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白椿  作者: 野草こたつ
3/8

三話『愛染院ソラ』

 逢魔が刻。

 私の姿は誰にも見えていない。

 私の持つ二刀のナイフ、レイラの影響で。

 道行く人々にまざって歩く黒い影を裂きながら、私は進む。

 この時間帯、白椿のところへつながる道がひとつだけある。

 この街の中央にいつからか、正確には分からないほどの年月咲き続ける寒椿の木。


 この世と精神世界を繋いでいる要。

 兄とともに探し出した根源。

 けれど、兄は。


『ソラ、ほんとうにひとりでいくの?』

 レイラが私に問う。

『無理よ。だってあれは私たちよりずっと長生きなんだもの。

 そもそも、私で殺せるかどうかだって』

「それならよけいに、東条君に手伝ってもらう必要はないでしょう」

『ソラ……』


 誰にも見えていない人物がもう一人。

 白椿の下に佇む着物の青年。

「生命は流転する、何も、何も、悲しむことなどないのに」

 私はレイラを構えたが、青年はじっと私の後ろを見ている。

「人は信じるものしか見ることも聴くこともできない、たとえどんなにそばにあっても」

 会話をしても意味はない。

 私は地を蹴った。


「どんなにそばにあって、声をはりあげてあなたを止めたとしても」

 一瞬で世界が真っ白に染まり、散った椿の花びら一枚一枚が刃となって私に襲い掛かる。

「!」

 しかしそこへ別の少年の声が混ざった。

「ま、に、あ、えー!」

 白銀にきらめいた刀が刃のすべてを叩き落す。

「見様見真似でも結構できるもんだな」

「東条君!」

「急に消えていくもんだからびっくりしたぜ」

 東条くんは刀を手に、青年を見やる。

「で、あれがあんたの言ってたやつ?」

「どうして来たのですか!」

「その話はいつでもできるだろ? ……って」


 いつの間にか景色は元に戻っていた。

 そこにはただの寒椿があるだけで。

 それ以外に何もなく。

 私の手にはレイラもなく、東条君の手にシズイもない。

 何事もない夕暮れの街がそこにあった。

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