第百九十七話
その後、ある程度まとまったアタルの案は発案者の名前は出さないまま、城の会議で話し合われることとなる。
「じゃあ、俺はいらないよな?」
そう言って会議の参加を断ろうとしたアタルだったが、もちろん王たちがそれを許すはずもなく、スペシャルアドバイザーとして参加することとなってしまう。
キャロとバルキアスはブラウンたちに協力を依頼して、巨人族に対するイメージや巨人族のエリアに行ってみたいかなどのアンケート調査を街で担当している。
「――それで大臣、その観光でしたかな? それを実現させたとしてどれだけの利益が生まれるのでしょうか?」
顔を扇で半分隠した貴族からの質問だった。
この場にいる多くの者は今回の案に対して懐疑的だった。
アタルの案をざっくりと言ってしまえば、巨人族を見世物にするというものである。それを巨人族にどう説明するのか、そもそもそんなことをして面白いのか。人が集まるのか。その全てが貴族たちにとって疑問であった。今までの入場許可証による住み分けを崩してまでやる価値はないと思っているのだ。
「まず、確認ですがここにいる者のほとんどは普段から王をはじめとした巨人族と接する機会が多いです。また、貴族ともなれば巨人族へのエリアへの入場はほぼ自由に行えます。私もそうであるし、あなたも騎士たちもそうですね」
大臣の言葉に何を当たり前のことを思いつつも質問した貴族も頷いていた。
「それでは視野が狭すぎるということをまずは言っておきます。そもそもそれは我々王城勤めのものや、権力のある貴族ならではの状態であり、一般の市民や旅人には巨人族と接する機会などはほとんど無いにも等しいのです」
言われてみればそのとおりだと、これまた一同が頷く。
「その彼らに街を案内する。それは閉鎖的だと思われている巨人族とその他の種族の交流にも繋がります。住み分けは揉め事を避けるために行われていますが、相互に種族理解が進んでいないせいもあるでしょう。そして、その結果に金が落ちれば国も豊かになるのです」
徐々にみなが大臣の言葉に興味を示していく。
参加者の気持ちを掴みつつあった大臣は、なぜ金を支払おうという気持ちになるのか、巨人族に対してどういった配慮をしていけばいいのか。それを順番に説明していく。
もちろん全てが全てすんなりと受け入れられたわけではなく、王やアタルも意見を求められ、メリットとデメリットについて説明をしていく。
最終的な結果としてはおおむね全体の合意を得ることができ、この案は数日の会議の結果、実現する運びとなった。
「ふう、長かった……長かったが、これでなんとかなりそうだな」
長い時間拘束されたせいでアタルはぐったりとしながら会議室に残った大臣に声をかける。
「えぇ、アタルさんにはご尽力いただきまして、本当に助かりました」
表情をやわらげた大臣はアタルのことを戦友だと思い始めており、素直に感謝の言葉を口にする。
「いやいや、そもそも俺が提案したことだからな。少しは責任を持たないと……それよりも、例のこと頼むぞ?」
実はアタルは大臣に個人的なお願いをしていた。
「もちろんです、あのようなことでよければアタルさんのご要望どおりで問題ありません」
アタルの要望は二つ――観光案内に登録しなくても自由に巨人族のエリアに入退場する権利、そしてアタルを案内してくれた女性商人の登用だった。
既に女性商人にも話をしてあり、働きがわるければクビということもありうると話してある。
彼女はあんな適当な返事だったアタルが動き、まさか実現までこぎつけるとは思っていなかったらしく、最初は動揺が強かった。だが商売になることと、自分の力をアタルが認めてくれたことを受け止めて、最後には引き受けると強く宣言した。
「さて、それじゃ俺はそろそろ帰らせてもらおうかな」
「そうですね、お仲間のお二人も待っているでしょうからそうしてあげるのが良いかと」
キャロとバルキアスの二人とはこの数日の間、宿で顔合わせはしていたものの、会議続きであまりゆっくりと会うことができていなかった。
「それじゃ、お疲れ様でした」
アタルが大臣にそう声をかけると、大臣も立ち上がってアタルに一礼をして見送った。
城から出て来たところで、キャロとバルキアスの二人がアタルを迎えに来てくれていた。二人ともアタルを見つけると揃って駆け寄ってくる。
「おぉ、二人とも迎えに来てくれていたのか、ありがとう」
「お疲れさまでしたっ、アタル様!」
『アタル様おつかれさまー』
いつもの二人に声をかけられたアタルは、自然と表情が緩んだ。
この世界に来て話せる相手、協力する相手、今回のようにともに仕事をした相手など様々な人と交流してきたアタルだったが、心を許せる相手とともにいることが落ち着くなと今回のことで改めて確認していた。
「さて、二人とも腹が減ってないか? 今回の件でアイデアを売る形になって、更には貴族たちを説得する協力もしたから結構いい報酬をもらっているんだ。何か美味いもので食いにいこう」
その提案にキャロもバルキアスも満面の笑顔で頷いていた。
「はいっ!」
『美味しい物食べたーい!!』
この数日間、二人は自由に食事をして良いと言われており、色々な店を回っていたが、気づくとアタルがいないことに物足りなさを感じさせていた。
「久しぶりですねっ」
ようやく一緒にご飯が食べられることに嬉しさを感じたキャロは満面の笑みをアタルに見せる。
「あぁ、家族そろっての食事な」
アタルも同じことを感じており、柔らかな笑顔を浮かべながらキャロの頭を優しくひと撫でした。
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