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チキンカレー

作者: かものはし

学校の近くのこのカレー屋「しるびあ」には、いわゆる裏メニューが存在する。僕も入学してからの1年半、週に2度はここのカレーを昼飯にしてきたが、未だそのメニューを注文する客はいなかった。しかし、友人に聞いても、先輩に聞いても、そのメニューの噂は知れ渡っているのである。


今日も、暖簾をくぐるとそのまま僕はいつものチキンカレーを注文し、店の入り口に置かれているマンガ本を手に取ると、いつものカウンターへ座った。僕の他に客は2組、カウンターの逆側に同じ学校の学生と思われる青年1人と、窓際のテーブル席に老夫婦がいるだけである。


老夫婦はここの常連で、サイトウさんと言うようだ。普段は旦那が1人で来ているので、奥さんを見るのは二度目である。奥さんはサイトウさんよりも食べるのが遅いらしく、奥さんが食べるのを気にしながらサイトウさんは窓から電線に止まるスズメを眺めているようだった。


すぐに僕のチキンカレーが席に運ばれた。いつものようにテーブルの上に置かれた福神漬けを皿に盛ると、僕はそのまま食べはじめた。


チキンカレーも半分まで減った頃、厨房から違和感のある匂いが漂ってきた。確かにここのカレーの匂いなのだが、明らかに普段のものより強烈である。サイトウさん夫婦は全く気がついていないようだが、僕には明らかにそれが異常な匂いであるとわかった。


違和感の正体は、すぐに明らかになった。その強烈な違和感が、奥に座る学生の席に運ばれ、運んできたオバちゃんの声が聞こえた。「タイ風でございます。」


僕がそのメニューに遭遇したのは初めてで、もちろん知り合いにも頼んだものはいなかった。しかし、それも当然である。「タイ風カレー」はメニューに載っておらず、その味おろか値段すらも想像ができないからだ。カウンターの奥をそっと見ると、その学生も注文には慣れていなかったようで、顔は少し緊張して見えた。


私は残りのチキンカレーをサッと流し込み、早々と会計を済ませ、興奮気味に店を出た。「僕は目撃者だ!」裏メニューを見たことある人間は、僕しかいない。僕は特別幸運な人間だと、感情を爆発させていた。また同時に、せっかくなら会計くらい確認しておけばよかったと、少し後悔をした。


2日後、私は得意顔で「チキンカレーをお願いします。」といつもの暖簾をくぐっていった。

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