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四夜目

2人のサンタが訪れたのは大きな蟻塚のような、土が盛られただけの粗末な家でした。

「こんなところに住んでいるのかい?」

「長は木や石を使った建物が苦手なのさ。まるでモグラのようだろ。」

「だったら長は工場へは行かないのかい?」

ロビンソンサンタは柄にもなくクスクスと少女のような笑いを溢しました。

「鋭いじゃないか。確かに、長は工場に足を運んだりはしない。…まあ、その辺りは本人に直接聞いてみた方が良いと思うよ。正直、私は確かな理由を知らないからね。」

ロビンソンサンタは扉のない入り口から、この蟻塚を満たすような大きな声で長の名前を呼びました。


「どうぞ。」

中から返ってきたのは、若い娘のように高いトーンと、老人特有の穏やかなサウンドを兼ね備えた声でした。

家には窓がなく、一歩踏み込めば星のない夜に迷い込んだかのような錯覚に陥りました。しかし、2人のサンタは不思議と障害物に道を遮られることなく、声に導かれるまま、家の奥へと進むことができました。

どれだけの距離を歩いたか分かりませんでした。とても長かったような、あっという間だったような。それは村長の返事を聞いてから対面するまで、五感、六感を働かせるようなものに何一つ出会わなかったからでした。


「初めまして、トニー。私はこの村で長をつとめていますエーデルワイスという者です。」

無感動の垂れ幕の奥から現れたのは、その声に恥じない、トニーサンタも思わず身構えてしまうくらいに端正整った美しい少年でした。

「村と同じ名前だ。」

「そうですね。もともとここには村なんてなかったのですよ。私が皆を集めているうちに、回りのサンタがそう呼ぶようになっただけの話なんです。まあ気にせず、ワイスと呼んでください。」

エーデルワイスという名の村の長。彼の白い頬はマシュマロのような柔らかな曲線を描き、瞳はショーウィンドウに並ぶ宝石たちよりもみやびな煌めきを備えていました。

見れば見るほど子どもこどもした外見をしているのに、流れるような金髪を撫でる指も、余分な肉の見当たらない立ち姿も、どうしようもなく洗練されているようにせるのでした。

まだ『美術』というカテゴリーの感性にうといトニーサンタでしたが、何一つ過程を経ることなく『美』というものに対して達観してしまったような気分にさせるのでした。

それほど、目の前の人物は『美しさ』において一部の隙も持ち合わせていません。途方もない時間の末に仕上げられた人形のような男の子なのでした。


だからなのでしょうか。完成し過ぎた容姿と振舞いに初めこそ衝撃を覚えましたが、それもじきに関心を惹くようなものはなくなってしまうのでした。それはまるで、彼を取り巻く垂れ幕と同じたぐいの生き物のようなのです。

意識していなければ、それと同化して見失ってしまいそうになるのです。

「貴方にはまだ私が見えていますか?」

「見えています。」

本当はすでに、美しい頭以外のほぼ全てが垂れ幕の向こう側に隠れてしまっていました。

「では感想を聞いてもよろしいですか?」

トニーサンタには長の意図が汲み取れず、疑問符が頭を突きます。

「率直に言いますと、私は自分の印象尋ねないと不安になるのです。ここに私が居るかどうか分からなくなってしまうのですよ。」

隣を見遣ると、口数の多かったロビンソンサンタも村長の言葉に耳を傾けることに集中しているらしく、黙りこみ、視線も明後日を見ているようでした。


すでに隠れてしまった少年の全身を懸命に思い出し、村長への回答を模索しました。その間、村長は一言も口を利かず、トニーサンタの言葉へ期待を注いでいました。

「お母さんが、妹のために買った人形に似ているように思えました。」

トニーのいた町では、産まれた赤ん坊へ将来の希望を込めて人形を贈る風習がありました。トニーサンタは、去年産まれた妹のベッドのかたわらに、いつも金髪の妖精のような人形が置いてあったことを思い出したのです。

答の背景を説明し終えるとようやく影の薄い村長は口を開きました。

「光栄ですね。」

村長はそこそこ満足したらしく、トニーサンタの答を噛みしめているようでした。

一段落したとなると、トニーサンタは抱くべき幾つもの疑問を改めて思い出しました。


「僕も尋ねていいですか?」

「何でもどうぞ。」

「どうして村長さんは――――」

「どうぞ、ワイスと呼んでください。」

その、村長の細やかな念の押しようから、トニーサンタは質問の内容を変えることにしました。

「ワイスさんはどんなサンタなんですか?」

「それは、どういう意味なのですか?」

「どんなプレゼントを作ったり、贈ったりするサンタなんですか?どうして村長になれたんですか?」

村長は「なるほど」と顎に手を添えると、「何を話すべきなのでしょうか」と果てしない思い出の海を泳ぎ始めました。


「トニー、私はね、産まれてこの方、貴方の言うようなプレゼントという形ある贈り物を貰ったことがないのです。」

村長はあくまで穏やかな声で続けました。

「両親がいなかった訳じゃありませんよ。意地が悪かった訳でもありません。ただ、贈り物をする風習のない土地に産まれただけなのです。」

今年でおおよそ1500才を迎える村長は、このサンタの村のすぐ近所で生まれました。

そこは北の極地とは思えない穏やかな気候の下にできた小さな集落でした。高い嶺々(みねみね)に囲まれたその村には外との交流はありませんでした。皆が内気で、『手を取り合う』という言葉に臆病でした。

「ところがある日、山菜を摘みに出掛けた私は一人の魔女と出会ったのです。」


「こんにちは、彷徨える(stray)子羊(sheep)。ご機嫌いかが?」

新雪のような濁りのない肌の幼子の前に現れたのは、浅黒い肌で全身にギョロギョロと動く26の目を持った、挙げればキリのない特徴を持った宇宙人のような女性でした。

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