二話『東条シキ』
同時刻。
鼻先を掠めてコンクリートに突き刺さった刀に、学生服の少年シキは目をまたたいた。
「……なんだこりゃ」
突然空から降ってきて、目の前に突き刺さったそれを不審に思ってひっこぬく。
『……いたた』
「うお、しゃべった」
なぜそう思ったのかは分からない、ただ刀が喋ったのだと思った。
『? きみが新しい宿主かい?』
「宿主かどうかと聞かれたらちがうな」
『でも手に持っているじゃないか』
「それで決まんの?」
『適性がなければ持てないから』
「ほー」
『ところで君は驚いたり、半狂乱になったりしないのかい、この状況に』
刀のほうが不安になるほど平然としていたようだ。
「この世に不思議なことはありすぎるほどあるからな」
『なんだかきみとはうまくやれそうな気がするよ』
◇◇◇
雪が降る季節だった。
真っ白な世界で。
白椿の木の下で青年は見ていた。
消えた刀を追う少女、刀を拾った少年。
「運命は変わらない。死を避けることもできない。ただ受け入れるほかにない。
それが、あなたたちというものだ」
◇◇◇
シキの自宅。
要するに、この世には人の感情から生まれた怪物たちが跋扈していて。
この刀はそれを斬ってほしいという、それだけの話。
ちなみに斬らなければくっつかれた人間は病死や事故死、自殺へ至るらしい。
「むちゃくちゃ言うなよ、俺ふつーの高校生、相手、怪物。おかしいだろ」
『僕が力を貸すよ、そうすれば君は人を超えたことができる、から』
語尾が濁ったのを聞き逃さずに問う。
「シズイって言ったか? そううまい話があるとは思えねえ、なーんか隠してるだろ、相当重要なことをだ」
『……僕たちを使うひとたちは、いつか力に押し負けて怪物と同じになってしまうんだ』
「ほお、それ黙って勧めた理由は?」
『もう手に取ってしまったから、何も変わらない』
「なるほど、つまり俺の死亡日時はほぼ確定してるわけか、しかも奇抜な死に方で」
『そう』
申し訳なさそうな刀、シズイに反して、やや悩んではいるものの俺は平静だった。
『シキはどうして平気でいられるの?』
「おまえが言うなよ」
言いながらも口を開いた。
「人間に生まれてんだからいつか死ぬ。
明日が確実にくるやつなんていねえし、十年後にも生きてる保障なんざ最初からない。
何より俺は輪廻転生を信じてるんでな、死んだとしても……。
それがどんなに苦痛であっても次が来る、それだけだ」
『シキ、高校生?』
「ジジイだって言いてえのか」
『すこしね』
「このやろう」
◇◇◇
便利なことでシズイは普段、俺の体内にあって眠っているらしい。
取り出したいと思えばいつでもでてくる、邪魔にならない。
問題なく朝を迎え、通学路を歩き、学校につき、友人たちと会話していると、教室のドアが開いて一人の少女が顔をのぞかせた。
「東条シキ君はいらっしゃいますか?」
空色の肩までの髪に、かわった銀色の目を持つ少女。
たしか名前は愛染院ソラ。
クラスは別だが学年は同じだったはずだ、友人が熱をあげていたので知っている。
ちなみにその友人から現在恨みのこもった視線をむけられている。
「なんか用か?」
「すこし、お時間よろしいでしょうか?」
◇◇◇
愛染院ソラという少女は変わった出自で。
たしか神社か寺か何かの生まれだった。
そのことからなんとなくシズイのことかなと思いながらついていくと、裏庭まできて振り返ったソラは案の定そのことについて触れた。
「東条君、あなたはその刀についてどこまで知っていますか」
「実はこの世にはお化けが跋扈してて、んで、俺の寿命がだいたい決まった感じのこと」
「……そうですか。あなたがその刀を拾うことになったのは私の不手際です。
ですから、あなたがそれを使う必要はありません、死ぬときまでしまっておいてください」
「私の不手際です、ってことは、あんたがシズイの前の持ち主をやったのか」
ソラは俺の言葉に悔しそうな顔をした。
「ええ、それはもともと私の兄のものでした。
そして兄は昨日死にました、私が、殺しました」
「……」
「あなたも見ればわかります、それを使った人間がどうなるのか」
「あんたも?」
「ええ、だから、あなたはそれを使う必要はありません。使わなければ、寿命はのびますから」
「けどその怪物は無限にでてくるんだろ? 生き物がいる限り」
「この世とその世を繋いでいるものを絶てば終わります、私たちはそれを見つけましたから」
『それって……』
それまで黙っていたシズイが口を開いた。
『あの椿の木のことだよね、無理だよ、だってあれは僕たちよりも、ずっと永く生きているんだから。
前の持ち主だって、敵わなかった』
「それでもやるのですよ」
ソラが俺に背を向けたので、声をかける。
「約束はしないぞ」
「!」
振り返ったソラに、俺は笑う。
「性分でな、面倒ごとをほっとけないんだよ」
「警告はしましたから……どうなっても、知りませんよ」
ソラはそう言い残し、暗い表情で去っていった。
「なぁシズイ、前の持ち主ってあいつのにいちゃんなんだよな」
『? うん』
「おまえやっぱしゃべることができても人間ではねーな」
『そうだけど、なんで?』
「なんでもない」
たぶんおまえには分かれないことなんだろうから。




