十二夜目
翌日、エーデルワイスの家を訪ねたトニーサンタは確信しました。この疑問だらけの願いに解決をみたのです。でもそれはなんだか残念な結果のようにも思えました。
「どうしたんだいトニー。とても疲れた顔をしているじゃないか。」
彼は、暗幕の向こう側の人ではなくなっていました。ハッキリとこちら側に姿を現しているのです。そしてそれはもはや彼に告げる必要もないように思われました。
「それでも、一応教えてくれないかい?君の目から見て、私はどんな人間に映っているのかな?」
逞しい、男性でした。目尻はキリリとしまっていて、骨張った顎や鼻筋。それは誰かを守る男の人の姿でした。
だからなのでしょうか。体には切り傷や銃創が目立ちました。まるで、戦争から帰ってきた兵士のように。
「人を救うことができる人間。それが私の本当の姿なのですね。」
トニーサンタにとって、今の彼の姿が一番近しく感じられました。だからこそトニーサンタは彼の答えが正しいのかどうか、迷っていました。トニーサンタは彼の答えの真意を確認するためにここにやって来たのです。
「ワイスさんは、いったいサンタをどう思っているんですか?サンタの村の村長なのに、プレゼントを作ったことがない。贈ったこともなければ、貰ったこともない。」
「唐突だね。でも君が尋ねるのだからそれは私にとって必要な答えなのですね。」
トニーサンタは静かに肯定しました。
「結局僕には、分からないんです。分からないけれど、僕はこの村にいてはいけない気がするんです。」
「どうしてだい?」
「きっと、ここにいるサンタにも家族がいたんでしょう?」
「いましたよ。でもそれはずっと、ずっと昔の話。君が生まれるよりもずっと昔の。」
「でも、その時には家族がいたんかでしょう?」
「いました。そして君の言いたいことが分かってきたよ。でもそれは仕方のないことだよ。誰かを幸せにするためには、どこかで誰かが頑張らないといけないでしょう?」
「ワイスさんはいったい、誰を幸せにしたいんですか?」
「私がじゃない。村のサンタたちがだよ。」
そのエーデルワイスの答えが、トニーサンタの初めの質問に戻っていると彼が気づいた時、二人の間に近づきがたい真相に近づいたような空気が流れました。
「先に答えだけ告げておきましょう。サンタたちは立派なことをしています。」
もはや二人の間に了解の取り合いは不要な間柄になっていました。二人は出口に向かう前に寄り道をすることにしました。
「トニーは、戦争はいけないことだと思うかい?」
「誰かが死ぬのだもの。僕はいけないこと、だと信じたいです。」
「私もそう思いたい。でも誰かの理想の前には必ず、別の誰かの理想が横たわっている。理想だって子どものオモチャと一緒。皆が広げてしまったらどれが誰のかなんて分からなくなる。だから誰かは我慢して片付けなきゃならない。もしくはそれを踏み潰さなきゃならない。」
「それが、戦争。」
「そうだね。」
「でも、僕はまだ子どもだから、大人のひと程正しい事なんて言えません。」
「今さら何を言っているんだい。君だって大人なんだよ。皆は君の振る舞いを見て、子どもだと言うかもしれない。でも、君はもう立派な大人なんだ。」
トニーサンタだって分かっていました。それでも不安は、大人でも子どもでも恐いものなのでした。
「でなきゃ、サンタになろうなんて考えない。」
そうです。だからトニーはサンタになろうと思ったのです。
「サンタってそんなに偉い仕事なんですか?」
「偉い仕事ではないのかい?人の幸せを祈る仕事です。誰も傷付けない。君が誰かを傷付けるのがいけない事だと言うのなら、これ以上に偉い仕事はないでしょう。」
「それはワイスさんが言った戦争もなくなるくらいにですか?」
エーデルワイスは社交辞令のような笑みを浮かべました。
「それを言ってしまったら、君は何もできない。君は生きているだけで誰かを殺しているのだから。」
僕は豚を食べるし、七面鳥も食べる。住む場所だっているし、お金だっている。だから、
「サンタだって誰かを殺すし、誰かを食べて生きている。」
間違ってない。だから、
「戦争はなくならない。でもそれは、君がいつまでもそれを『戦争』と呼んでいるから、だから君はそれを不幸と思ってしまうんじゃないのかい?」
「じゃあ、ワイスさんは何て呼んでいるんですか?」
エーデルワイスの社交辞令なそれが本物のそれに変わり、声も凛と張ったものに変わりました。
「私は『革命』と呼んでいたよ。」
「もちろんそれを『正義』と呼んでいる訳じゃないよ。誰かの命を奪ってることには変わりない。でも、そこにやっと人が生まれた気がしないかい?幸せを見つけようと努力している人がいるような気がしないかい?」
エーデルワイスの言うように、言葉の問題なのでしょうか。七面鳥を解体する光景を指して、愛しき聖夜と呼ぶことと変わらないのでしょうか。事故で歩けなくなった人を指して、生きていて良かったと喜ぶことと変わらないのでしょうか。
「私だって人を殺す時はすまないと思う。懺悔もする。でも私だって、家族を幸せにしたいという気持ちがあっても悪くはないだろう?家族の分の不幸を代わってあげたいと思っても悪くはないだろう?」
「誰もが幸せではいられない。だからといって一生不幸であることを強いられている訳でもないんだよ。そこから抜け出そうと手助けをする。それがサンタの仕事なのだよ。」
もはや、エーデルワイスが全て正しいようにしか聞こえません。でも、
「それでも僕は家族のところに帰りたいよ。」
トニーサンタの答えを聞き届けたエーデルワイスは諦めの溜め息をつきました。
「やれやれ、どうやら力説しすぎてしまいましたね。もう少し君と話していたかったのだけれど、どうやら出口に着いてしまったようです。」
エーデルワイスはトニーサンタを抱え、そこにあるベッドに寝かしつけました。
「それではさようなら。私も貴方も間違っていないことを証明してもらえれば幸いです。」
言葉とともに、エーデルワイスの見守る中で、トニーサンタは深く、深く瞼を閉じました。




