十夜目
「おはよう。二人とも。」
朝食を食べ終えて家に戻ってみると、ロビンソンサンタが迎えに来ていました。
「冷えなかったかい?ちょうどできあがったところなんだ。これを一杯飲んだら出かけよう。」
ロビンソンサンタが作った特製ココアは甘く、体の隅々まで温まりました。
「これはね、一昨年のプレゼントで覚えたんだよ。」
ロビンソンサンタは自慢げに言いました。
「え、プレゼントって物だけじゃないんですか?」
「そうだな。場所によるよ。親がいるところは物の方が喜ばれるし、子どもだけのところはその反対かな。」
「子どもだけのところって?」
「まあ、一言で言うならスラム街、ダウンタウンのことだよ。ご飯もろくにありつけないような子どもたちにはロボットや人形よりも一杯の美味しいココアを上げた方が凄くキレイな笑顔を見せてくれるんだよ。あれは本当に嬉しかったよ。」
そうです。そもそもトニーサンタはそんな身寄りがなく、プレゼントを貰えなくて寂しい想いをしている子どもたちを幸せにしたくてサンタになったのです。
だから、ロビンソンサンタのやり方はとても参考になるはずなのに、トニーサンタには何かが違うと思えてなりません。
「それでは、行こうか。」
ロビンソンサンタは二人をサンタの工場へと連れて行きました。
工場内の様子は、外から見るよりもゴチャゴチャと目紛るしく動いていました。1メートル四方に3人のサンタが体をぶつけ合いながら作業しているところもあります。しかし怒号も罵声も聞こえてきません。皆、黙々と作業をしていました。
「スゴいですね。」
「皆必死だからね。自分の仕事に誇りを持っているし、何より子どもたちの笑顔に勝る活力はないからな。」
工場では言葉通りに何でも作っていました。小さな人形から仔犬や花束まで。もちろんロビンソンサンタが言ったような食べ物もあります。
「今、作ってるの?」
今はクリスマスも終わったばかりで、次のクリスマスにはまだ半年以上もあります。
「大丈夫さ。生物や動植物はキチンと保管されているから、一年先だって出来立てと同じ仕上がりのままなんだ。」
建物を取り囲む無骨なパイプが何色もの煙を吐き出し、ベルトコンベアーに乗った『プレゼント』は煙に包まれて倉庫へと流されて行きました。
なんだか想像していたサンタの仕事と違う。煙に包まれる『プレゼント』を横目で見遣りながらトニーサンタは思いました。
「それで、僕は何をすればいいんですか?」
「そうだね。トニーは今日が初めてだから、まずは私の補助をしてもらおうかな。」
そう言って人形製作部に案内された時、トニーサンタは気づかずに安堵の溜め息をついていました。
可愛らしい女の子からウサギ、ヒーロー人形まで。トニーサンタに任されたのは女の子の人形でした。
「そういえば昔、妹がとても欲しがっていた人形があったんです。」
「そうかい。ではそれを思い浮かべながら作るといいよ。きっと、とても良い人形ができるはずだ。」
基本的な作り方を教えてもらった後、言われた通り作業をしているとものの1時間で一つの人形ができあがりました。
多少粗っぽさは目立ちますが、それでもとても愛嬌のある可愛らしい人形ができ、トニーサンタはちょっとした達成感に浸っていました。
「どうだい。言った通り良い人形ができただろう。あとは少しずつ、少しずつ上手に、早く作れるようになったら上出来だよ。なあに、君だったら年内に充分一人で一つの部所を任されるようになるさ。」
そうです。トニーサンタにはここに来て一つ気になっていたことがありました。
「ロビンソンさん、この製作部ってロビンソンさん一人でやっているんですか?」
「そうだね。基本的に一人、一つの部所を持つのがここのやり方のようだよ。プレゼントの種類なんて巨万とあるからね。とはいっても、一年ごとに別の部所に異動されるから、皆年明けは大変みたいだよ。」
ロビンソンサンタはアゴ髭をゴリゴリとかきながら笑って言いました。
「お疲れ様。疲れただろう。今日はもう帰って結構だよ。」
「ロビンソンさんはまだ帰らないんですか?」
「私はやりかけの仕事があるからね。それを済ませたら帰ることにするよ。」
結局その日、トニーサンタが作った人形の数は10体足らず。対してロビンソンサンタが作ったのは500体をくだりません。
今は年明けです。ロビンソンサンタの言ったことが本当なのなら、彼はまだ人形作りに慣れていないことになります。
これがサンタの魔法なのでしょうか。
「トニー、君、ちょっとオカシイって思ってるんじゃないの?」
「……うん。」
分かっていました。何かオカシイことくらい。でもそれで子どもたちが喜ぶのなら仕方のないことなのかもしれない。そう思って黙っていました。
「いいのかい?このままここで働いていて。」
「まだ来たばかりじゃないか。それに言っただろう?ジュニアスクールの時とは違うんだって。」
「僕は不安なんだよ。」
「それより、ワイスさんの所に寄って帰ろう。」
ジョンはフンと鼻を鳴らすだけで、釈然としないといった様子でした。
「こんばんわ、トニー。今日は初めてのお勤めだったのだよね。どうだったかい?」
エーデルワイスは相変わらず闇の中にいました。ですが、姿は以前の色白な彼に戻っていました。
「僕は僕のできることをしたと、思います。でもサンタとしてはまだまだなのかもしれません。」
「ハハハ、トニーはここに来てなんだか随分と大人のような発言をするようになりましたね。」
確かに。自覚もありました。なんだか、それまで使っていた言葉が急に、幼稚に思えてきたのです。
「帰る前にもう一度工場に寄ってみてごらんなさい。君の感じ方がもう少し変わると思いますよ。」
トニーサンタは今日あったことを、エーデルワイスは村で働くサンタたちの話をしました。
工場の中を見学した時もそうですが、トニーサンタはこの村のサンタを知っているような気がしてなりませんでした。
「それではトニー、気をつけて。ジョンも、トニーをしっかり守ってあげてください。」
「もちろん、そのつもりだよ。」
その後、エーデルワイスに促されて行ってみた工場は、深夜にさしかかろうというのに全ての部屋に明かりが点っていました。まるでそのものが月であるかのように、闇夜の中で煌々と光り輝いていました。
それは美しいのでしょうか。それとも異様なのでしょうか。トニーサンタには分かりません。
「やあ、トニー。君も残業しに来たのかい?」
中に入ると、ロビンソンサンタがとても朗らかな声で迎えてくれました。
トニーサンタが工場を離れてから3時間と経っていません。それなのに彼の手元には、トニーサンタが最後に見た倍以上の人形があるのです。
「それ、全部ロビンソンさん一人で作ったんですか?」
「どうだい。なかなか慣れた手付きになってきただろう。」
「もう0時回っちゃいますよ。眠らないんですか?」
「いやいや、どうして。子どもたちのことを考えると体も疲れを忘れてしまうようなんだよ。」
「それでも、休まないと体を壊しますよ。」
「トニー、工場の中にそんなサンタが一人でもいたかい?」
確かに、黙々と働いてはいるけれど、皆今朝と同じ溌剌とした顔のままでした。
「サンタってのはやっぱり少し人間と違うんだと思うんだ。寝たり、食べたり、愛を語るよりも一人でも多くの子どもの笑顔を考えて働いている方が生きる活力になるんだ。」
ロビンソンサンタの言い方があまりに正しく聞こえて、反論すること自体が憚られました。
「だからね、君のような若いサンタがどんな働きをしてくれるのか、悪いけれど、勝手な期待をしていたんだよ。」
誰も悪くないはずなのに、どうしてだかトニーサンタにはこの状況がとても良くないことのように思えてなりません。
「まだ答えを出すには早いようだけれど、なるべく早目に答えを出しておいた方がいい。クリスマスに子どもへプレゼントをあげると、もう人間には戻れないからね。」
一刻も早く自分の答えを告げたい。ここを出ていきたい。でも、エーデルワイスは見捨てられない。
「あ。」
思い悩む中で、トニーサンタは誰かを見つけた気がしました。いいえ、ずっとそばにいた彼らが、とても大切な彼らなのではないかという疑問と答えが沸々と湧いてきたのでした。




