一夜目
「僕、サンタになりたい。」
トニーは空に向かってそう言いました。
「今度のプレゼントはサンタがいい。」
「どうしてサンタになりたいんだい?」
トニーのお願い事を聞いていた一番星が尋ねました。
「お母さんに聞いたんだ。世の中には、クリスマスにプレゼントをもらえない子どももいるんだって。きっと悲しくて泣いていると思うんだ。だから僕は皆に配って、皆を笑顔にしてあげるんだ。」
「良い子には必ず望みのプレゼントがやって来るさ。だから早くお眠りなさい。」
一番星はトニーに希望のプレゼントが届くことを約束しました。
年に一度の聖夜。その日は例年通り、町には雪がシンシンと降り積もります。小さな氷の胞子たちは、人の手に降りれば溶けて水に。車に降りればエンジンを労う毛布に。煙突に落ちれば子どもたちのプレゼントに変わりました。
もちろんトニーの家にも、その小さなプレゼントはやって来ました。暖炉の火に尋ねた雪は、真っ直ぐにトニーのベッドまでたどり着きました。
トニーはグッスリ眠っています。とても良い夢を見ているのでしょう。その安らかな寝顔は、訪れた雪も添い寝をしていた犬のジョンも、思わず覗き込んでしまうくらいに可愛らしいのです。
「いらっしゃい。」
ジョンはやって来た雪を歓迎しました。
「今年もよろしく頼むよ。ボクはトニーの笑顔が見たくて仕方がないんだ。」
雪は恭しく一礼すると、トニーの鼻先に舞い降りました。
すると、トニーの鼻みるみる赤くなっていくのでした。ジョンは短い尻尾をパタパタと振って見守っていました。
「悪いんだけど、トニー用の鞍もくれないかい?ボクの背中は硬めだから、トニーを安心して乗せられないんだ。」
胞子の一粒が『了解』と頷き、トニーの下までやって来ました。トニーの手に降りた一粒は、ブル・テリアにピッタリの小振りな鞍になりました。
トニーのお願い事を聞いた一番星の遣いの天使が、太陽のように温かく小さな手でトニーの頬を優しく撫でました。そして、トニーはユックリと目を開けます。
「こんばんは、トニー。」
足下のジョンが見上げて楽しげに言いました。トニーはジョンの挨拶に首を傾げました。
「おはよう、ジョン。」
トニーはジョンが寝ぼけているのだと思いました。ですがトニーの挨拶を聞いて、ジョンは訂正もせずにクスクスと笑っています。
「窓の外を見てごらん。」
カーテンを引けば外はまだ真夜中。空に浮かぶ満天の星たちはコソコソとお喋りをしています。トニーにとって、夜に目が覚めるなんて初めてのことでした。
枕元を見てもプレゼントはありません。トニーはやはり首を傾げました。
「お星さまたちは何をそんなに話しているの?」
可愛らしい問いかけに、トニーの一番星が答えました。
「皆、新しいサンタの初仕事が気になっているのさ。」
「新しいサンタって誰のこと?」
「何を言っているんだい。自分のプレゼントを忘れてしまうなんて、なんてオッチョコチョイなこどものサンタなんだ。」
お星さまたちはジョンと同じようにクスクスと笑いました。
「自分の格好を見てごらん。」
ジョンに促されるまま、トニーは自分の全身を見回しました。するとトニーは弾かれるように跳びはね、大喜びするのでした。
「ジョン、僕、サンタだよ。」
真っ黒な皮のブーツを履いていました。袖と裾に白いフワフワのついた真っ赤な上下のコートを着ていました。お馴染みの三角帽も被っていました。そして、窓ガラスには真っ赤な鼻のトニーの顔が映っていました。
そこにはどこからどう見ても、どこの誰が見ても文句のつけようのないトニーサンタがいたのでした。




