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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第百八十八話


「残った素材まで出させて悪かったな」

 貴族たちが去って行ったのを確認したあと、振り返ったアタルはブラウンに謝罪をする。結局、アタルが持っている素材に加えてブラウンのもとへ残した素材も提供することになったためだった。


「あぁ、気にしないでくれ。テルムのところにもまだ素材はあるし、報酬を分けてもらったからな」

 ケラケラと笑うブラウンの言葉に内心ほっとしたようにアタルは頷いた。今回の報酬である金貨二千枚、そのうち千四百枚をアタルがもらい、残りの六百枚をブラウン、テルム、ナタリアの三人で分けることとなった。


「それなら助かる。まぁ、恐らく明日には再びやってくるだろうけどな」

 アタルはデンズが出て行った扉を見ながら少し嫌そうに呟いた。

「どういうことだい?」

 これはテルムからの質問。もう問題は解決したのではないか、と彼は思っていたのだ。


「……だって、あの甲羅をどうやって加工するっていうんだ?」

 これを聞いた一同はなるほどと頷いた。今回アタルたちの装備を作るにあたって、ブラウンもテルムもまず加工段階で行き詰まってしまったからだ。


 それを解決したのは、他でもないアタルであった。

「さっきは話のわかるやつだ、みたいにデンズのことを言ったが、結局のところ金に糸目はつけないだけで強引なところがあるのは先にみんなに聞いていたとおりだ。話が上手く進んでいる間は、こちらを褒めたり持ち上げたり、綺麗なことを言ったりすることもある。だが、これで加工できないとなったら……」


「――大騒ぎってことか」

 ニヤリと笑って見せたブラウンもデンズのことを思い浮かべ、その結論に至った。


「ただ、もしあの素材をただ飾るだけだとしたら問題はないんだけどな……」

 貴族であるデンズがレアな素材を手に入れて、ただそれを眺めるだけ――そんなことはないだろうなと思いながらもアタルは希望を口にした。


「確か彼には騎士をしている息子がいるはずだ。しかも、最近騎士団の中で出世をしたと聞いている。息子を溺愛している彼のことだから、恐らくは息子の装備を作るために使うと思うよ」

 これはテルムが客から聞いた情報だった。


「なるほどな。まあ、明日来たとしたらそれはそれでまた面白いことになりそうだけどな」

 明日のことを考えたアタルはにやりと悪い笑いを浮かべている。

「もうアタル様ったら、悪い顔になってますよっ」

 なんとなくアタルの気持ちがわかってしまったキャロは苦笑しながら彼の表情を指摘した。


「ははっ、まあいいだろ。明日が楽しみだ。また、明日の朝に寄らせてもらうよ」

 ひらりと手を振ったアタルはそう言うと、キャロとバルキアスと共に工房をあとにした。






 翌朝


 あまりに予想どおりの展開にアタルは笑いたいところだったが、思っていた以上の剣幕であるため、閉口していた。

「あれは一体なんなんだ! うちの腕利きの鍛冶師でも加工ができないではないかっ! うちの息子の任命式は再来週なんだぞ!!」

 入ってくるなりデンズはずっとこの調子であり、アタルたちに反論する隙を与えなかった。


 それからしばらく怒鳴り終えると、肩で息をするほどデンズは息が乱れていた。

「やっと収まったか、それでこっちの話に移っても構わないか?」

 ぜーぜー言いながらもデンズは頷く。ひとしきり怒鳴ったことで、少しクールダウンできたようだった。


「あの……これ、どうぞ?」

 気を利かせたナタリアがコップに水を汲んできてそっとデンズに手渡す。彼はそれを一気に飲みほして落ち着きを取り戻していた。


「恐らくあんたが怒鳴り込んで来た理由は、昨日の素材をお抱えの職人がまったく加工できなかったからなんだろ? わかっているさ。アレを加工するのはブラウンやテルムでも無理だったんだからな」

 正確にはアタルの力なしでは、という注釈つきだが、あえてそれは誰も口にしない。


「わかっているなら、昨日言えばいいことだろう! なぜ言わなかった!!」

「昨日の交渉、あれは俺が持ち込んだ素材をあんたがいくらで引き取るかというものだった。素材の良し悪しや、どんなものなのかを正確に把握せずにただ欲しいと言ったのはそっちだろ?」

 淡々としたアタルの言葉は確かに昨日のやりとりを正しく表しているため、反論できずにデンズは歯ぎしりをする。


「それで、職人たちが音をあげたから、ここにアレの加工方法を探るためにきたんだろ? だったら、その態度は良くないんじゃないのか?」

 交渉するなら、相手のことを怒鳴りつけるのはよくないんじゃないのかとアタルは指摘する。


「ぐ、ぐむっ、そう言われると……」

 図星を指されたデンズはここにきて、自分で立場を悪くしていることに気づいた。それだけの冷静さを取り戻したということではあるが、時すでに遅しという予感をひしひしと感じていた。


「さて、話を理解してくれたな。それでどうする? 昨日の交渉は完結している。俺は金を受け取って、そっちは素材を受け取った。ならば、これから行う素材の加工方法については別の交渉ということになるよな?」

 追い打ちをかけるように続けられるアタルの言葉を昨日の続きであると断ずることもできたが、冷静になったデンズの頭ではそれを口にすることはできなかった。


「ぐ、う、うむ、それは……そう、なるか……」

「じゃあ、どうしようか。昨日の素材を譲ったのはサービスみたいなもんだ。昨日もいったが、金には特に困っていなかったからな。まあ金は多いに越したことはないが、さすがにもういらないな」

 城で金貨千枚、そして昨日は金貨千四百枚を受け取っているアタルにとって、金銭は交渉条件にはならなかった。


「で、では何を用意すれば良いのだ……」

 金銭くらいしか思いつかないデンズは明らかに自身が弱い立場であることをわかっているため、悔しさを感じつつ苦い表情でアタルに質問する。


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