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船長と魔女  作者: 樹 雅
第1章  魔女の望み
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第7話 船長と海賊


 事体に変化が現れたのはアディス星系を出て二日目の事だった。

 初めは擦れ違うはずの航路を取っていた三隻の船が、徐々に針路を変えヴァルキリアを囲む航路を取り出した。


「船長」


 ヴィーの声は硬かった。


「判っている。わたし達に用があるのだろう」


 わたし達か、はたまた積荷に用があるのか判らないが、歓迎したくない状況だ。

「どうするの?」

「まだ決められない。相手の出方によっては、振り切るしかないな。ヴィー、どう思う?」

「ボクには判らないよ。船長の方が良く知っているでしょう」


 もっともだ。海賊なら、とっとと逃げ出すが、どうも違うような気がしてならない。

海賊はこんなまどろっこしい真似はしない。一気に距離を詰めて、問答無用でエネルギー弾を機関部に打ち込む。動けなくなったところで、接舷移乗してくるはずだ。

 囲みを作っているようだが、それ以外の行動は今のところ無い。

ここまで時間を掛けるような海賊はいないはずなのだが、相手の意図がつかめずにいる事は、かなり判断に迷いが出る。それを狙っているのなら、相手は頭の回転が速いといえる。

 そんな相手は苦戦すると決まっていた。


「ヴィー、光学映……」

「待って、船長。通信が入った」

「繋いでくれ」


 通信モニターに映ったのは、アイパッチにパイレーツハットを頭に載せた、海賊らしくない中年の男だった。

 呆気に取られたわたしとヴィーを尻目に、中年の男は言う。


『われわれは、えっと、グル? グルニダン海賊一家だ。あー、無駄な抵抗はせずに、えー、積荷を渡せは命だけは助けよう。いや違った、命だけは助けるぞ』


 わたしは違った意味で頭が痛くなってしまった。ヴィーはヴィーで眼を丸くして相手の口上を聞いている。


『えー、すぐに機関を停止して、慣性航行に切り替えなさい。いや、切り替えろ』


 棒読みでセリフを喋っているようにしか思えない口調――しかも、どうしようもなく品の良さが隠せない――で中年の男は片目で凄んで見せる。


その迫力の無い事と言ったら、呆れてしまうくらいだった。

しかも、わたしはこの相手が、誰だか判ってしまった。見知っていた相手だったから、更に頭が痛くなってしまった。

 呆れたような顔でヴィーが声を潜める。


「船長。今時の海賊って、こうなの?」


 わたしは片手で、こめかみを押さえつつ首を振っていた。

いる訳が無い。

ドラマの海賊でもあるまいし、証拠を残すような事はしない。少なくとも、映像付きで通信を送って来る事は無い。

ほとんどが音声のみの短い恫喝だけだ。砲撃も無く、通信を送って来る事は本物の海賊は絶対にしない。これは、ただ単に海賊を装っているだけだ。


「ドクタ。そこで何をやっているんです?」


 わたしの呼びかけに、中年の男は絶句して言葉に詰まったまま固まってしまった。

周りがざわめいて、一方的に通信が切れたてしまう。しばらくわたしとヴィーは、通信モニターを見詰めてしまった。

ややあってヴィーは、わたしを疑わしそうに見ると首を傾げる。


「船長は、今の人の事を知っていた?」


 苦笑して頷いてみせる。

しかし、何だってまた、こんな所で見当違いの海賊の真似をしているのか、理解に苦しむ。そう言う人ではなかったはずなんだが?


「あの人は、ドクタ・ケンジ・カツラギと言ってね。わたしの恩人なんだ。故郷を出る時にも、ルイフルのおやじさんに拾われた時も世話になった人だよ。ドクタがいなければ、わたしは故郷でどうなっていたかは判らないな」

「そう言う人が、いったい何でこんな事を?」

「それは、わたしが聞きたい事だよ。本当に何でまた、こんな事をしているんだろう?」


 ヴァルキリアを囲んでいた三隻の内、一隻が速度を上げて接近してきた。


「船長」


 ヴィーの声に緊迫感がこもる。

この状況では仕方がない事だが、わたしは逆に安心していた。なにせ相手は、あのドクタ・カツラギだ。


「大丈夫だ、ヴィー」


 わたしは安心させるように頷いて見せる。

同時に通信モニターが再び灯った。今度は、アイパッチもパイレーツハットも無いドクタ・カツラギが映し出される。


『あー。キミは誰だったかな? 見覚えはあるのだが……』


 まあ、そう言うのは判る。

ドクタ・カツラギと最後に会ったのは一三年前の事だから。それからわたしも色々とあり、あの当時の面影は残っていてもかなり感じが変わったのだろう。


「お忘れですか、ドクタ。わたしですよ、ライフォードです」


 一瞬だけドクタ・カツラギは信じられないように眼を開き、わたしをモニター越しに見つめてくる。


「で、ドクタは、そこで何をしているんです? しかも海賊の真似事までして、何の冗談です?」

『いや、な。ライフォード、キミに相談があるのだが……』

「とりあえず、聞きましょう。わたしもトレイダーですから、儲け話には興味があります」


 途端にドクタ・カツラギの顔が、何ともいえないようになった。わたしは先を促すように何も言わずに黙っていた。


『あー、儲け話とは違うのだが……聞いてはくれないかな』

「ドクタらしくも無いですね。回りくどい事は止めましょう。はっきりと言って下さい」

『実はな……』

「あーと、ちょっと待て下さい。ドクタ」


 わたしはドクタ・カツラギを止めた。ヴィーが眼だけで、呼んでいる事に気が付いたからだ。


「ヴィー?」

「ライフォード船長。ヴァルキリアの武装は?」


 魔女ヴィーだった。


「必要になるのか?」

「ええ。このままではね」


 それ以上の言葉は要らない。魔女ヴィーは、必要が無ければ出て来ない事は判っている。


「ヴァル。全機能制限解除(オール・リミッター・フリー全武装起動オール・ウエポンズ・フリー。ヴィー、航法を戦闘管制コンバットモードに切り替えろ」


 それだけ指示して、わたしはドクタ・カツラギを見る。


「ドクタ。今すぐこの宙域を離脱して跳躍をして下さい」

『えっ?』

「ここは戦闘宙域になります。話はカドゥラ星系で。わたしはそこに寄りますから、そこで待っていて下さい」

『ライフォード。それなら我々もいたほうが良いのではないか? 我々の船にも武装はあるぞ』


 溜め息がわたしの口から出てしまった。


「ドクタ。はっきり言いましょう。あなた達は足手まといなんです。わたしだけの方がやりやすいんです」


 わたしの口調に何を見たのか、ドクタ・カツラギは素直に頷いてモニターから消えた。


「ヴィー、余裕は?」

「もうすぐよ。ライフォード船長」


 ほとんどのトレイダーは、自衛手段として船に連合軍の駆逐艦並みの武装を施している。それは積荷を守るために必要であり、時として海賊を撃退してきた。

 ヴァルキリアにも武装は施している。連合軍の巡航艦の主砲三〇センチプラズマ粒子砲二門、対宙迎撃ファランクス、そしてミサイル発射管一二門があるぐらいだった。

 あとは、ヴァルキリアの船速を活かしての一撃離脱。それがわたしの基本戦術だった。

 ほどなく、三隻の光点が航宙レーダーから消えていた。それと同時に新たな光点が三つ灯る。


「熱分布、船影……ライブラリィ確認……ラドリア級巡航艦!」

「まさか。なぜ連合軍が、こんな所に」


 わたし達の航路は定期航路から外れている。

 だが、この近辺で海賊が出たとは聞いた事が無い。海賊専門の強襲巡航艦が出てくる場所ではないはずだ。


「高エネルギー弾接近! 船長!」


 魔女ヴィーの声が甲高くなった。しかし、わたしは船を動かさずに、そのままにしていた。これは威嚇射撃、次は当てるぞ。その意味にしかならない。

 思った通りエネルギー弾は、ヴァルキリアの船体を掠めて通り過ぎた。


「船長。通信が……」


 ほとんど海賊相手の戦闘行動だった。


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