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十一夜目

トニーサンタは見ていました。ただ、黙って見守っていました。不思議と、見ていられました。

「トニー、眠くないのかい?」

「眠いのかい?僕は不思議と眠くないんだよ。もっと、見ていたいんだ。だからゴメンね。もう少し、ここにいさせてくれよ。」

ジョンは複雑な気分でした。トニーがサンタになりたいと願ったから、それは彼にとって良いことなのだと思っていたのです。

ですが、目の前の機械のように働き続ける新米サンタを見ていると、トニーがサンタでい続けることに不安を覚えてしまうのです。


トニーサンタのロビンソンサンタに向けられる真摯しんし眼差まなざしは、子どもが大人に向ける憧憬のそれでした。

「僕もね、オカシイって思ったよ。ここには居られないって。初めはね。でもね、僕のお父さんも、あんな風にとても働き者だったんだ。」

親友の心配を知ってか知らずか、トニーサンタはロビンソンサンタへ向ける視線の本音を打ち明け始めました。


「とても働き者でね、あんまり家に帰ってこられなかったんだ。僕たちを幸せにするんだって言ってて、毎日、毎日遅くまで。でも、そのお陰で僕も妹も、お母さんも生活できてたんだ。」

大きな町の小さな家にトニーたちは住んでいました。家族4人は睦まじく、誰もがうらやむような理想の家族でした。

「でもある年のクリスマス、お父さんは本当に帰ってこなくなったんだ。お母さんに聞いたらストレスなんだって言ってた。僕は小さかったし、ストレスの意味が分からなかったんだ。」

トニーの父は過度の労働を任されていました。昇給や昇格に家族が喜ぶ一方で、トニーの父は疲れていました。

ですが、トニーの父は何より子どもたちを愛して止まない人間でした。他の誰かのために働くのではありません。自分の息子のために、自分の娘のために、働くことを止めてはいけない。そういう人間だったのです。

そうして朝も昼も夜も働いて、働いて……、オカシクなってしまいました。会社も捜索に協力しましたが、結局トニーの父は見つかりませんでした。


「でも、お母さんも様子がオカシクなっていって僕は分かったんだ。ああ、これが『ストレス』なんだって。」

残されたトニーの母は、消えた夫の後始末をし、パートタイマーをこなし、子育てをこなし、夫を捜索し、毎晩泣きました。

どうして置き去りにされたのか。どうして相談してもらえなかったのか。どうして結婚したのか。

欠点のない家族に思えました。なぜなら、トニーの母はそうなるように頑張っていたのです。

だから何が悪かったのか見当もつきません。もう、泣くことでしか、ここにいない人間を想うことができなくなってしまいました。

「お母さんがその後どうなったかは知らないけれど、……お母さんは本当にお父さんが好きだったんだろうね。3年後のクリスマス、やっぱり急に僕たちの前からいなくなったよ。」

残された兄妹は孤児院に引き取られました。取り立てて不自由ではありませんでした。12の義母は不遇な兄妹にそれなりの優しさをもって接しました。ただ、クリスマスの夜だけは誰と一緒にいても二人は悲しくて仕方がありませんでした。


「なんだかね、僕にはサンタが悪い人にしか思えなくなっていたんだ。でも、妹はいつまでもクリスマスにサンタはプレゼントと幸せをくれるんだって信じていて、お父さんが仮装したサンタに大喜びした日のことを夢に見るんだって泣いてたよ。」

トニーの妹はトニーの前でだけ泣きました。気丈なのではなく、家族以外と話をすることを嫌っていました。父や母のようになることを恐れていたのです。

「だから僕ももう一度、サンタを信じようと思ったんだ。たくさん勉強して、たくさん友だちをつくったよ。サンタが来てくれるような、いいお兄ちゃんになれば、妹のところにもいつか来てくれるんだって、頑張ったんだ。そうすれば全部解決すると思ったんだ。それなのに―――、」

トニーが15才になったクリスマスの日の夜、トニーの妹は倒れて病院に運ばれました。

「大変だったんだ。何時間も、何時間も手術が続いて、僕は待合室でずっと待ってた。何度も、何度も、お医者さんが『妹は死にました』って言いに来るような気がして苦しかったよ。それで、妹が生きてるって聞いた時はお医者様に飛び付いたよ。」


「でもね、妹は下半身不随になってたんだ。喜んだけど、悲しかった。車イスに乗って戻ってきた妹を見て、サンタは不幸を持ってきたのか、幸せを持ってきたのか分からなくなったんだ。」

トニーの妹は小学生でした。旅行、留学、海に山に部活動、まだまだ楽しみにしていたことがたくさんあるのをトニーは知っていました。

しかし、退院後の彼女は誰かがそばにいないと階段もろくに昇り降りできません。

「それでも妹はサンタを信じてた。『お兄ちゃんと離れたくありません。ってお願いしたら叶っちゃった。』って言うんだ。だから僕は今度こそ本当に決めたんだ。僕がサンタになるって。」

トニーサンタは泣いていました。働くサンタを見ながら、自分が今までにしてきたことが間違っていることに気づきながらも、それが自分で導きだした答えだという確信を持って、泣きました。

「きっと、お父さんもお母さんも、同じことを考えて働いていたんだろうね。」

どうして両親は最後まで自分たちのそばにいてくれなかったんだろうとを恨んだ日もありました。でも、今は分かる気がしました。サンタを見ていると、分かる気がしました。


「だからもう少しだけ、ここにいさせてくれよ。」

「好きにするといいよ。僕はそばにいてあげるから。」

「うん、ありがとう。」

ジョンはトニーサンタの体が冷えないようにピッタリと寄り添いました。

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