黄の意外な交渉術
「いったい何の用かな勇者様?」
「綾香に魔法をかけた人がいるはずだ。その人を出してもらう」
やっぱりあの時のぞいていたのは勇者の仲間だったのか。さてそれじゃあどうしようかな。素直に開放するなんて選択肢は最初からないけれど明日の試合に出てもらわないと困る。会長たちが実力でなく不正を起こしたなんて思われたくはない。………そうだな上げて落としてみようか。
「彼女を取り込んだのは僕だよ。《黒札結界・回想幻日》で彼女は僕の記憶を見せられているのさ」
「なんだって!?それじゃあすぐに開放してくれ!!」
「いいよ、すぐに開放しようか」
「透っ!?」
悠はさすがに驚くか。僕のことを知っていればこいつを相手にすぐ開放するなんて思わないからな。
「ああ、頼むよ」
「………これで彼女は目を覚ましたし、何を見ていたかも覚えていないよ」
「ありがとう雪白君」
「いや別に感謝する必要はないよ。僕はやらなくてはいけないことをしただけだからね」
「いや、感謝を受け取ってくれ。綾香を起こしてくれて本当にありがとう」
「そうかい?まあ君がそういうなら受け取っておこうか。それじゃあ話し合いを盗聴しようとしたその人を捕まえに行こうか」
「えっ?」
勇者の顔が何を言っているのかわからないと語っている。まさか僕がただで解放するなんて思っていたんだろうか。甘すぎて気分が悪いね。
「ちょっと待ってくれ。どういうことだい?」
「しょうがないだろう。僕の術式を受けたということはこの国と連合、そして王国の3つの国から情報を盗もうとしたということだ。そんな人物を見逃すわけにはいかないことぐらい君にもわかるだろう?」
悠の奴、それでこそ透だと言わんばかりに満足げな顔をしてやがる。いったい僕を何だと思っているんだ。
「それは………でも!!」
「悪いけどこればかりはどうしようも」
「待ってほしい」
「なんですか?雷さん」
「今回のことで会長が捕まる必要はない。なぜなら彼女は勇者の仲間としてあの話し合いで盗聴などをされないか、君の術式をその身を犠牲にして確かめたのだから。むしろ彼女に感謝状を贈るべき」
なるほど、そうくるか。
「しかしその人はそれだけの技量があるのですか?普通の学生より少しできる程度じゃあ確認の意味を成しませんよ」
「それは明日の大会であなたが確認してみるといい。彼女がどうして勇者と一緒にいるかをきっと理解できる」
………この人はもしかして。しょうがない、雷さんに免じてこの程度で終わらせようか。
「わかりました。そのことについては明日に確認するとしましょう。それでは僕たちはこれから明日のために会議をするのでこれで失礼させていただきます」
「ああ、雪白君もわかってくれてうれしいよ」
うるせえ、テメエは何もしてないだろうが。僕が何をわかったていうんだ。そんなことより雷さんをにらんでいる3人をどうにかしろよ。
「ああー、疲れた」
一高の宿に帰り会議室につくなり僕はソファに倒れこんだ。いや本当に今日は疲れた。もう本当なら何もしたくないけど明日のことを話しておかなければいけない。
「ここはあなたの家ではないのですよ透。あなたはもう少し礼儀というものを学ぶべきではありませんか?学校でそのようなことを習わなかったんですか?」
「習ったけど今は使う気がないなー。それで会長、明日の試合について何か策はあるんですか?」
「そうね、今のところ私と亮介の上級魔法を開始と同時に放つぐらいしか思いつかないわね」
「それも効果が薄そうですけどね。なんなら僕の聖剣を貸しましょうか?『収納の聖剣』とか意外と便利ですよ。割と誰でも使えますし」
「いえ、できれば今の私たちの力で勝ちたいのよ。そうでなければ学内最強の組織と名乗れないわ」
これがプライドってやつなのかな?まあそういうことならば仕方がない。
「わかりました。それじゃあ、ここにいる全員で対策を考えましょう。悠も手伝ってくれ」
「しょうがないですね。ここの皆さんには借りがありますからこれくらいは手伝いましょう」
そうして僕らの話し合いは夜遅くまで続いていった。