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八夜目

二人が出会ってからどれだけの時間が過ぎたでしょうか。

トニーサンタは、エーデルワイスの期待に応えたいと思いながらも、エーデルワイス同様に質問で間を繋ぐことしかできないでいました。

そのおかげでロビンソンサンタさえ知らないエーデルワイスの人となりを知ることがてきました。エーデルワイスの生まれた村では家族が一緒に暮らす習慣がないこと。トニーサンタと同じく、可愛らしい妹がいること。好きな動物は犬、苦手な食べ物はピーマン。好きな天気はくもり、苦手な遊びはしりとり。などなど。それは不思議とトニーサンタのそれらと似ていました。

お喋りだけが目的ならこれほど楽しいことはないでしょう。ですが、二人の目的はもはや全く別のところにあったのです。


それでも延々と続く進展のない問答に、トニーサンタは自分を情けなく感じ始めていました。

それでも質問をしないわけにはいきません。質問をしていないと、姿の見えないエーデルワイスが本当に消えてなくなってしまいそうな気がしたからです。

ところが、怪我の功名とでも言うのでしょうか。意図せず良い方向へと状況が移り変わっていることにトニーサンタは気付きました。そして、その変化はトニーサンタの沈んだ気持ちを強くさせてくれるのでした。


「ワイスさんの目ってビー玉みたいにキラキラしているんですね。」

彼が、いつの間にかそこに浮かび上がっていたのです。指摘されたエーデルワイスはビー玉のような目をさらにクリクリと見開いてトニーサンタを問いただしました。

「見えるのかい?」

「はい、まだボンヤリとですけれども。」

「もう少し、私の容姿を教えてくれないかい?」

「顔付きだけでよければ――――」

エーデルワイスは畳み掛けるように尋ねました。その時、トニーサンタは「あれ?」と首を傾げました。


「茶色の、野ウサギみたいな顔をしています。肌はキレイな小麦色、頬は少しフックラしていて温かそう。鼻も口も小さくて、大人しそうな女の人に見えます。」

果たして、初めての目にしたワイスはこんな容姿をしていただろうか。トニーサンタの疑問はロビンソンサンタも同様に抱いているようでした。

「村長の肌が小麦色。それはこの暗がりの中だからそう見えるという訳ではないのかい?」

トニーサンタは首を横に振りました。

「それはポピーという魔女じゃないのかい?」

暗闇の中に消えていたエーデルワイスがポピーと入れ替わったとジョンは言うのです。ジョンの意見にトニーサンタはなんとなく同意しました。それは、姿が見えなくなってからのエーデルワイスに覚えていた違和感の正体の答えに思えたのです。

「アナタはポピーさんなんですか?」

バカな質問だとは思いつつ、トニーサンタは尋ねました。すると、尋ねられた相手はなかなか答えを出すことができないでいました。

ようやく言葉が返ってきたかと思えば、それはロビンソンサンタに向けられていました。さらにおかしなことに、その声色は困惑ばかりかと思えば、喜びもまた半分ほど混じっているようなのです。


「ロビンソン、アナタは私の声を聞いてアナタの知るエーデルワイスではないと感じますか?」

聞かれてロビンソンサンタはすぐに首を振りました。

「ここに来て約半世紀、アナタの声を聞き違うはずがありませんよ。おそらく、この村にいる誰に聞いても同じ答えが返ってきますよ。」

正体不明の『彼』は、さらにトニーサンタに尋ねます。「トニー、君の目にこの部屋が何色に見えるのか教えてもらえませんか?」

「真っ暗です。」

トニーサンタはためらいながら答えました。その答えに対し、『彼』は明らかな見込み違いという溜め息を漏らしました。

『彼』の溜め息にまた気を落とすトニーサンタを見てジョンは抗議の声を上げました。

「つまり、アナタはエーデルワイスではないんだ。そしてアナタは自分が何者か予想がついているんじゃないですか?それを敢えてトニーの口から引き出そうとしている。まるで呪いを解く鍵のように。」

トニーサンタはジョンと全く同じように考えていました。そんなこと露程つゆほども考えていなかったロビンソンサンタは当惑していました。

「でも、どうしてなんだい?どうしてトニーじゃないといけないんだい?ここに来たばかりのトニーにアナタのことが分かる訳ないのに。可哀想じゃないか。」

そして、『彼』は罰の悪そうな顔でトニーサンタの愛犬を見下ろしました。

「どうしてだろうね。私自身、『エーデルワイス』という名前や『村長』という役柄に疑問を覚えてはいたんだよ。でもどうしてだかは自分でも分からない。分からないんだよ。」


『彼』はトニーサンタとジョンを、二人にあてがう予定の家へと案内するようにロビンソンサンタに言いつけました。

「正直に言えば、」

別れ際、『彼』はためらいがちに言いました。

「私は人間らしい暮らしを望んではいますが、サンタになりたいと思ったことはありません。けれども今もなおこんな生き方をし、サンタの村の長をしています。トニー、アナタはどうしてサンタになりいと思ったのですか?私はそれが私たちにとっての大切な答えに思えてなりません。」


少なくとも良い気分ではありませんでした。

答えが見つからないのです。

「世界中の子どもを幸せにする。」そのためにサンタになりたいと星に願いました。それが『彼』へ向けられていることも確かでした。ですが、そんな曖昧な答えで『彼』が満足するはずがありません。

それに、トニーサンタにはその答えに『何か』食い違いがあるように思えてなりませんでした。

「元気出しなよ。幸せは元気から生まれるんだよ。」

愛犬が自慢の短い尻尾でトニーサンタの足をパタパタと叩くと、くすぐられたトニーサンタは声を漏らして笑いました。


「トニー、『仕事』なんてものは一日で一人前になったりはしないもんだ。それに、誰かが苦しんでできたプレゼントは貰って嬉しいものでもないしね。」

ロビンソンサンタは二人を部屋に案内すると、別れ際に言いました。

「『仕事』なんて大層な言い方は好きではないけれど、私にとってはトニーも立派な『子ども』だからね。サンタになって幸せだと感じて欲しいと心から願うよ。」

ロビンソンサンタはベッドに入った二人を確認すると、温かい息でロウソクの火を消しました。

「それでは、お休みなさい。」

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