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第百二十八話


 しばらくラーギルたちが逃げた先を目で追っていたアタルだったが、次のイフリアの一言を聞いて驚くこととなる。

『あれは精霊だ』

 ラーギルたちが去って行った空を見上げたまま、イフリアは苦々しい表情でそう言った。


「あれが? 魔物にしか見えなかったが……ってイフリアも見ようによっては同じようなものか」

『アレと同類にされるのは心外だが、まあそういうことだな』

 意外だという表情のアタルの言葉に不承不承ながらも彼の方を向いたイフリアは頷く。


「ということは、あの魔物というか精霊というか、とにかくあの大きな鳥はラーギルさんの眷属ということになるのでしょうか?」

 キャロの質問にイフリアがゆっくりと頷く。


『うむ、どういう呼び方をするのかはわからないが、おそらく契約を交わした関係にあると思われる』

 話を聞いていたアタルはふと一つ疑問に思う。

「俺がイフリアと、キャロがバルキアスと契約をしたわけだが、こういうことはよくあるのか? 魔物や精霊、もしくは神獣と契約するってことは。……魔族までしてるとなると、わりと一般的だったりするのか?」

 その質問に答えたのはキャロだった。


「魔物使いの方がテイムスキルで魔物を使役するということはありますが、我々のように契約魔法で契約するということは極稀なことだと思いますっ」

 契約自体が珍しいことであるとキャロは説明する。アタルがイフリアの方をみるとキャロの言葉を肯定するように頷いている。


「また、契約魔法を行使する方がいたとしても、その対象が精霊や神獣ということはほとんどないかと……」

 キャロは自分たちが特別だと言っているようで、それ以上言うのは憚られるといった様子だった。

「そうか、まあ俺たちはそれだけを目的に動いていたから結果に繋がったんだが、まあ普通はそれでも契約できることはないんだろうな」

 納得したように頷いたアタルは認識を改めた。


『ふむ、しかし精霊が魔族に与するというのは珍しいことだな。アタル殿も言っていたが、そもそも魔族はああいった風に精霊を使役することはほとんどない。使い捨てとして駒にすることはあるようだがな』

 イフリアはミーアと呼ばれた精霊がなぜ魔族と共にいることを選択したのかが気にかかっていたようだ。


「なんにせよ、このことはガンダルに教えてやらないとだな。これ以上は危険なこと、手を引くべきだということもな。もちろん魔族だってことはふせておかないとだが」

 一つ息を吐いたあと、アタルは一応と前置きしたうえで、情報を共有することにしたガンダルにこのことを伝えることにする。


「ブレンダさんとミランさんにも伝えるかどうかですが……」

 魔族の危険性を考えれば、ギルドマスターに知っていてもらうことも一つの手ではあったが、それを知らせれば大ごとになってしまうことも目に見えていた。


「そっちも魔族ってことは隠して話しておくか。全部黙っておくわけにはいかないし、真実を全て話すわけにもいかないだろ」

 アタルはそれを結論とする。彼は余計な混乱を招かないように行動するのが正しいと判断した。


「それがいいかもしれませんね。恐らくになりますが、あの魔族が狙ってくるのは私たちだけでしょうから」

 唯一谷から生還したアタルたち。研究していた魔物を捕獲したのもアタルたち。そして、今回ラーギルを撃退したのもアタルたち。

 となれば、他の者よりもアタルたちをなんとかすることがラーギルにとっても優先事項であることが容易にわかった。


 難しい話だということでバルキアスはその辺をうろうろして時間を潰していたが、アタルの隣にいたイフリアは黙ったまま難しい顔をしていた。

「どうした?」

 それを見たアタルが声をかける。


『うーむ、先ほどのミーアという精霊。なぜあの程度の魔族に付き従っているのか……我が感じ取るにミーアの実力はあの魔族よりも上であるはずだが』

 仲間という対等な立場ではなく、ミーアが下の立場であるように見えた二人の関係性にイフリアは疑問を持っていたのだ。


「まあ、そういうこともあるさ。例えば人でも、王より優れた部下なんてのはざらにいるだろ。強さだけの問題ではなく、助けてもらった、恩を受けたとかってこともあるだろうし」

 特に変ではないだろうとアタルが言っても、イフリアはどこか納得がいかないようで考え込んだ表情のままだった。


「……とりあえず戻ろう。馬車に乗るぞ」

『うん!』

 馬車に乗り込みながらのアタルの声掛けに、ここにいることに飽きてきていたバルキアスはやっと帰れると喜んで駆け寄って来た。

「承知しましたっ」

 キャロもアタルのあとを追いかけて馬車に乗り込む。


 しかし、なぜかイフリアだけはその場にとどまっていた。

「イフリアさん、どうしましたか? そろそろ行きますよっ」

 心配そうに優しくキャロが声をかけるが、それでもイフリアは反応しない。考え込んだ表情のまま、ずっと動かないのだ。


「……おい、どうしたんだ?」

 明らかにおかしい様子にアタルは馬車を降りてイフリアのもとに向かう。

 するとイフリアは神妙な面持ちでアタルに顔を向けた。

『アタル殿、折り入ってお願いがある』

 絞り出すように口にした言葉と共にイフリアは何やら強い決意を秘めた瞳でアタルのことを見ていた。


「いいぞ」

『はっ?』

 まだ何も言っていない段階でアタルが了承したことに、驚いたイフリアはきょとんとした表情で変な声を出してしまう。


「だから、いいぞ? OK、了解、構わない、許可する。どの言葉でもいいが、お前がやりたいようにするといい」

 アタルとイフリアは契約を結んでいるため、主従関係だったが、それはあくまで契約上の話であり、アタルはイフリアを仲間だと思っている。だから咎める理由がないと肩を竦めていた。


「仲間がやりたいことがあるというんだから、それを止めることは俺にはできない。でも、まあ、一応内容は聞かせてもらうか」

 はっきりと了承の言葉を言い切ったものの、あまりの真剣さに内容が気になりだしたアタルは話すようイフリアに促す。


『……かっかっか!! さすが我の主だけあって大物だな! ……あのミーアという精霊、恐らく我よりも強い。そして、あのラーギルという魔族は再びアタル殿の前に現れるであろう。ならば我も試練を乗り越え、力になれるだけの実力を手に入れてくる必要があると思う』

 吹き出すように大笑いをしたのち、真剣な表情でアタルを見ている彼は、自身が強くなる手段に心当たりがあるようで、どうやらそこに向かうつもりらしかった。


「どこに行くんだ?」

『精霊郷』

 それはイフリアが捨てた、精霊たちの故郷だった。


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