一話『白椿』
逢魔が刻。
「今日は雨ですね」
青年が呟いた。
白い着物に白の羽織をした銀髪の青年。
真冬に咲いた白椿の下に佇む彼の視線の先には、刀を手にうずくまっている少年。
少年の腕と刀は同化しはじめていた。
「これ以上、苦しみなさいますな」
少年の血走った赤い目に見上げられても、白椿の青年は憐れむような表情をしていた。
「この世には変えられない運命があり、宿命がある。
あなたはただの人間であって、大きな流れにあらがうことはできない。
あなた一人に変えられるものは何もなく、あなたという存在は空に浮かぶ星よりも、海辺に転ぶ砂粒の一つに近しい」
青年は金色の瞳を少しだけ細めた。
「あなたのために海が流れを変えることはなく、あなたのために風が凪ぐこともない。
ですから、もう苦しみなさいますな」
◇◇◇
いつからそれが居たのかと言えば、きっと生命が生まれたときからだと少女は思っていた。
水色の肩までの髪に銀色の瞳を持つ少女ソラは、両手にナイフを握りビルの屋上から飛び降りる。
伸びてくる真っ黒な蔓を引き裂いて、半分以上植物と化した少年の心臓を狙う。
その右手には黒く染まり、少年の腕と同化してしまった刀がある。
(これで終わりです、兄さん)
蔓を引き裂いて、少年の心臓に一撃、右腕に一撃を入れ、刀と少年を引き離す。
『――』
声にならない悲鳴をあげて、少年の体が霧散した。
残ったのは、白銀の刀だけ。
それを回収しようと手を伸ばした時、刀はまばゆく輝き消えてしまった。
「……な」
ソラは愕然とその場に立ち尽くした。




