はじめてのせんめつ
俺がみんなに飯をおごってから一週間がたった。
あの後、カレンはリョウから決闘の記憶を抜き取っていた。
奴が覚えているのは俺に決闘を申し込んだところまでで、その勝敗についてなにも思い出せないようだ。取り巻きであるハーレム達の戯言を信じ、俺が卑怯な手段で決闘に勝利したと勘違いしている。
「そうだ、奴隷商狩りに行こう。」
この世界でも奴隷は禁止されている。
しかし、地球より警備が緩いので法律はあってないようなものだ。
「どこに行くの?」
俺が出かける準備、といっても闇衣を出すだけだが、をしているとカレンが俺の部屋に入ってきた。
言い忘れていたが、俺は今自宅にいる。今日は学校が休みだからだ。
カレンはあれから一度も魔王城に帰っていない。
理由を聞くと、どうせ僕の仕事はないから大丈夫だよ、とのこと。
「ちょっと、奴隷商狩り行ってくる。」
最後にこの仮面を着けてっと。
俺はカレンの質問に答えながら、闇衣で作った黒くのっぺらとした仮面を着ける。不審者よりもさらに不気味な雰囲気となってしまったが、それが俺の目的なので気にしない。
「よく考えたら、ちゃんと金を稼ぐ必要がないからな」
俺はチートだ。だったら偽善者のごとく、悪党から金を巻き上げようじゃないか。
言葉には出さなかったが、カレンには考えが伝わったらしい。
「まあ、ほどほどにね」
苦笑いを浮かべつつ、俺の部屋を出て行った。
「転移」
そして準備を終えた俺も部屋から消えた。
ここが、奴隷市ねぇ。
俺の視界には鎖で繋がれた人たちと、野放しにされている豚達がいた。
おかしいな、人間と豚の立場が逆転しているじゃないか。豚は小屋にでもほうりこんでおけよ。
「コイツはいくらだ?」
豚たちは何かを話しあっているが、どうでもいい。
ここにいても胸糞悪いだけだ。
「ええ、皆様はじめまして。今からアナタ方のような豚どもを駆除させていただきます」
俺は風魔法の応用で会場全体に声が届くようにしてから、挨拶として舞台上にいる役者のごとく甲斐甲斐しく頭を下げた。
やはり、挨拶は大事だ。趣旨を伝えずに勘違いされても困るからな。
俺は挨拶と同時に結界を張る。今回は俺の許可なく結界の外に出れないようにする、いわば檻としてこの場を支配するためだ。
豚たちはやっと俺の言葉を理解しだしたようで、ブヒブヒッと騒ぎだした。
「誰だか知らんがふざけるなよきさグチャッ」
いっけね、豚が鳴きながら近づいてきたから思わず叩き潰しちまった。
こりゃ、金の回収も難しいかな?まあ、いっか。
「まだまだ、沢山いるからなァ」
俺の言葉が終わると同時に叫びだした豚ども。
うっせぇなぁ。
俺の体のあちこちから、大きさも様々な筒が生えてきた。
「さあ、皆様、今宵も楽しんでください!レッツパーティー!!!」
同時に俺の体から生えてきた筒、いや銃口が一斉に火を噴いた。
「グペッ」
さすが豚だけあって奇声をあげて死んだな。
豚にトドメをさした俺は周りを見渡した。
俺の視界に映っていたのは、鎖に繋がれた人たちと大量にあるさっきまで動いていた肉の塊。
「心配しなくても、貴方方に危害を加える気はありませんよ。」
俺は安心させる為に微笑んだ。仮面の存在を忘れていたorz。
「お前は何者なんだ?」
すっかり怯えてしまった奴隷の男が質問してきた。
「何者?別に何者でもないよ。ただ金がほしかったからだし。」
後はテンプレにこの世界の主人公の回収ぐらいかな?
「それだけの理由で、これだけの人間を殺したのか?」
奴隷の男は化け物を見るような眼だ。明らかに気味悪がられている。
「俺は人間を人間と見ない奴は、人間だと思ってないよ。もちろん俺も含めてね。それよりも」
俺は奴隷たちの鎖を破壊していった。
「他に奴隷がいるならそこまで連れて行ってくれないかな?」
その代わりに全員を解放するからさ。と俺は続けた。
「ここが、ねぇ」
俺は最初に俺に話しかけてきた奴隷の男の案内で奴隷の保管庫にいた。
監獄なんて甘いものではない。汚くじめじめして肥溜めのような場所だった。とても人間がいれるような場所ではない。そして、
「ああ?なんだテメェ?」
男数人で一人の女の子を囲んでいたからだ。
「それより、なんで商品が鎖はずしてんの?これはまた教育しないとな~。」
そう言って下品な笑い声をあげる男たち。
とりあえず俺は持っていた刀で、裸だった男たちの勲章を斬り落とした。
同じ男として、後ろにいた奴隷の男も顔をしかめるが無理はない。俺も仮面の中では顔をしかめているから。
男として絶対経験したくない体験だもの。男なら仕方ないと思うぜ?
「これで、二度と出来ないなぁ?」
そう言って俺は叫び声をあげている男を斬り捨てた。
これでここに捕まっていた奴隷は全員解放したかな?
「これで全員か?」
俺は確認のため、奴隷、いや今は違うな。元奴隷の男に聞いた。
「ああ、ここ以外に俺は連れて来られなかった。」
・・・正確にはコイツ以外は怯えきって話になんないんだよね。
俺はひそかにため息をついた。
「え~と、皆さん自分の帰りたい場所を思い浮かべてください。俺が魔法で飛ばしますので。」
奴隷からは疑問の声が上がったが、俺が軽めの殺気をぶつけると静かになってくれた。
怯えながらも元奴隷の皆さんは目を閉じた。
そして皆さんの体は光って消えていった。
「あれ?」
俺の前にはさっき襲われていた女の子だけが残っていた。
「ごめん。魔法に失敗したみたいだ。もう一回飛ばすからまた思い浮かべてくれないか?」
俺は手を前で合わせつつ、魔法のどこに構成の不備があったかを考える。
「・・・・・・ないよ。」
え?なんか言った?考え事していたから聞き取れなかったんだが、
「だから、僕に帰る家はないよ。僕は家族に売られてここにいるんだから。」
だからお兄さんのせいじゃないよ。と無理に微笑んでくれる女の子。
俺は無意識で女の子の頭に手を置いていた。髪はサラサラしており気持ちいい。
「無理して笑う必要はないぞ。俺たちはこれから家族だしな。」
そんな驚いた顔するな。恥ずかしいから。
俺が、これはフラグ構築しているんじゃね?と思いつつ女の子の頭をなでていると、
「ふ、」
ふ?
「ふえええぇぇぇぇぇぇん」
女の子は泣きだした。それはもう大号泣だ。
「ど、どうした?俺が家族になるのは嫌なのか?」
俺は女の子を泣かした経験が少なかったから思わずアタフタしてしまった。
「そ、そうじゃないの。僕なんかの家族になってくれるなんて嬉しくて。」
そう言って今度は心からの満面の笑みを見せてくれた女の子。
よかった。そういう顔も出来るのな。
俺が嫌われたのかと思ったぜ。と内心安堵していると、
「あ、そうだ俺まだ仕事残ってるんだった。」
仕事は時間かかりそうだったから先に奴隷を解放しておこうと思ったんだった。
「仕事?まだ何かするの?」
女の子は首をかしげた。
「まだ、後片付けが少しな。悪いな。これからお前を俺の部屋に飛ばすから、そこで待っててくれ。」
女の子が頷いたのを見て、俺は彼女を転移させた。
おお、やっぱり貴族だけあって金を持ってるな。
俺は死体漁りをしていた。目的はもちろん金をもらうためだ。
「なんだ、これは!?」
そんな叫び声が聞こえた。声で予想出来たが確認のため、扉のほうを見る。
「君がやったのか!?」
そこには予想通りリョウが立っていた。
内心、またお前かよ。と思ったのは内緒だ。
「だったらなんだ?」
俺の顔に自然と浮かぶ薄っぺらい笑み。
ほんと、俺はコイツが嫌いなんだなと改めて自覚してしまった。
「なんでこんな事をしたんだ!」
そう言ってリョウは決闘の時と同じように突っ込んできた。
あの時と違ってそんな単調な攻撃食らう気はないぞ。
俺は持っていた刀を剣に力いっぱい叩きつける。
俺の刀も後ろに弾かれるが問題ない、予想通りだ。
俺はそのまま勢いを殺さないように一回転した。
そして、驚いた顔を浮かべるリョウの、体のバランスをとる為前に出した左腕を斬り落とす。
リョウはバランスを崩し、剣に持っていかれるように後ろに転んだ。
「ガ、ガァァァァ!!」
そして、左腕があった場所を押さえ悶えだした。
「お前じゃ俺には勝てない。永遠にだ。」
そして俺は転移した。
「正座。」
帰ってきた俺を待っていたのカレンの冷たい言葉だった。
「は?なんでだ?」
「いいから、正座!!」
「はい!!!」
俺は急いで正座をした。正直返り血を浴びまくったから、すぐにでもシャワーを浴びたいのだが反論を許してくれる雰囲気ではなかった。
「あの子はなに?せめて家族にするなら連絡くらいしてよ。」
カレンは後ろの扉を指さしていた。そこには、先ほどの女の子がこちらを覗いていた。
「まあ、それにも困ったけど汚れていていたから一緒にお風呂に行ったの。」
ダニィ!?カレンと風呂に入っただと!?それはうらやまけしからん。
「そしたら・・・いてたのよ。」
カレンは顔を真っ赤にしていた。
「だから、ピーがぶら下げってたの!!」
・・・え?今放送禁止用語が入った気がしたんだが、まあそんな事は置いといて
嘘だろ!?女の子なのに男の勲章がついていただと?
俺が真意を確かめるべく、女の子のほうを見ると、
「?僕は男の子だよ?それがどうしたの、お兄ちゃん?」
俺の後ろに雷が落ちた。
もちろん例えだが、そう表現出来るほど驚いた。
だってどこからどう見ても、可愛い女の子なのに・・・
これが巷で話題の男の娘か。
と俺が遠い目で世界の不条理に嘆いていると、
「どうしたの、お兄ちゃん?」
いつの間にか近づいていた女の子が下から覗き込んできた。
そういえば、
「まだ名乗ってなかったな。俺の名前はシオンだ。お前名前は?」
この子の名前を聞いてなかったのを、今更ながら思い出したので聞いてみた。
カレンが呆れたような顔をしているのは気にしたら負けだと思う。
「僕の名前はノアだよ。よろしくねシオンお兄ちゃん、カレンお姉ちゃん。」
やっぱりカレンの名前は知っていたみたいだな。
「うん、よろしくねノア。そ・れ・で」
カレンさんはノアには惚れ惚れするような笑顔を浮かべていたのに、俺に振り向いた時はなんでそんなに目が笑ってないんでしょうか?
「シ~オ~ン~?あんたが家族にしたのになんであんたは自己紹介すらしてないの?」
その後も説教は朝まで続いた。
まだ、夜は更けだしたばかりである。