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陸奥手旗

 陸奥手旗という名の少女はかつてこういった。

「クリープの入っていないコーヒーなんて、うまいコーヒーじゃない。本当に美味しいコーヒーは、なんて言うセリフを一度言ってみたかったの」

 と、彼女はそう言った。

「あと、私の友達、核否秘伝が、いない。昨日、この町を出て行った」

 この町とは、東京の事である。東京ーー日本随一の街。町。

「……弟さんを探すって言って、たびにいっちゃった」

「この町から出た?」

 これは重大な事である。今、町同士は戦争を抗争を繰り広げている。ーー特に、その中心にいるのが、溝埋市。危ない、危ない。戦争だ。

「この、東京も、危ないってこと?」

「まあ、主に戦っているのは規模の小さい小都市たちだからね。心配には及ばない。僕たちは守られているわけだ」

 と、立花鏡花は、言う。ここは、カフェ。あと、ここには、問否核否という名の少女も居る。陸奥手旗、核否秘伝という名の少女と同級生だ。というか、ここでは同級生とかいう縛りもあまり関係なくなっている。ここの世界では。それで、

「ここでは、かってに弟さん探しに旅だった核否を弾劾します。ーー許せない。私たちと一緒に行く前に、かってに一人で行っちゃった、」

 よっぽど弟さんのことが心配だったのかしら、と立花は言う。

「彼女は、立花さんから、溝埋市の核燃から原爆作りをする計画を聞いてしまったの?」

「そうよ。何か文句ある?」

「うん。それは、東京都民の秘守義務では……」

「分かってるわよ。でも、核否には伝えたかったのよ」

「わかったけど……立花さんが核否ちゃんのことが好きなのはわかったけど、特に今日眩しいね」

 そう、立花の顔は、圧倒的なヒカリに包まれていた。眩しくて見たい。

「いやあ、今日は美女度に拍車がかかっちゃって」

「分かったよ。あと、核否って、名前と名字が二つあるから、違いが分からないから、ちゃんと分けて名前を呼んであげて」

「……じゃあ。秘伝と問否。それでいい?」

「いいよ」

「分かった、じゃあそう呼んであげる。ーーところで、問否くんは、いないの、 あまり喋らないの?」

 立花、そこはーー、あまりよく話せない人にも気を使って欲しいものである。

「立花ちゃん、そんなこと言うと酷いよ」

 と、陸奥が言う。

「分かった、ごめん」

 立花は大人しく席に着く。つまり、今まで立ちっぱなしで、話していたのだ。さも演説するように。そうね。

「とにかく、溝埋市に、いつか私はまた戻るわ」

「てか、立花さん、高校はどうしたの。べんきょうとか、わからないでしょ」

 立花は、溝埋市にある、自分の所属している高校を、数日欠席してきているのだった。東京区に来るために。

「いや、母のツテで来たんだよ。だからさ、危険とかはだいじょうぶ。安心してね、それにさ、そのおかげで、無事ここに私はいるじゃないか。みんな、不安がるには及ばない。さあ、何か次を注文しよう。ケーキが良いかな」

 とか言って、るんるんで立花はケーキを頼む。

「この、二千十五年に、まさか、市と市町村が喧嘩、戦争するんなんてね。まさか、ありえなくない? やっぱり全ては溝埋市だった。変なことばかりやりやがって」

「いや、まず、日本の全ての原発と核燃サイクル施設を溝埋市に置こうといったのはときの政府だ。まあ、これは戦争の口実だ」

「東京の真ん中に置くのは、誰でもというか東京都民だけですが、やっぱり嫌なもんですよね。やはり田舎に原発は置きたい」

「でも、前から市は独立をしたいような事をしてきた。特に最低クラスの生活を強いられている人たちに優しい行政をしてきた。それが、国の、というか、ヒトのカンに障ったんだろう」

「障ったって?」

「例えばだ、君はあと数年かして、大人になる。そして、働かなくてはならない。働かない道もあるが……、だが、世間の人は、酷く困った人に対して手厳しい。辛く当たる。ーーそれが世の中だ。生活保護だって、申請には、物凄く手間と時間と仲間がかかる、要る。そういう世の中だ。だから、溝埋市の市長は、文字通り、福祉の溝を塞ぐ為に努力してるのさ。セーフティーネットの穴を、蜘蛛の糸で縫おうとしている」

「蜘蛛の糸って世界で最強の糸? 強さと強度が」

「ああそうだ。みんなは、それが気にくわないらしい。ーーそうだ、立花学園の生徒たちは、基本的に物凄く、性質が良いらしいな」

「うん、いじめなんて、全くないよ」

「へえ、理想郷だな。母さんはどういう教育をしてんだか」

「ーーだから、ねえ、わかっているでしょ、うちの学校には、学校がないのよ」

 全て家庭教師。と陸奥は言った。

「ああ、母さんから聞いてる。それは、クラスのない学校。革新的モデル。友達のいない学校。グンと成績の上がる学校。……そしていじめの起こるのが、いや絶対に不可能な、学校」

 これって学校って言って良いのかね。

 立花はそういった。

「ーー」

「ま、それで、家庭教師とかが、毎日朝から家に来て、勉強をみっちり教える。夜まで。それが週六回。あはは、だいたいはこっちと同じだ」

「溝埋市でも?」

「ああそうだ。あはは。だからこうやって、寂しくなったら、友達と集まる。ねえ、ところでさ、友達って、何処で作ってんの?」

 立花学園、つまり家庭教師斡旋所は、自分のところの生徒の個人情報は、絶対に守秘義務である。誰にもばれる事はない。はず。

「私は、核否、いや秘伝ちゃんには、お店で出会ったのよ、ゲーセンの有る。そこで、いきなり、秘伝ちゃんに話しかけられちゃった。そして、ケータイでやり取りしたり、ときどき会ったりするようになった。

 そういうのってわかるでしょ、寂しいから誰かを求める」

「うん。わかる。わかるよ。うん、わかる。それで、たまたま二人とも立花学園の生徒だった、というわけ」

「そう、正解」

 立花としては、たまたますぎるよと思わなくもなかったが……。

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