第百三十九話
「それじゃ気を引き締めていくか」
一番緩んでいたアタルの言葉だったが、二人は頷いて戦闘モードに気持ちを切り替える。同時にアタルも銃を構えた。
「キャロ、バル、むやみに突っ込むなよ。距離は縮めてもいいが、相手の動きを確認しながら戦うぞ」
「了解ですっ」
『わかった!』
二人は返事をすると呼吸を合わせるように走りだし、キマイラもどきとの距離を詰めていく。
既にアタルたちに気づいていたキマイラもどきは、アタルたちを強く睨み付けて戦闘状態に入っていた。
「グオオオオオオ!」
それは獅子の頭から聞こえる雄たけびだった。周囲の空気を震わせるほどの大声だ。
「うるさい」
あまりの大声に顔をしかめたアタルはそれぞれの頭の眉間を狙って、計三発の弾丸を撃ち込む。
吸い込まれるように獅子の頭、グリフォンの頭には命中したが、竜の頭には避けられてしまう。
「なるほどな」
銃を構えたまま、アタルはそれぞれの頭がどんな反応をするのか、それを確認していた。
獅子の頭は見事に眉間へ直撃したものの、意にも介さない様子。グリフォンの頭はダメージがあるらしく、痛そうに首を横に振っている。
唯一弾丸を回避した竜の頭はアタルのことを睨み付けていた。
「強さでは竜が、耐久力では獅子が、別の部分でグリフォンがってところか……」
アタルはそう分析すると次の弾丸の準備をしていく。
「バル君、竜はアタル様を見ているので私たちは残りの二つを攻めましょう」
『了解!』
距離を保って機会をうかがっていたキャロとバルキアスも状況を確認しながら判断していく。
いまだ首を振って隙ができているグリフォンへとキャロが向かい、弾丸を喰らってびくともしない獅子にはバルキアスが向かって行く。
「せいっ!」
キャロが振り上げた片手剣は鋭く突きさすようにグリフォンの頭に向かって行く。
先ほどアタルが放った弾丸は強通常弾であり、耐久力の低いグリフォンに与えるダメージは大きく、キャロが攻撃をした今もダメージから回復していないようだった。
そして剣はまっすぐグリフォンの左目に向かって行く。
「ギャウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
抵抗する間もなく突き刺さった剣によって片方の視界を失ったグリフォンの頭は大きな声を出して、痛みからもがくように首を何度も大きく振った。
「よし!」
手ごたえを感じたキャロだったが、すぐに距離をとることを忘れない。手負いの魔物は急な動きで攻撃を繰り出してくることは想像に難くなかったからだ。
そのキャロの予想どおりグリフォンの頭の動きは次第に大きくなり、何度も首を振っていたが、それは他の首に影響を与えていた。
『いまだ!』
その隙を見逃すバルキアスではなく、獅子の頭に向かって勢いよく飛び出すと攻撃を繰り出していく。アタルの弾丸よりも強力なバルキアスの突き出された尖った爪は獅子の皮膚を鋭く切り裂き、大きなダメージを与えることに成功する。
「グルアアアアア!」
こちらもグリフォン同様大きな声をあげて痛みから逃れるように首を振っていく。通常のキマイラであれば、獅子の首が本体的役割を果たすため、この攻撃は大きな一撃となる。
「でも、キマイラじゃないっぽいからなあ……」
離れたところで見ていたアタルの言葉は冷静だった。今回の魔物はあえて何かに分類するとしたらキマイラというだけであり、それとは異なるものだということはわかり切っていた。
アタルはぼやきながらもダメージを受けて暴れている二つの頭部に狙いを定めて弾丸を放つ。獅子の頭に放ったのは氷の魔弾。これはここに来るまでの道中、キャロから聞いた獅子の弱点だった。アタルの知識では獅子の弱点が氷? と疑問に思っていたが、着弾した結果はその正しさを示していた。
「ガアアアアア……」
深く突き刺さった氷の魔弾により致命的ダメージを負ったことで徐々に声が出なくなり、獅子の頭部は動きを止めてガクリと力を失う。
もう一方でグリフォンの頭部に放ったのは貫通弾。耐久力が低いことがわかったため、複数発の弾丸を撃ち込むとそれらは吸い寄せられるように全て頭部に命中し、綺麗に貫通していた。
こちらも着弾した瞬間、時を止められたように声を失い、すぐにガクリと力尽きた。
「やったっ」
『やったー!』
アタルの攻撃の結果をみていたキャロとバルキアスは戦闘態勢を保ったままではあったが、喜びの声をあげる。
二つの頭部を短時間で倒すことができた。仮に竜の首が強力だったとしても、三対一であれば容易に倒せる。そう考えたためだった。
そこで、おもむろに身体部分がのそりと動いた。
二つの頭部がやられたダメージにいてもたってもいられなくなり、動いたのだと考えたキャロとバルキアスは竜の頭部だけ気にかけていた。
「キャロ、バル! すぐにそこから逃げろ!」
しかし、離れた場所にいたアタルは怒鳴るような声で二人に指示を出す。
「そいつはキマイラじゃない!」
キャロとバルキアスは一瞬驚いた顔をするが、アタルが必死な声で指示を出していることを瞬時に理解すると慌ててその場から離れた。
次の瞬間、ドスンという大きな音と共に重たいものが振り下ろされた衝撃が三人の身体に襲いかかる。それは先ほどまで二人がいた場所に魔物の足が振り下ろされた結果だった。
「お前みたいなのがこの世界にいるとはな……」
先ほどまで対峙していた竜の頭部はいまやぐるりと後ろ側に回っている。
最初に対峙した時、アタルが亀みたいだと言った言葉は正しかった。
「そっちが本当の頭部分かよ!」
今まで見えていなかった大きな亀の頭が大きく伸びるとアタルたちを睨み付ける。竜の頭は尻尾の部分に相当するらしく、後ろの方でニョロニョロと動いていた。
「こ、これはなんですか!?」
自身の持つ知識の中にない魔物の姿に、キャロは先ほどまで頭だと思っていたものが本当の頭でなかったことに酷く驚いていた。
『ア、アタル様!』
目の前の魔物から視線を逸らすことはないが、バルキアスは動揺しながら、状況を把握していそうなアタルの名前を焦ったように呼んだ。
「慌てるな! 元から獅子とグリフォンの頭はおまけだったようだ……こいつの名前は玄武!」
アタルが叫んだのは地球で読んだ本に載っていた、四方の方角のうち北を守ると言われている水の神獣の名だった。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




