三話『愛染院ソラ』
逢魔が刻。
私の姿は誰にも見えていない。
私の持つ二刀のナイフ、レイラの影響で。
道行く人々にまざって歩く黒い影を裂きながら、私は進む。
この時間帯、白椿のところへつながる道がひとつだけある。
この街の中央にいつからか、正確には分からないほどの年月咲き続ける寒椿の木。
この世と精神世界を繋いでいる要。
兄とともに探し出した根源。
けれど、兄は。
『ソラ、ほんとうにひとりでいくの?』
レイラが私に問う。
『無理よ。だってあれは私たちよりずっと長生きなんだもの。
そもそも、私で殺せるかどうかだって』
「それならよけいに、東条君に手伝ってもらう必要はないでしょう」
『ソラ……』
誰にも見えていない人物がもう一人。
白椿の下に佇む着物の青年。
「生命は流転する、何も、何も、悲しむことなどないのに」
私はレイラを構えたが、青年はじっと私の後ろを見ている。
「人は信じるものしか見ることも聴くこともできない、たとえどんなにそばにあっても」
会話をしても意味はない。
私は地を蹴った。
「どんなにそばにあって、声をはりあげてあなたを止めたとしても」
一瞬で世界が真っ白に染まり、散った椿の花びら一枚一枚が刃となって私に襲い掛かる。
「!」
しかしそこへ別の少年の声が混ざった。
「ま、に、あ、えー!」
白銀にきらめいた刀が刃のすべてを叩き落す。
「見様見真似でも結構できるもんだな」
「東条君!」
「急に消えていくもんだからびっくりしたぜ」
東条くんは刀を手に、青年を見やる。
「で、あれがあんたの言ってたやつ?」
「どうして来たのですか!」
「その話はいつでもできるだろ? ……って」
いつの間にか景色は元に戻っていた。
そこにはただの寒椿があるだけで。
それ以外に何もなく。
私の手にはレイラもなく、東条君の手にシズイもない。
何事もない夕暮れの街がそこにあった。




