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第百三十三話


 アタルたちは無事に入国審査を終えて馬車でゆっくりと向かう。

 関所を越えた瞬間から空気が変わっているのを感じ、それを味わいながら進んでいた。

「アタル様、他の領地と雰囲気が全く違いますねっ」

「あぁ、恐らくだがこの国はぐるりと関所に囲まれていて、エルフの国を特殊な魔力で守っているんだろうな」

 極端な言い方をすれば聖域と呼ばれるような場所に入ったかのような空気の変化があった。そよぐ風も澄み切っているような心地よさがある。


『なんか、ここにいるだけで力が湧いてくるような気がするよ!』

 元気よく馬車内で跳ねるバルキアスは空気を吸って力が漲ってきているのを感じていた。

「それはおそらくバルが神獣と呼ばれるフェンリルだからだろうな。もし、魔物だったら空気を吸って体調を悪くするものもいるかもしれない……あぁそういうことか」

 話しているうちにアタルは一つのことに思い当たった。


「何かありましたか?」

 キョトンとしたキャロの問いにアタルは頷きながらバルキアスの足を指差した。

「その腕輪。それをつけると、使役している魔物にも影響がでなくなるんだ。そうしないと、エルフの国に来たら獣魔が具合悪くなったなんてクレームが出るだろうからな」

 それを聞いたキャロはなるほどと納得しかけるが、ふと一つ疑問を持つ。


「それなら、関所で先に確認したり、説明したりするものじゃないんですか?」

 キャロの質問を聞いて、少し思案したアタルは仮説を立てる。

「これも恐らくだが、一つとしてはキッドが単純に説明を忘れていただけ、もしくは説明したつもりになっていた。この場合は単純にキッドが抜けていただけという話だ」

 もしそうだったら、それはそれで問題な気がと思いつつもキャロは頷く。


「二つ目の可能性だが、あえて黙っていたパターンだ。獣魔がいることを説明せずに入国すれば、それなりの代償がある。また、腕輪を外したやつも勝手に外すなよっていうことなのかもしれない」

 どちらにしても、入国者側に問題が発生するため、エルフ国側にはデメリットはなかった。


「なんにせよ、俺たちにはメリットしかないからいいだろ。それに、そうこう言っている間に王都が見えて来たぞ」

 関所から見えた上の部分ではなく、いよいよ正面の正門が遠くに見えていた。

「うわー! 門も大きいですねっ!」

 国の周囲を関所が守っており、王都自体も壁に囲まれており、美しくも大きな門があった。


「確かにな……すんなり入れるだろうか?」

 関所は簡単に通過することができたが、それが王都ともなれば王族や貴族、それに多くの住人が住んでいることを考えると、チェックが厳しくなることも予想できた。





 そして、数十分後。


「あっさりと入れましたね……」

「あぁ、拍子抜けもいいところだ。入れたのはいいことなんだが、あれでいいのか?」

 行われた確認は関所と同じもので、身分証明書と犯罪歴の確認だけだった。あまりに簡易すぎる確認にアタルとキャロは逆に不安に思ってしまった。


『早く行こうよ! どんな食べ物があるかなあ……』

 だが人間とは違う感覚を持つバルキアスは気がはやっており、早く街を回ってみたい様子だった。

「そうだな、考えていても仕方ない。とりあえず、宿と買い物に行こう」

「はいっ」

 少し不安はあったものの、なんだかんだいって、アタルもキャロも新しい国に興味が移っていく。


 エルフ国内は木々と調和のとれた落ち着いた街並みであり、建物にも蔦が絡まっていたり、花が咲いていたりとまさに自然と共存している国だった。

「さて、まずは宿だが……どこだ?」

 しばらく馬車で中央の道路を進んで行たが、なかなか見つからずにいる。初めて訪れたところというのは見慣れないせいかアタルたちは目当ての物が見つかりにくく感じた。

 

「あっ、あれじゃないですか?」

 何か見つけたのか声を上げたキャロが指差した方向に目を向けると、そこには大きな宿が見えた。

「確かにあれだ……さっきわからなかったのはあれが理由か」

 アタルたちが進んで来た方向からでは、宿の看板が植物に覆われて見えなくなっていた。


「これは直したほうがいいだろうな……とりあえず部屋が空いているか聞いてみよう」

「わかりましたっ」

 困ったように笑いあった二人は馬車を宿の横のあたりに停車して、宿の中に入って行く。


「いらっしゃいませー」

「あらあら、久しぶりのお客さんですね」

 出迎えたのは穏やかな雰囲気をもつエルフの夫婦だった。軽く見渡しただけでも中は綺麗に掃除されていて清潔感があったが、二人以外に人がいる気配がなかった。


「久しぶりってことは、最近は客が来ていないのか?」

 不思議そうにしているアタルの質問に、のんびりと笑った夫婦は揃って頷く。

「料理も部屋も悪くないと思うのですが、なかなかお客様がいらっしゃらないんですよね」

 困ったような笑顔で腕を組んた二人は首を傾げていた。


 アタルも二人に対して悪い印象はなく、建物も部屋は見ていないが悪くない、むしろ過ごしやすい印象を持っていた。二人の穏やかな雰囲気がそのまま宿に現れているように感じたからだろう。

「まあ、部屋が空いているのは俺たちにとってはありがたいことだから世話になりたいんだが、構わないか?」

 アタルの言葉を聞いて、二人は目を輝かせた。


「ほ、本当ですか! 是非!」

「お部屋の用意をしてきますね!」

 嬉しそうな笑顔を見せた女将はアタルたちの部屋の用意をしに、急いで二階への階段を上がっていった。


「あー、細かい条件を言っていない気がするが……まあいいか。それで、俺とこの二人の三人部屋を頼みたいんだが」

 アタルの言葉に心得ているとにっこりと笑みを深めた店主が頷く。


「もちろん、妻はそのあたりわかっていますのでご安心下さい。皆さまが何人で来ているのか、距離感からみて親しいのか親しくないのか、そのあたりをしっかりと見極めております。部屋の用意が整うまで少々お待ち下さい」

 それを聞いたアタルたちはすごいと素直に感心する。のんびりとした雰囲気の夫婦だったが、仕事となると一流のそれを感じさせた。


「それじゃ待っている間、少し質問したいんだが……宿はやっていけるのか?」

 アタルのストレートな質問に店主は苦笑する。

「いやあ、ははっ、昔のたくわえがあるので生活には困らないのですが、それでもこのままの経営状態を続けていたら赤字続きで立ち行かなくなってしまうところです……あっ、もちろんすぐにではないのでご安心下さい!」

 店主は何とか言いつくろうが、アタルたちはこの快適そうないい雰囲気をもつ宿の行く末にうっすらと不安を感じてしまった。


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