学校と魔武器と、ときどき使い魔。前篇
「・・・すごく、大きいです」
ギルド登録した翌日、俺は学校の前にいた。今日からこの学校に転入するためだ。
ただ目の前にある建物が、学校ではなく城と説明されても気付かない気がするのは俺だけではないはずだ。
「校長室はこっちですから、また後で会いましょう」
アイリスはそう言って、ノエルを連れて行った。おそらく教室に向かったんだろう。
ここまできたら最後まで案内して欲しいが、彼女たちも学生としての本分を果たさなければならないので、諦めるしかない。
ちなみに、アイリスとノエルは俺と同じ年らしい。
アイリスはテンプレだから驚かなかったが、まさかどことなく大人びたノエルまで同い年とは思わなかった。
俺が二人の背中を見送っていると、ノエルが一瞬だけこちらを射抜いた。
なぜだか俺の頬を、一筋の冷や汗が流れていた。
「迷った」
まさか、この年になって、道に迷うとは思っていなかった。
広すぎんだよ。もう一時間以上歩き続けているんだぞ。
人に聞こうとしても、誰もいないしさ。
「あれ? 君どうしたのかな?」
後ろからきょぬーの美人さんが話しかけてきた。
「校長室に用事があるんですが・・・道に迷ってしまいまして」
俺が頭をかきながらそう伝える。
出来れば、案内を頼みたいんだが、いかがなものでしょうか?
「確かに、この学校広いしね。そうだ、私も校長室に用事があるし、一緒に行かないかな?」
俺の思いが通じたのか、きゅぬーさんはそう言ってくれた。
こんな美人さんと歩けるとは役得だ。元いた世界では亮が全部掻っ攫っっていたから、機会が全くと言っていいほどなかったんだ。
「ええ、お願いします」
心の中ではグフフフフッと下心が暴走しかけているが、紳士な俺は表情には出さない。
ようやく道案内が頼めて、テンションが暴走状態の俺は、きょぬーさんが苦笑いしていた事に気付いていなかった。
校長室の前に着いた。
いかにも部屋の主は偉い人ですよ、とでも言いそうな扉が静かに鎮座している。
きょぬーさんは扉に手をかけ、一気に扉を開けた。
「・・・あれ?」
扉の奥には豪華そうな机に社長が座っていそうな椅子。そして、ふかふかのソファーがあった。
しかし、どうやら部屋の主は不在だったらしい、部屋は無人だった。
俺が部屋をきょろきょろと観察していると、きょぬーさんは部屋の奥に進み椅子に腰を下ろした。
「改めて、ようこそ、我がバラマンディ学園へ、私が校長のイアンだよ」
……え?俺の耳が腐り落ちてなければ、きょぬーさんが校長って言ったか?
「そんな、驚く必要もないでしょ。私の事を知ってたんじゃないの? さっきからいろいろ調べていたじゃない」
いや、知らなかったです。俺が気にしていたのは、魔力の質が普通と違っていたからだし。
「アイツまた仕事しなかったわね。そろそろ給料を減らそうかしら?」
そういってため息をつくきょぬーさん。
「私の魔力の質が普通と違うのは私がエルフだからよ」
ほら、と言ってきょぬーさんは髪をかきあげて耳を見せてくれた。
確かに、耳はとがっているな。
「ついでに言っておくが、私は人の考えが簡単にだが読めるからね」
……マジで?じゃあ今まで考えていた事は――
「当然、聞こえているよ」
苦笑いしながら少し赤面し、俺に死刑宣告をしてくれたきょぬーさん。同時に崩れ落ちる俺。俺が社会的に死んだ瞬間だった。
「遅れましたー。あれ? なにこの状況?」
部屋に誰か入ってきた。
「昨日ぶりだな、クソガキ」
昨日あったギルマスが、入口に立っていた。
「……なんでいるの?」
「なんでって、モノクが君の担任だからだよ」
俺の疑問にきょぬーさんが教えてくれた。
「いい加減、先生と呼んでくれないかな、シオン君」
イアン先生はニヤニヤ笑いながら、俺に命令を下す。
あの顔は読心術のない俺でも分かる。絶対、楽しんでやがる。
「また、人の心を呼んだのかよ。それやめろって言っただろ、メンドクセェ」
ギルマスはあくびを噛み殺しながらそう言った。
「そ、そんな事はしていないぞ。な、なあ、シオン君」
イアン先生は顔を真っ赤にしながらそう言った。
……わかりやすいなぁ。
「? ま、いいや。早く教室行くぞ、シオン……ああ、メンドクセェ」
不良教師であるギルマスが部屋を出て行ったので、急いでついていった。
「ああ、そうだ。忘れていた」
ギルマスは立ち止まった。
「お前が銀を使う事は隠していてほしいんだが、他の属性は使えるのか?」
なんだそんな事か。また面倒に巻き込まれるのかと身構えたじゃねぇか。
「使えるよ。だから、銀は使わないようにするさ」
ジジイは全属性を使えるようにしているはずだしな。
「そうか。それじゃここが俺の教室だから、合図あるまで待機な」
ギルマスはそう言って、教室に入っていた。
「席付け、ガキども」
ギルマスの一言で、生徒は一瞬で席に着いた。
どうでもいいが、あの態度でクラスの担任なのかよ。
「メンドクセェが今日も転校生が来ているぞ」
「先生、転校生は男ですか、女ですか!?」
生徒の一人が突然立ち上がり、大きな声で質問した。
「残念だったな、男だ」
ギルマスの言葉と同時に崩れ落ちる男子生徒。
きっと彼は、クラスのいじられキャラに違いない。
「メンドクセェから、質問は本人にしろ。それじゃ、入れ」
ギルマスの合図が聞こえたので俺も教室に入った。
「フツメンね」「隊長! 彼からリア充反応がします」「ダニィ!? 聖戦の準備をしろ!」「昨日の奴じゃない!!」「シオンさーん!」「ウホッいい男」「や ら な い か ?」
いろいろ言いたい事があるが、最後の奴、俺はノンケだ。
「はじめまして、俺の名前はシオンって言います。ナカヨクシテネ』
俺の言葉で静まりかえる教室。
あれ、やりすぎたかな?
「お前の席は窓際の一番後ろだ。今日は、魔武器生成と使い魔召喚だからな。遅刻すんなよ」
ギルマスがそう言うと、生徒たちはそそくさと動き出した。
「シオンさん、一緒に行きましょう?」
俺は教室に倒れこんだ人を無視して、アイリス達と闘技場に歩き出した。
「それじゃ、魔武器と使い魔を呼べ。魔武器は各自に渡した魔石から、使い魔は後ろの魔法陣で呼べるから、先に魔武器からやれ。俺は何か起こるまで寝てるからな」
そう早口で言って、ギルマスは部屋の端で椅子に座り、いびきをかき始めた。
「ちょっと、待て」
俺は二人を引きとめた。
「この魔石は純度が低いから、純度が高いこれで創ろうぜ」
おれは持っていた純度百パーセントの魔石を二人に渡した。
「助かる。どこでこれを?」
ノエルは訝しげな視線をこちらに向けてきた。
「昨日ギルド行った時に貰っただけだ」
ほんとはさっき創ったんだけどな。
そんな事は言えるはずもないので黙っておく。
ノエルはなおも疑いの目を向けていたが
「そんな事より早く作りましょうよ」
アイリスの一言により俺は解放された。
「一度別れて作ろうぜ。そっちのほうが面白みが増すだろ?」
「それもそうですね。一度別れましょうか」
俺の提案にアイリスが同意した為、一度バラける事にした。
それじゃ、中の事は見えない、聞こえない、感じない結界を張ってと。準備完了だな。
やり方がいまいち分かんねえけど、とりあえず王道に魔石に魔力でも流してみる?
とりあえず魔石に魔力を流してみると、黒い光が結界を塗り潰した。
光が止むと俺の服装は、学校の制服から黒のロングコートに黒のズボンといった黒ずくめに変わっていた。
「闇衣?」
俺の頭に浮かんだ言葉が口から出た。
すると、闇衣は鈍く光り、俺の頭に使い方が流れてきた。
「なるほどな」
闇衣の能力は魔力の物質化と道具の収納、魔力を込めた部分の硬質化。あ、部分的に顕現する事も可能なのか。
あんまりチートじゃないな。安心したぜ。
俺は闇衣をしまい、結界を解除した。
「あ、見つけたぞ」
後ろから肩を掴まれた。
「早くお嬢様の元まで行くぞ」
後ろにいたのは、ノエルだった。そのまま俺はノエルに引っ張られていったのであった。
「どこ行ってたんですか、シオンさん?」
アイリスと合流すると、そんな事を聞かれた。
「お嬢様、コイツ認識をずらす結界を張っていたようですよ」
ノエルが俺の代わりにアイリスの疑問に答えた。
「あれ?俺、ノエルに結界張ってたこと言ったっけ?」
確か言った覚えないんだけど、
「バカか?ああ、すまんバカだったな。あれだけの魔力が込められていれば、魔力の残滓でも分かる奴には分かる」
なるほど、だから気付いたのか。
そこまで考えてなかったな。だからそんな目で見てくんじゃねーよ。感じゲフンゲフンッ
「それで、お前らはどんな魔武器だったんだ?」
「まずは、隠していたお前から言うのが筋だろうが」
俺が質問すると、ノエルに指摘された。たしかにそうだなと思いつつも、
「俺の魔武器は闇衣。能力は魔力の物質化だ」
そう言って、俺は手にだけ闇衣を出した。知らない奴からしたら、ただの手袋にしか見えないとは思うけど、まあ紹介だしな。
「私の魔武器は、トリスと言います」
そう言って、アイリスは金に輝く弓を出した。
「能力は拡散と、操作です」
へぇ、拡散で矢の数を増やし、操作で矢を操れるわけだな。
「私の武器はこれですよ。お嬢様」
ノエルはいつのまにか、鎧を着ていた。
おそらくこの鎧がノエルの魔武器なのだろう。
「名前はネメア。能力は運動能力の強化と魔法の無効化です」
これはまた、かなり面倒な能力だな。
どの程度まで無効に出来るかは知らないが、魔法での攻撃はほとんど効かないと判断しても問題ないだろう。
運動能力だけはずば抜けて高いノエル相手に魔法なしは、きつすぎるハンデだ。
「それじゃ、魔武器の簡単な紹介も終わったところですし、使い魔を呼びに行きましょうか。」
そのまま、アイリスは魔方陣の列に向けて歩き出した
俺とノエルはアイリスの言葉に頷いて、後ろをついて行った。