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白椿  作者: 野草こたつ
1/8

一話『白椿』

 逢魔が刻。

「今日は雨ですね」

 青年が呟いた。

 白い着物に白の羽織をした銀髪の青年。

 真冬に咲いた白椿の下に佇む彼の視線の先には、刀を手にうずくまっている少年。


 少年の腕と刀は同化しはじめていた。

「これ以上、苦しみなさいますな」

 少年の血走った赤い目に見上げられても、白椿の青年は憐れむような表情をしていた。


「この世には変えられない運命があり、宿命がある。

 あなたはただの人間であって、大きな流れにあらがうことはできない。

 あなた一人に変えられるものは何もなく、あなたという存在は空に浮かぶ星よりも、海辺に転ぶ砂粒の一つに近しい」


 青年は金色の瞳を少しだけ細めた。

「あなたのために海が流れを変えることはなく、あなたのために風が凪ぐこともない。

 ですから、もう苦しみなさいますな」



 ◇◇◇


 いつからそれが居たのかと言えば、きっと生命が生まれたときからだと少女は思っていた。

 水色の肩までの髪に銀色の瞳を持つ少女ソラは、両手にナイフを握りビルの屋上から飛び降りる。

 伸びてくる真っ黒な蔓を引き裂いて、半分以上植物と化した少年の心臓を狙う。

 その右手には黒く染まり、少年の腕と同化してしまった刀がある。

(これで終わりです、兄さん)

 蔓を引き裂いて、少年の心臓に一撃、右腕に一撃を入れ、刀と少年を引き離す。

『――』

 声にならない悲鳴をあげて、少年の体が霧散した。

 残ったのは、白銀の刀だけ。

 それを回収しようと手を伸ばした時、刀はまばゆく輝き消えてしまった。

「……な」

 ソラは愕然とその場に立ち尽くした。


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