第十二話
二人が向かったのはこの街でも一般的な武器屋であり、これぞ! といった一点ものは置いていないが、誰にでも使いやすいような武器が並んでいるため、多くの冒険者が通っていた。
店の中に入るとアタルたち以外にも何人かの客がいるようだった。武器の使い心地を確かめるように手に取ったり、じっと見定めていたりしている様子が見受けられる。
「キャロ、適当に見て回って気になるのがあったら言ってくれ。俺の方でもキャロが使いやすそうなものを探してみるよ……値段は気にしなくていい、まずは相談してくれ」
「わかりました!」
最後の一言を付け加えたのは、値段を見てキャロが躊躇してしまうと考えられたからだった。アタルの言葉に元気良く頷いた彼女は早速先ほど話に上がっていた短剣のところへ向かって行った。
「さてさて、何かいい物はっと」
その後姿を少し見ていたアタルはキャロの武器を探しつつ、自分でも使い勝手がいいものはないかと店内を物色し始めた。様々な武器が並べられており、値段も上から下まであることから豊富な品揃えを感じさせる店だった。
少し離れたところでキャロはキャロで目を輝かせて並んでいる武器を手に取ったりしていた。自分にあった武器を探すというのは宝探しのようなワクワク感があるようだった。
二人はそれぞれに店内を眺めていたが、ふと足を止めて見入っていたのは二人ともが同じ武器だった。離れていた場所にいたはずの二人が気付いたら同じものを見ていたことに顔を見合わせて驚いていた。
「キャロ、これ気になるか?」
「はい、アタル様もでしょうか?」
湧き上がる興奮を抑えるようなキャロの問いにアタルは大きく頷いた。
彼らが見入った品の一つがそうなのだが、一点ものが置いてないと思われたこの武器屋は一つだけ、他の物とは明らかに格の違う武器が陳列されていた。整列されておかれている他の武器とは違い、丁寧に飾られている。
「お客様、これに目をつけるとはお目が高い」
小太りの男が二人のもとへとやってくる。怯えるようにアタルに隠れたキャロを庇いながら彼が胡散臭そうなものを見る視線を送ると、印象が悪かったかと男は慌てて自己紹介を始める。
「も、申し遅れました。私はこの店の店長をしております、ボブズといいます」
話しかけてきた相手が店長ということで、アタルは警戒感を解いた。キャロもそっとアタルの背後から顔を出す。
「それで、これはどういう武器なんだ?」
アタルの質問からそれを感じ取ったボブズは話したくてたまらないと言った様子で目を輝かせる。
「よくぞ聞いて下さいました! こちらは、うちの店では珍しい他にはない唯一無二の武器でして……なんと、マジックウェポンなのです!」
「ふーん」
「ふええ、すごいです。マジックウェポン!!」
アタルはこの世界のソレが何を示すのかはわからなかったが、言葉からおおよそのあたりをつける。一方のキャロはその店主の言葉に驚いていた。好奇心を隠せない様子で武器をじっと見つめている。
その反応に気をよくしたボブズがその短剣を手に取り、話を続ける。
「こちらは私の旧知の冒険者から譲り受けたもので、ダンジョンでたまたま見つけたそうです。これには装備した者の反応速度や行動速度をあげる機能があるのです! 見た目も、美しい宝石などの装飾がされていて、それだけでも美術的な価値があるというものです!」
うっとりと頬ずりでもしそうな雰囲気でボブズは鼻息荒く説明していた。それだけこれには価値があると見込んでいるのだろう。
「……でも、お高いんでしょ?」
口にしてからはっとするが、アタルは思わず昔見た通販番組の言葉を自然と発していた。ちょっと悲し気な雰囲気を出すのがポイントだ。
「いやいや、それがなんと! 今なら金貨20枚!」
「金貨20枚!?」
店主の言葉にキャロは金額に大きな反応を示すが、アタルはそれが高いのか安いのかわからないため、いまいち反応に困っていた。
「それは安いのか?」
「高いです!」
「安いです!」
高いと言ったキャロ。彼女は単純に金銭的に金貨20枚は高いという意味で言っていた。他に陳列されている高額といわれる武器の金額からするとそれは異常な値段だった。
安いと言ったボブズ。彼は、マジックウェポンの価値からして金貨20枚は安いという意味で言っていた。確かにマジックウェポンの中には希少価値のものも多く、一般的な武器よりも高い値段設定がされることがあるが、それから考えると安いと思っていたのだ。
「なるほどな……まあ、お互いの立場を考えればそういう回答になるのか」
二人の言葉の意味を理解したアタルはどうしたものかと考える。実際彼のお財布事情からすれば金貨20枚など大したことのない金額である。だからこそキャロの意思を尊重したかった。
「キャロ、どうだ欲しいか?」
「いりません! こんな高価なもの!!」
すぐさまキャロは大きな声で否定した。奴隷である自分を買った金額の20倍の武器を持つなんて彼女には想像もつかなかったのだ。
「ふむ、だったらこれがもっと安かったらどうだ?」
「ちょっ!」
アタルの言葉に安くするつもりのないボブズが慌てて反応するが、それはアタルによって止められる。
「どうなんだ?」
穏やかな口調で彼はキャロに再度質問する。
「……性能はとても良いものですし、安いのなら買えたらと思います」
嘘をついても見抜かれると思ったキャロは素直に思ったことを口にした。アタルは自分の話をちゃんと聞いてくれる人だと信じているからこその発言だった。
「そうか、わかった。ボブズ、購入する」
「ありがとうございます!」
言質をとったボブズは短剣を持つとすぐにカウンターの奥へと移動し、鞘と短剣をしまう箱を用意していた。その足取りは金貨20枚の商談が決まったことで機嫌よく弾むようなものだった。
「アタル様!」
話と違うではないかと少し怒ったような表情でキャロがアタルの名前を呼ぶ。一切値段交渉することなく買ってしまったことに申し訳なさもあって強く出れない様子だった。
「まあ、いいじゃないか。能力があがるならキャロが戦いやすくなるんだ。そして、魔物を倒せば倒しただけ強くなるんだから先行投資ってやつさ。最初からいい武器を使っておけば、キャロ自身の成長が早くなるだろうからな」
アタルの言葉にキャロは不満そうだったが、それでも主人が決めたことに逆らうつもりはないようだった。
「初期投資は大事だぞ、一応俺もいくつか武器を買っておくか」
ボブズが戻って来たのを確認すると、アタルはその近くにあったいくつかの短剣を持ってカウンターに向かう。
「これも一緒にくれ。高い武器を買うんだから、少し勉強してくれると助かる」
「わかりました……」
アタルが購入した短剣は金貨20枚でも破格のものだったが、それでもずっと売れなかったこの武器を買ってくれるアタルに対してボブズはサービスせざるを得なかった。
最終的に、マジックウェポンの短剣に加えて数本の短剣合わせて金貨20枚ということになった。
「いい買い物ができた。また何かあったら寄らせてもらうよ」
「手入れも受け付けていますので、その時はごひいきに」
笑顔で答えるボブズだったが、内心では先ほどの取引の計算をしていた。この先も気前のいい彼がこの店を利用してくれればと心から願った。
「ほら、キャロこれはお前のだ」
店から出て少し落ち着ける場所でアタルは先ほど購入したマジックウェポンをキャロに手渡す。
「は、はい。本当に私のだったんですね……私、奴隷なのに……」
手に乗せられた美しいマジックウェポンの短剣を困惑しながらも受け取ったキャロは大事そうに胸に寄せた。彼は何度も自分のことを仲間だ、相方だ、と言ってくれてはいるが、キャロはあくまで自分はアタルの奴隷であるということを念頭に置いていた。
「ははっ、これくらいでそんなこと言ってたらこの先何度もため息つくことになるぞ。次は防具屋に行くんだからな」
「そうでした……はあ、仕方ないです。アタル様がそういうお方なんだというのはわかってきましたから」
彼の金銭感覚にため息をつくキャロだったが、それでもアタルの常識知らずでも仲間にはとことん優しいところを憎からず思い始めていた。
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