1-3 発見
木南真哉には彼女がいる。
名前は木内真子といい、真哉と同じ大学だった4年生だ。真哉の在学時に友人の紹介で1年後輩の真子と知り合い、付き合うようになった。
真子はボーイッシュな美少女だ。ギャルっぽい女性が嫌いな真哉にはどストライクな女の子だった。しかし世の中完全に理想通りの女性などそういるものではない。
「スポーツとか好きですか?」
見た目通り、という言葉通りに真子は空手と少林寺拳法の有段者であり、スポーツ観戦も好きで野球やサッカーの他に相撲やゴルフなど様々なジャンルを超えた超アクティブな女の子だった。それ故にあまり女の子らしい部分が出ずに男性とのお付き合いをしたことがなかったらしい。
「うん、好きだよ」
思わずそう答えてしまった真哉だったが、小学生時代に地元の野球チームに所属してはいたがベンチウォーマーだったし、中学では一応体育会系の卓球部であったが地区の大会では全初戦敗退の実力。高校では広義でのアウトドアである天文部であったが、実際に星を観察するのは年に数回だ。テレビでは野球やサッカーは見るが、実際に球場に足を運んだのは新聞屋からチケットを貰った時だけである。
嫌いではない。だから好きだと軽く考えていたのだが、その後お付き合いをしていきながら彼女のインドア派に対する正直な話を聞いて怖くなった。
「あんなゲームしている人たちってなんか可哀想だよね。見にくい画面通して遊んで目を悪くして何が楽しいんだか。あんなので経験値溜めても生活の経験値はたまらないのにね」
「う、うん。そう、だね」
そこまで毛嫌いしなくてもいいのにとも思うのだが、あまりの怖さに真哉はその理由を聞けないでいた。
その頃の真哉は家でネットゲームやマンガを読みふける生活をしていただけに、真子が家に来るときは全てを押し入れに仕舞い込むという作業を繰り返していた。
そして現在。
学年通りに1年早く真哉が卒業、就職をした。真子もこの夏に就職先が決まり、この前おめでとうパーティーをしたばかりだ。
「今度いつ会える?」
「ん? そうだな……」
「29日は? その日だともしかしたら天楽の優勝が決まるかもし――」
「あー、ごめん。……その日は先約があるんだ。勉強会があって」
「そっか。なら仕方ないね」
「ごめん。……じゃあ、次の日は?」
「午後からなら空いてるよ。……優勝決まるかもしれないけどもしかしたら延びるかもしれないもんね。じゃあ天楽の試合観に行く?」
「うん、そうしよう」
みたいなやり取りがあって、その29日が今日であり、真哉は真子に内緒でこの生ゲーのイベントに来ていた。
こういった屋内でのパズルだのクイズだのゲームだのそういったシロモノは真子の嫌いな代表例である。真哉は今までも内緒で参加していた。
「――それができたのは……3班と7班です!」
見事謎を解き明かして脱出成功した2チームから湧き上がる歓声とその栄誉をたたえる拍手の嵐。
「いやー、これはわからんわ」
真哉は完敗宣言しかできなかった。そして脱出を成功させた2チームを遠目から見て、気づいた。
「え……真子?」
前の人の頭が邪魔で一瞬しか見えなかったが、今まで何度も見てきた見慣れた顔を確認したような気がした。瞬時に見つかるとマズイという思いと反面どうしてこのようなイベントにいるのかという疑問。そして見間違いではないかという推論。それを確かめるため席を立って見ようとして……その彼女と偶然目が合った。
彼女も瞬時に先程までの笑顔が凍りつき一気に現実世界へと戻された。そして2人は同時に見間違いなどではなく本物だと確信した。
その後イベントはアンケート用紙が配られ、記載したらそのまま自由解散だ。
なぜ、どうして、どうしよう、自問と自問と自問が混ざってろくなアンケートの回答もできずに真哉は時が過ぎるのを待った。
「まーくん」
現在、真哉のことをまーくんというあだ名で呼ぶのは日本広しとは言えど1人しかいない。
「……真子だよな」
「うん」
その次に口が開きかけた所を真哉は遮った。
「あ、待って待って。言いたいことはわかる。とりあえず近くに店があるからそこで話そう」
そして真子の手を引いて会場を後にした。