天敵登場
遂に来てしまった。
アレを止める事はチートな俺でも難しい。
それだけアイツは凄まじい敵だという事だ。
「来週から期末テストだからな。・・・テスト作るのメンドクセェ」
そう、この悪夢の選別がやって来てしまった。
クラスの皆も、
「テストなんか都市伝説だろ?」「アハッ、アハハハハハ」「神は言っている、ここで死ぬ運命だと」
このような有り様だ。
ついでに最後のセリフはノエルによるものだ。
ノエルは勉強が出来ない。
あんなに真面目に見えるのに、勉強出来ない事を知った時は驚いたものだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。テストってなあに?」
俺の後ろの席にはノアが座っていた。
・・・まあ、ノアは学校自体が初めてだから、仕方ないか。
「テストは、今までに勉強した事をどこまで覚えているかを確認する事だよ。」
カレンがノアに簡単に説明した。
俺としては、まだ言いたい事があるが、まあこの説明に間違いはないだろう。
「今までの授業?僕話聞いてなかったよ?」
ノアは首を傾げる。可愛く見えるが、悲しいかな、これで男だなんて
「え?嘘でしょ?」
ノアの教育担当の魔王は確認の為ノートを開いた。
今更だが、魔王に世話される人間なんて、珍しいよね。
カレンはノアのノートを見て、絶句した。
固まってしまったカレンの手からノートをとり、俺もノートを見た。
ノートには、落書きといっても過言ではないだろうものしか書かれていなかった。
さすがに俺も驚いて、声も出ない。
「シオンさんも、お困りのようですね。」
俺とカレンがそろって固まっていると、アイリスが現れた。
「私も、ノエルのことで困っておりまして、よろしければ勉強会をしませんか?」
アイリスの言葉に最初に反応したのは、カレンだった。
グリンと首を回し、アイリスを見る。
「それは、いい考えだね!ボク達も参加するよ!」
カレンの勢いに俺は逆らう事が出来なかった。
「なんで、俺の部屋?」
俺の部屋には、アイリスとノエル、レイトと俺の家族全員という、いつものメンバーがそろっていた。
「シオンさんの部屋が、一番大きいじゃないですか。」
「それに、お前なら空間広げられるから、さほど困らんだろ?」
コイツ、何言ってんの?という顔をするアイリスとノエル。
少なくとも、ノエルに言われる事ではないと思う。
「まぁまぁ、落ち着いて」
俺がノエルと決着をつける必要性を考えていると、レイトが鞄を下ろしながら苦笑いを浮かべていた。
「それに、そんな時間もないしね。」
カレンは未だにノアのノートがショックだったのか、焦っているように感じる。
そして、特に合図もなく、勉強会は始まった。
「だから、ここはこうなるんですよ。」
アイリスの説明は、俺には分かりやすく伝わったが、
「なるほど、全くわからん」
アイリスの生徒であるノエルは理解出来なかったようだ。
ついでに、アイリスとレイトがノエルを、俺とカレンがノアにそれぞれ教えていた。
「ここは、この方程式を使うんだよ」
カレンの教えにも熱が入っていた。ノアの成績がそんなに心配かね〜
一方、俺は漫画を読んでいた。この漫画、意外と面白いな。
「シオンは、勉強しないのかい?」
この漫画は買いだな、と俺が考えていると、レイトに注意された。
「いや、正直この程度なら余裕だろ。地球のテストと比べると、ぬるゲーじゃん」
・・・しまった。また、本音が出てしまった。
周りを確認すると、案の定カレンと状況が飲み込めていないノア以外は、驚いた表情を浮かべ固まっていた。
「ほら、手を動かせよ」
俺の注意は裏目に出てしまったようだ。
正気に戻った三人は叫び声をあげた。
あまりの声の大きさに、ノアが耳を押さえているじゃないか。
「地球ってまさか僕がいた世界のあの地球かい?」
レイトが慌てながらも、的確に疑問を解消するための質問をした。
説明するの、メンドクセェな〜
俺はいやいやながらも、こちらの世界に来た経緯を説明した。
「なんで、そんな大事な事を黙っていたんですか!?」
説明が終わると、アイリスの絶叫にも似た声が部屋に響き渡る。
なんでと言われても、
「初対面で信じてもらえると思わなかったし、それ以降は聞かれなかったし」
説明するのがメンドクサい、が本音だがそれは言わなかった。
「それは、その、そうですが…」
アイリスの勢いは弱まっていった。
「それより、お前らが居た地球という世界は、今の内容よりテストが難しかったのか?」
代わりに、今度はノエルが勢いに乗り出した。
「魔法は無かったから、魔法学は無かったけどね」
レイトが俺の代わりに答えてくれた。
その答えに、ノエルは安堵したような顔をした。
「こっちの世界に生まれて良かった〜」
とまでいう始末だ。お前は勉強しろよ。
「それなら、魔法学は勉強しないといけないんじゃないですか?」
アイリスが当然の疑問をなぎかけた。
「俺は転生の際に、魔法学の知識も入れてもらったから、勉強する必要もないよ」
強いて言うなら、この世界の歴史ぐらいだが、チートスペックのおかげで丸暗記出来たしな。
だから、俺はレイトと違って勉強する必要もないんだよね。
俺は、さっきとは違う漫画を手に取る。
「だったら、ノアの勉強の教えてよ!」
そして、カレンに漫画を取り上げられてしまった。
俺は仕方なく、魔王の言う事を聞いてやることにした。
「?」
ノアは首を傾げる。俺は密かに萌えてしまった。
だが、男だ。
そして、俺は頭の弱い弟に勉強を教えるのであった。
「ああ、悪いな。これから、こいつらを借りるぞ。」
俺は、立ち上がった。
そして、俺の弟子達も立ち上がる。
前話から、ずっと俺はこいつらを同じ内容で鍛えていたからだ。
その時間が来た。
「私一人にノエルを任せるつもりですか!?」
俺の言動に、アイリスは涙目になった。
そんなに絶望するなよ、襲っちゃうぞ?
「心配するな、今日はもう俺たちは勉強会に参加出来ないから。」
正確には、俺以外が、だけどな。
今度は、俺の言葉にノエルが興味を持ったようだ。
どうせ、勉強会が終わるからだろう。
「そんなに、修行がきついのか?」
そっちか。そう言えば、ノエルは修行好きだったな。
あのルドラさんの修行を笑顔で受けていたしな。
ちなみに、俺もルドラさんの修行を受けたが、久しぶりに修行で死ぬかと思った。
「だったら、お前も来ないか?」
俺は修行マニアに対して誘いの言葉を投げかけた。
「私も行きます!」
結局俺たちは全員で、部屋を移動した。
そして、俺以外は全員倒れ伏した。
まあ、しょうがないよね。最後は俺とひたすら戦闘だからな。
ノエルも、鬼ごっこを終えるまでは元気だったんだけどな~。
俺は、みんなを転移で俺の部屋に運んだ。
その後、キッチンに戻り、俺は全員の飯を作ってやる。
勉強会をしてすぐ修行をしたから、まだ飯を食ってないんだよね。
腹減ったし、みんなはまだ動けないし、
「シオン~。おなかすいた~」
前回もそうだったから来るとは思っていたが、カレンの料理は殺人兵器だし。
一度作ってもらったが、不老不死のはずなのに死にかけたしな。
だから、カレンが料理する事は全面的に禁止した。
そこらへんを考慮すると、結局俺が作るしかないというわけだ。
まあ、しょうがないよな。
こんな調子で一週間はすぐに過ぎていった。




