第百十四話
馬車でプラタの街へと向かう道中
「思っていたより平和ですねっ」
既にプラタの街への道のりの半分ほどのところまで来ていたが、魔物の姿も盗賊も現れず、向こうからやって来る何組かの冒険者とすれ違った程度だった。
「そうだな、俺の勘違いか……」
手綱を握るアタルはいまだに引っ掛かりを覚えていたが、勘違いならそのほうがいいと思っていた。
『むむっ、なんか魔物の気配がするよ! 前から結構すごい速度で向かってくる!』
「こういう話をすると来るんだよな……よく空気を読んだものだ」
しっかりとフラグを回収する魔物に対して、アタルはむしろ感動していた。
『ふむ、我が相手をしよう。なあに、威力は調整するから安心するといい』
翼をはためかせたイフリアは馬車を降りると魔物へと向かって行く。徐々に魔物との距離が狭まっていき、それと同時にイフリアのサイズは大きく変化していた。
『グルアアアアア!』
叫び声をあげながら魔物に迫るイフリア。魔物たちは大きくなって襲いかかるイフリアの姿に驚き、動きを止めてしまっていた。
解き放たれたイフリアの魔法によって魔物を一瞬のうちに倒していく。
『ふーむ、この程度か』
人通りのある道沿いに現れる魔物などはたかがしれており、イフリアの敵ではなかった。手ごたえのない相手に少し残念に思いながら馬車へと小さくなったイフリアが戻ってくる。
「ということは、魔物じゃないんだろうな……」
問題があるとすれば別にある。それがいまだ引っ掛かりのあるアタルの考えだった。
「まあ、何事もないのはいいことですっ。ゆっくりと旅を楽しみましょう」
「そう、だな。ちょっとピリピリしすぎていたみたいだ。ありがとうなキャロ」
ふんわりとしたキャロの笑顔に癒されたアタルは肩の力が抜けたようで、表情も柔らかくなっていた。
しかし、この数日後、アタルの感じていた予感が間違いでなかったことを思い知る。
数日たっても馬車の旅は順調であり、時折魔物が出るがそれもバルキアス、イフリアがあっという間に討伐するため、足を止めずに進むことができた。
「ここがプラタの街か……」
そうしてプラタの街へ到着した二人は目の前にある街を眺める。
前にいた街とは少し雰囲気が異なり、強固な壁に覆われているせいか威圧感が強かった。
「なんか、すごいですね……」
「あぁ、すごいな……」
まるで城塞都市のようであり、普通の街を想像していたアタルとキャロは面食らうことになる。
『すっごいねえ、思いっきり体当たりしても傷一つつかなそうだよ!』
『うむ、我の炎すらも防ぎそうだな』
感心するイフリアの言うとおり、壁を構築しているレンガには耐魔レンガを使用しており、魔法による攻撃は効かない作りになっている。
「まあ、とりあえず入ってみるか。教会にいるって言ってたから、場所を聞いてみないとだ」
しばらく街の雰囲気に見入っていたアタルたちは気を取り直して門をくぐっていく。その姿はまるで街に飲み込まれるようでもあった。
「そうですねっ、ギルドに向かってみましょうか」
キャロも同じ感覚だったが、それを打ち消すように明るい声を出していた。
あれだけ強固な壁に覆われていても、街の中に入ってしまえば他の街とあまり変わらない様子であり、冒険者ギルドもすぐに見つけることができた。道に面した商店で買い物ついでに場所を確認すると、すぐに教えてもらうことができた。
「ここが冒険者ギルドか……まあ、とりあえずは場所の確認だけでいいか。報告の時はここに来るとして、教会に行って依頼を済ませてしまおう」
「はいっ、それがいいですね」
教会の場所もギルドの場所を聞いた時に確認済みであり、先に依頼の遂行に向かう。
「ここか……普通の教会だな」
教えられた通り進んだところ、当たり前だったがなんの変哲もない教会がアタルたちの眼前にある。
「他の建物に比べて綺麗な感じですけど、普通ですねっ」
教会を見上げるキャロも同じ感想を持つ。
「まあ、中に入ってみるとするか……」
ここにきても何も起こらないので、アタルは開いていた扉から教会の中へと足を踏み入れる。
「あー……ブレンダの紹介で来たんだが」
中には誰も見えなかったため、声をかけるが、返事はない。アタルの声がむなしく響くだけだった。
「あのー……」
困ったような表情でキャロも声をかける。すると、ゆっくりと奥の扉が開いて一人の男性が現れた。
「何か御用でしょうか?」
それはアタルよりも頭一つ二つ大きな巨漢の神父だった。丁寧な口調の神父であったが、アタルもキャロもバルキアスもイフリアも、四人が揃って目の前の神父がもつ強さをひしひしと感じ取っていた。
「あぁ、冒険者ギルドのブレンダの依頼でここに来た。ブレンダの名前を出して、この手紙を渡せばわかると言われたんだが……」
一瞬神父が出す強者の雰囲気に飲まれそうになるものの、アタルは思い出したように手紙を取り出して神父へと渡す。近づくとより一層神父の持つ威圧感が増していくのを感じた。
「あぁ、ブレンダの……。なるほどなるほど……。ふむふむ、そういうことですか。その封印球というのも持ってきているんでしょうか?」
手紙を一通り読み終えた神父はにっこりと笑みを浮かべて、アタルに質問をする。
「これだな、受け取ってくれ」
そう言われると思っていたアタルは先に封印球を取り出していた。
「なるほど、これが……これはなかなか強力な封印が施されていますね。あなたたちが持ち込んだものと聞きましたが、相違ありませんか?」
ニコニコとした表情のままアタルに聞いてくる神父だったが、目の奥には突き刺さるほどの鋭さがあった。
「あぁ、そのとおりだ。どこまで書いてあるのか知らないが、俺たちはある依頼を受けて谷に向かった。そこで問題の元凶であろう魔物を証拠として捕まえてきた。それがその中にいるやつだ」
「ほう」
視線を受けても怯むことのないアタルに対して神父は満足げに口元を吊り上げた。
「君がアタル君ですか、そちらのお嬢さんがキャロさん……二人ともなかなか強そうだ。あぁ、名乗らずに失礼、私の名前はギガイア。こんな格好をしていますが、一応元冒険者です」
「あぁ、知っている。Sランクだろ? なかなか強そうだ」
「ははっ、それを知っていてその態度とは君もなかなか大物のようですね」
強気な態度のアタルにギガイアは大きく笑い、アタルもそれにつられて笑った。
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