらず」

 話は終わったと追い出すようでもあったが、彼女のとりなしはアタルとキャロにとって願ったりかなったりといったものだった。これ以上ここにいたらもっとしゃべりたくなるようなそんな雰囲気がフランフィリアにはあったからだ。


「ありがとうございます」

「ありがとう、それじゃ買取の件も頼むぞ」

 キャロは深く一礼し、アタルは軽く頭を下げてそう言うと二人一緒に部屋をあとにした。

 

「あのアタルという冒険者。なかなか面白そうな方ですね、ふふっ」

 ぱたんと閉じた二人が出て行った扉を眺めながらフランフィリアは楽し気に微笑み、そう呟いた。

お読み頂きありがとうございます。

誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。


ブクマ・評価ポイントありがとうございます。


活動報告にもありますが、昨日の投稿で手違いがありましたので、もしよろしければご確認いただければ幸いです。

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